ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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呪われた男

すべては古代次第だ、と沖田は艦長室で考えていた。指揮官として古代が戦闘機隊を率い、冥王星に向かえるか。そこにすべてが懸かっている。航海の成否も、人類の明日も。

 

ダメなら、すべて滅ぶだけだ。どうせ〈ヤマト〉は沈むだろう。その後のことは、考えるだけ無駄なことだ。

 

〈ヤマト〉が沈めば、みな終わり。人は神でもガミラスでもなく、この自分を呪って死んでいくことになるのかもしれない。沖田十三が敗けたから人は消えねばならないのだと――しかし一体、これまでに、わしはどれだけ多くの者をわしのために死なせただろう。みんなわしをあの世で呪っているのだろうか。

 

そうかもしれない。死んだ者はひとりとしてわしを許してくれぬのかもしれん。みんな地球と人類を頼むと言って死んでいった。あなたのために死ぬことが地球のために死ぬことだと言って宇宙に散っていった。それを言われるわしの気持ちを考えてくれず……。

 

それでも彼らの魂は、どこかでわしを呪っている。沖田よ、我らは、お前を生かすために死んだ。だからお前が滅亡から人を救わず死ぬのを決して許しはしない、と。

 

だがこの旅を果たし、青い地球を取り戻したとしても、この沖田が自分のために多くの者を死なせた事実は変わらぬだろう。いま地球の地下都市では、狂信徒が人を殺していると言う。それも結局、わしがやらせているのかもしれない。その誰もが、わしを許してはくれないのだ。

 

死んだ者は生き返りはしないのだから……引き出しから写真を取り出し眺めやった。自分と共に三人で写っているのは妻と息子だ。どちらも死んだ。取り戻せるならわしはなんでもするだろう。人類さえ売るかもしれない。わしにとっては、このふたりこそ明日だった。元々このふたりのために、地球を救うはずだったのだから。

 

わしはどうしたらいいんだ、と思った。お前達のいない地球が、わしになんの意味があるのか――まるで子供の泣き言だと知りながら、そう問わずにいられなかった。教えてくれ、誰か。わしはどうして、こんなことをしているのか。

 

ついこの前に、そこに立たせた若者の顔を思い出す。古代進。わしが死なせた古代守の弟だ。あのときにわしはあいつにすまないと言った。お前にも、死ねと言わねばならなくなるかもしれないと言った。

 

あいつのように多くの若者を死なせておいて、なぜわしは生きてるのだろう。わしはまだ生きている、生きている限り絶望はしない、そう言わねばならないのだろう。わしがそう言うたびに、また若い者達が身代わりとなって死んでいく。それがわかっていると言うのに。

 

我が息子さえ、身の盾にして死なせてしまった。もう己の血は絶えた。帰ったところで迎えてくれる者はいない。

 

なのに、なぜわしなのだ――そう思った。無論、(みずか)ら選んだ道だ。誰に強制されたのでもない。わしが行くと自分で言ってこの船に乗った。それなのに、今更なぜと自分に問うのもおかしな話ではあるが……。

 

しかし、古代……あいつはどうだ。この前そこに立たせたときも、『なぜですか』という顔だった。なぜこのおれがパイロット、しかも隊長なんですか――文字で黒々とそう書いてあるのがまるで読めるようだった。おれはあなたと違います。人類を救う人間じゃない。なのにどうしてあなたの(めい)を受けねばならないのですか。

 

あなたに従い、兄貴は死んだ。どうして兄は死んだんですか。どうして連れて帰ってくれなかったんですか。おれの兄貴を死なせておいて、どうしてあなたはそうやってオメオメ生きてるんですか。

 

クッキリとそう書いてあるように見えた。当惑して突っ立っているだけでもそう見える。

 

それがわしにかけられた呪いだ。すまん、とただ言うしかなかった。わけを知ったら、それこそわしを恨むようになるだろう。なぜどうしておれなのだ。他の者ではいけないのかと泣いて叫ぶかもしれん。だがお前しかいないのだ、すまんと思った。お前のような男が来るのをわしが待っていたからだ。そうだ、ずっと待っていた。もっと早くに出てきていたら、わしがこの〈ヤマト〉に乗らずに済んだろう。叶わぬ望みとあきらめていたあのときに、まさかお前が、よりにもよって古代守の弟が、あんな形でわしの前に現れるとは。

 

〈スタンレー〉の戦いでは、古代、お前が(かなめ)となろう。人はもう滅亡した。今でも一年後でもなく、お前の兄が死んだ日に絶滅など決していた。人類が明日という日を取り戻せるか、託せるのはお前だけだ。死ぬな。そう願うしかない。

 

お前が死ぬとき、人は終わる。だから生きろ。生き続けろ。わしはそう言われてきた。誰を犠牲にしたとしても、お前は生きて帰ってこいと。自分にもそう言い聞かせてきた。絶望するな。決してだ。最後のひとりになったとしても絶望するな。お前に自問は許されない。どうして部下を死なせておいて、わしだけオメオメ生きるかなどと……お前は決して許されない。すまんと言っても何もすまない。そうと知っても絶望するな。

 

お前は呪われているのだから……古代よ、すまん。わしは誰より、お前に対してすまないと言わなければならなくなるかもしれん――沖田は思った。すまないが、古代、お前もまた呪われたのだ。

 

そうだ、ひと目見たときわかった。お前がわしと同じ呪いを受けた人間だと言うのが……だからすまぬが、付き合ってもらう。〈スタンレー〉で闘ってもらう。人類の明日を見つけ、それを拾い、船に持ち帰ってもらう。

 

そのために、やるべきことはすべてやった。機は熟しているはずだ。後は敵がどう出るかだが――しかし待つしかないだろうなと、窓の星々を眺めて沖田は考えていた。今日のうちにも敵は動く。そのはずなのだ。今はただ、報せを待ってここにじっとしていることだ。他にできることはない。落ち着かない気分だが――。

 

インターカムに眼をやって、まだ動きはないのかと聞きたくなる誘惑にかられる。まるでお前が生まれるのを待っていたときのようだなと、写真の中の息子に笑うしかなかった。まだかまだかと言ったところで、事が早まるわけでもないのに。

 

しかしどうなのだろう。〈スタンレー〉に行けるかどうかも、敵がどう出るかで決まる。将棋やチェスと同じことだ。敵がわしの読みの通りに動かないなら、すべては無駄に――。

 

そう思ったときだった。インターカムのアラームが鳴った。液晶パネルに発信元の相原の名前。

 

ボタンを押して言った。「どうした」

 

『冥王星に動きがあれば報告せよとのことでしたが……』

 

「うむ」

 

『どうやらかなり活発な動きがあるように思われます。しばらく前から敵の交信が増え、船が発進しているようです。それもどんどん慌ただしくなっているような』

 

「わかった」と言った。「すぐに行く」

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