ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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トゥ・ビー・オア・ノット・トゥ・ビー

「無理に決まってるだろう」

 

航海部員を代表して島が言った。〈ヤマト〉第二艦橋。主な士官が集まって、部屋中央の立体プロジェクターを囲んでいる。

 

投影されているのはふたつの球だ。大きな玉が冥王星。その半分の小玉がカロン。このふたつが連星として互いをまわり合っている。さらにこのふたつのまわりをごく小さな衛星がかつていくつかまわっていたが、ガミラスによってすべて砕かれ地球に投げる遊星にされてしまって今はもうないという。

 

「〈ヤマト〉はすぐにも太陽系を出るべきです。〈スタンレー〉の攻略には反対です」

 

プロジェクターの像をはさんで、航海部員と戦闘部員が向き合うようになっていた。古代も会議に参加はしている。その横には加藤がいるが、古代のことは無視したままで挨拶すらしてこない。

 

島は続ける。「〈ヤマト〉の任務は敵と戦うことでなく、イスカンダルからコスモクリーナーを持ち帰ることであるはずです。一日も早く戻らなければならないのに、日程からもう二週間も遅れている。これ以上の遅れを出すべきではありません」

 

「けどな」と南部が言う。「日程なんて、一方的に政府が組んで押し付けてきただけのもんだろ。マゼランまで何があるかわからないのに、日程だから何日までにどこまで行こうなんて言うのは……」

 

「そんなつもりで言ってるんじゃない」

 

とまた島が言う。会議はおおむね、このふたりの言い争いに終始するかたちになっていた。言わば〈航海班長〉である島と、〈戦闘班長〉である南部。古代などはまったく口を挟む余地もない。

 

「『九ヶ月で戻らなければ』とおれが言うのは、決してそれが日程だからなんかじゃない。子供の命を救うため旅を急ごうと言ってるんだ!」

 

「そうです」森が発言した。船の運航管理部員としてここは日程優先らしい。「『人類滅亡まで一年』と言うのは、『すべての子供が白血病に侵されることになるまでが一年』という意味でもあるのを忘れてはいけません。放射能はまず幼い子供から先に命を奪っていきます。この〈ヤマト〉が十三ヶ月で戻っても、今いる地球の人々はほとんど生きてはいるでしょう。しかし幼い子供はみんな、体が癌に蝕まれ、余命わずかとなっています。その後にコスモクリーナーで水を浄化しても遅いのです。我々は手遅れにならないうちに帰還せねばなりません」

 

南部が言う。「そんなことはわかっているよ」

 

「わかってるって、何をどうわかってるんだ」と太田が口を出した。「まさか『一年』と言うのなら、364日で帰ればいいなんて言うんじゃないでしょうね。〈ヤマト〉が一日遅れるごとに、地球の子供が何十万と死んでくことになるんですよ。我が子の体が白血病にやられていく親の気持ちを考えたら……」

 

「だから、それはわかってるって。しかし〈スタンレー〉となると話は別だろう。あの星だけは叩かずに太陽系を出て行くわけにはいかないんじゃないか?」

 

島が言う。「叩くって、どう叩くんだ。波動砲はやっぱり使えないんだろ」

 

「まあ、それはそうなんだけど」

 

「じゃあ、話にならないじゃないか。波動砲一発で星を飛ばせるって言うんなら、おれも反対なんかしないよ。でも、それができないなら、ダメと言うしかないだろ?」

 

戦闘組は押され気味のようだった。古代は沖田と真田を見たが、ふたりはずっと黙ったままだ。

 

この会議は、まだすべてを決めるものではないらしい。各自の意見を聞くための場だが、このぶんだと航海組の主張が通って〈スタンレー〉――冥王星行きはナシとなるのだろうか。

 

また森が、「今から遊星を止めたところで、〈滅亡の日〉までの期限が一日でも伸びるわけではありません。水の汚染は食い止めようがないのです。たとえ〈ヤマト〉が日程通り九ヶ月、いえ、半年で帰ったとしても、多くの子供に放射能の後遺症が残るでしょう。一日早く帰ればそれだけ健康被害も減らせるのです。間違っても十一ヶ月や、364日で帰ればいいなどと考えることがあってはならない――」

 

古代が見てると、森は発言しながらなぜかこちらを向いてくる――ような気がした。しかしまさかな、気のせいだろうと思い直す。それとももしや、おれが話をちゃんと聞いているかどうか疑ってでもいるんだろうか。前科があるだけに『かもなあ』と思う。

 

『人類滅亡まで一年』。なるほど、そう言われると、だったら364日で帰ればいいのかと考えてしまいそうな気になる。しかし、

 

「だから、そんな考え方はしてないって言ってんだろ」南部が言った。「おれだって地球に親がいるんだから、放射能の水なんか飲ませておきたくはないよ。けれどそれも〈ヤマト〉が戻ってきたときに人類が存続してればの話だろう。もしもやつらが気を変えたらどうするんだ」

 

「そうです」

 

と新見が言った。戦術士である彼女は当然戦闘組だ。どうやら南部の援護射撃が始まるらしい。

 

「『ガミラスは実は地球を恐れ、人類が外宇宙に出る前に滅ぼしに来たのではないか』という仮説はおおむね正しいものと考えられますが……」

 

「まあな」と太田。

 

「〈ヤマト〉がワープに成功したのは、とりあえず地球人が外宇宙航行技術を持ったことを意味します。これは〈ガミラス〉にしてみれば、ウカウカしてはいられない状況になったと見るべきでしょう。第二第三のワープ船を造られる前に、地球人類を早く根絶やしにしなければならない――敵がそう考えるのは、充分にあり得る話なのです」

 

誰も何も言わない。新見は続ける。

 

「これまで敵の地球への攻撃は遊星投擲に限定され、滅多に船で近づくことはありませんでした。これは船が拿捕されたり、残骸が調べられて地球人が波動技術の開発を進ませるのを防ぐためであったのでしょう。しかし、ここで〈ヤマト〉が太陽系を出て行ったらどうですか。自軍に多大な損害が出るのを覚悟で、地球に対して総攻撃をかけるおそれは少なくないと考えます」

 

島を始めとする航海組が難しい顔になる。新見の話は、彼らも決して初めて聞くものではないらしい。

 

だが全員でもないようだ。隅の方で声が上がった。「総攻撃?」

 

「はい。防戦一方ならば、地球はガミラスと互角以上の勝負をすることもできました。ゆえにこれまで戦ってこれたし、〈ガミラス〉も無理に攻めては来なかったのですが、今までがそうだったから今後も同じという保証はありません。敵が本気で攻めてきたとき持ちこたえられるかはなんとも言えず、また、敵がイスカンダルの〈コア〉と同じようなものを持つならば、それを爆弾にして太陽系ごと地球を消滅させようとすることすらないと言えません」

 

「ちょっと待ってくれ。それについては、例のサーシャが……」

 

「ええ。サーシャは『その心配はない』と言ったとされています。しかし〈彼女〉はなぜそう言えるか理由を説明しなかったとも聞きますし、いずれにしても完全にアテにしていい話ではありません」

 

「問題はだ」南部が言った。「〈ヤマト〉が帰ってきたときに、もう人類が滅ぼされてしまっていたらどうするかという話なんだ。そのときには『一年』も『九ヶ月』もありゃしないだろう。手遅れになるならないという心配は、〈スタンレー〉を叩いてからしてもいいんじゃないか?」

 

「しかし……」

 

と島が言う。だがそれ以上、言葉を続けられないようだった。そこへ新見が、

 

「さらに別の懸念があります」と言った。「ガミラスが増援を送って来ない保証もないということです。敵の船は今は百隻。しかしこれが二百になったらどうでしょう。今の倍で攻め込まれたら、地球艦隊が太刀打ちできるとは思えません」

 

「いや、けどね」太田が言う。「そんなことを言ってたら、いつまでも外へ出ていけないじゃないか。やはりぼく達がするべきなのは、そんな心配よりもイスカンダルへ行けるかどうかで……」

 

「だが不安にならないのか」南部が言う。「『戻ったときに果たして地球はちゃんとあるか』と案じながら旅はできないだろう。〈スタンレー〉を叩いていけば、後顧(こうこ)(うれ)いを断つことになる」

 

「そうです」と新見。「これまで地球が押されていたのは、何より敵に冥王星があったからです。冥王星がなければ敵は総攻撃をかけようにもかけられず、また外から新たに倍の艦隊を送ってくることもできない。と、そのように分析されています。〈スタンレー〉さえ潰してしまえば、今後はまた別の準惑星などに基地を建設させるようなこともない。ゆえに〈ヤマト〉は安心してイスカンダルへの旅に出て行けるのです」

 

「しかしだな、現実にどうすると言うんだ」島が言った。「もう一度言わせてもらうが、無理だろう。この〈ヤマト〉一隻だけで、波動砲を使わずに、百の敵とどう戦うと言うんだ。基地の位置がどこにあるかもわからないんだろ」

 

新見が言った。「それなんですが……」

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