〈クルビット〉とは機体を鉄棒の逆上がりか、サッカーのオーバーヘッドキックのように
「冗談だろ」加藤は言った。「〈がんもどき〉でクルビットなんてできるわけない」
皆が頷く。クルビットはよほどの高機動戦闘機でなければできないはずの芸当だ。貨物機がやったなんて話は前代未聞だろう。
「ですが、これは……」
新見は言って、
再生が続く。古代がまず一機を倒し、残る二機に追撃されて、それを互いにぶつけさせて撃破するのを、エースと呼ばれる者達が首をひねりながら見た。ひねり過ぎて頭がクルリと一回転してしまう者がもう少しで出そうだった。こんなものが事実とはとても信じることができない。
しかしもちろん、捏造ではあり得ない。パイロットらはみな首を傾げながらも、この映像を本物と認めざるを得ないようだった。アニメ超人の動きはしょせんリアリティを持ち得ないが、軽業師の曲芸に人は目を見張るしかない。これがまがいものならば、〈ヤマト〉のエースパイロット達に見破れないわけがなかった。
しかし、彼らトップガンでも、まさかと思うほどの技倆――古代の腕が、たんに〈腕がいい〉というレベルを超えたものであるのは認める他にない。けれどもそれは、伝え聞いていたことを確認しただけに過ぎない。問題はその先だ。どんなに腕がいいと言っても……。
「しかし、こいつは闘えるのか?」加藤は言った。「四機墜としたと言ったところで、今までは逃げまわっていただけだろう。敵をビームで狙い撃ったわけじゃない。逃げるのがうまいだけでは――」
戦闘機のパイロットにも、航空隊の隊長にもなれない。自分が難癖つけているのはわかっている。だがそれでも、見極めねばならないのだ。〈スタンレー〉に乗り込んで敵の基地を叩くには、隊長ががんもどきであってはならない。そこに人類の運命が懸かり、マゼランへの航海の成否が懸かるのであれば、古代に自分と部下達の命を預けるわけにはいかない……。
「ですからそれを試してみようと言うのです」新見は言った。「このトリトンのシミュレーションで、正面から〈タイガー〉を古代にぶつけたらどうなるか――彼なら〈ゼロ〉でもクルビットができるでしょうか?」