ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

110 / 387
良くない状態

「悪魔め」

 

と沖田が言った。第二艦橋。会議の後、今は沖田と真田だけが残っている。冥王星の立体画像はまだ映し出されたままだ。

 

「見ていろ、決して貴様らに地球を奪わせはしない……」

 

「艦長」と真田が言った。「やはりこの星を攻略するおつもりですか」

 

「そうだ。避けてゆくことはできん。基地を潰していかなければ、やはり人類に明日はない。たとえコスモクリーナーを持ち帰ってもだ。我々が戻る頃には人は残らず殺されてるよ」

 

「かもしれませんが……」首を振った。「しかし、この作戦は……」

 

「〈メ号作戦〉そのままか。そうだ。あえて、勝つ見込みのない作戦を立てさせた」

 

「どういうことです? 冥王星にはガミラス艦が百隻いる。〈ヤマト〉が行けば、その百隻がワッと出てくるに決まっている――この作戦は、それをまったく考慮に入れていないとしか思えません」

 

「いや。その点は問題にならん」

 

「は? いえ、しかし……」

 

「〈ヤマト〉が行く頃、船はいない。しかし必ず、別の罠をやつらは張っているはずだ。それをどう切り抜けるか……この戦いはそこで決まる」

 

「ええと」と言った。「なぜそんなことが言えるのです? いや、それはともかくとして、罠とはどんな?」

 

「それはわしにもわからんよ。わかるようなら罠にならんじゃないか。だがある。必ず、地球の船がワープ能力を持ったとき、外宇宙に出ていかせぬために仕掛けているものが……やつらは決して地球人類を見くびっておらん。だから遠いこの準惑星に基地を構えねばならなかったのだ。そして白夜の圏内に造るしかないとなれば、決して攻撃させないための備えが必要になる」

 

「だから罠があるとおっしゃる? 敵は地球がいつか〈ヤマト〉のような船を造って、基地を叩きに来るかもしれぬと考えていたと?」

 

「そうだ。当然のことだろう」

 

「それは……しかし、だと言うなら、その罠とはまさにこの〈ヤマト〉を一撃に沈めるようなものということになりませんか?」

 

「当然だろうな」

 

「そしてまた、それが何かはわからない。そう考えていると言うのに、迂回せず敵に向かうとおっしゃるのですか」

 

「そうだ」と言った。「作戦など立てようがあるまい。波動砲が使えぬ以上、航空隊を送って基地を探させて、核で攻撃するしかないのだ。それ以外は考えるだけ無駄だ」

 

「そんな……いえ、それならそれで、なぜ先ほどの会議で何もおっしゃらなかったのです? この〈ヤマト〉が沈んだら……」

 

「そう。何もかもおしまいだ」

 

「それがわかっているのでしたら……」

 

「そうだな。〈ヤマト〉は戦うための船ではない。イスカンダルに行くための船だ。しかし君こそ、それがどういうことであるのかわかっているか」

 

「何を質問なさっているのかわかりませんが」

 

「人だ。人の問題だよ。さっきの会議、君は見ていてどう思ったかね」

 

「それは」

 

と言った。応えようにも、考えをまとめるまでにしばらく時間を必要とした。しかし沖田は黙って待つ顔だった。真田は言葉を選んで言った。

 

「あれは良くない状態です。航海部員は日程しか頭になく、戦闘部員は戦うことしか考えていない。この〈ヤマト〉が沈んだらすべて終わりであることを誰もが忘れているようだ。地球人類を救うという思いは同じであるはずなのに……」

 

「そうだな。互いに互いのことを『非現実的』となじっている。このままではどちらを取ってもうまくいかんよ。〈スタンレー〉を叩くことも、イスカンダルに向かうことも」

 

「ですから、あそこで艦長が何か……」

 

「いいや。これはわしが上から押さえつけてどうなるというものではないよ。君の言う通り、人々を救う思いはみな一緒なのだからな。こういうときは下に対して決して『ダメ』と言ってはいかん。ヒトラーと同じ間違いを犯すことになる」

 

「だから何もおっしゃらなかった? しかし、ではどうするのです?」

 

「どうもせんよ。わかってたことだ。ほっておく」

 

「いえしかし、それは……」

 

「フフフ」笑った。「確か、前にも同じことを君に言ったな。あれは古代のことだったか」

 

「はあ……しかし、それもお聞きしたいことです。また古代のことですが……」

 

「ほう。なんだ」

 

「その前にまず伺います。〈スタンレー〉に行くとなれば、航空隊の損耗は避けられないでしょう。基地を叩き潰せたとしても、〈ゼロ〉と〈タイガー〉をすべて失ったらどうするのです? 一度戻って戦闘機とパイロットを補充しますか?」

 

「フム」と言った。「いや、できんな。その場合は航空隊なしでマゼランへ向かうことになる」

 

「でしょう。我々はそうせざるを得ない。にもかかわらず、古代は部下をまったくまとめられていません。あの古代に隊を任せて〈スタンレー〉に送るのですか」

 

ニヤリとした。「心配だな」

 

「艦長、これは笑い事では……」

 

「そうだな。地球の運命が、あいつにかかっていることになる。あのまったくどこの馬の骨なのかもわからんようなパイロットに……しかし、腕がいいことはこないだ証明されたろう」

 

「腕の良し悪しの問題ではありません。古代に隊が率いれるかどうかです」

 

「心配だ」とまた言った。「しかしなるようになるさ」

 

「艦長……」

 

「冗談だよ。古代なら心配要らん」沖田は言った。「やつの闘争心はただ眠っているだけだ」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。