ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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対艦ビーム砲台

対艦ビーム砲こそが、宇宙の戦いで勝敗を決める最も重要な兵器である。つまるところ、〈ヤマト〉が持つ三基九門の主連装砲塔も強力な対艦ビーム砲台なのだ。主砲の威力が高いがゆえに、〈ヤマト〉は敵ガミラス艦をバンバン沈めることができると考えられている。

 

大艦巨砲主義こそが、宇宙の戦いの基本だった。強いビームを持つ側が、常に相手の優位に立つ。これについては、(かね)てより地球の方が(まさ)っていた。沖田のかつての乗艦〈きりしま〉も、ガミラスのどの船より強い砲を持っていたため、〈メ号作戦〉からもどうにか生きて帰ってこれたのだ。

 

ガミラスは波動技術を持つ一方で、多くの点で地球に劣る。地球の船より強力な対艦ビーム搭載艦を造れぬのだから、波動砲も造れぬのだろう――などとよく言われている。妙な話だがしかし事実でもあるのだろう。やつらを見ればどうもそうとしか思えないのだ。

 

だが、事実のすべてでもない。

 

「『ガミラスに強い砲が造れない』と言うのはあくまでも艦載用に限っての話です」新見が言った。「船に積める最大のものでも、地球の〈きりしま〉に劣っていた、と言うだけです。地面に固定されるものなら、極めて強力なビーム砲も保持しているとみるべきでしょう。敵は地球の戦艦が万一近づくときに備えて、必ずそれをどこかに設置しているはずです」

 

「〈ヤマト〉の装甲も一撃で貫くほどのものだと言うの?」

 

森が言った。戦闘ではレーダー手となる森は、敵が撃ってくるならば素早く探知せねばならない立場だ。

 

新見が応えて、「そうでしょう。その程度の科学力はやはり持っているはずです」

 

「しかしだ。逆に言えばだな」と、真田はそれまで黙っていたのが口を開いて言った。「その罠さえ破れたならば、この戦いに勝てる望みが高くなると言うことだ。ここからはわたしが説明する」

 

立体画の映像を変える。冥王星の脇にもうひとつ、大きさが半分ほどの星が立体投影された。

 

「カロン」と言った。「対艦ビーム砲台を敵が置いているとすれば、可能性が最も高いのはここだ」

 

衛星〈カロン〉――冥王星は地球の月より小さいくせにさらに小さないくつもの〈月〉を持つ星だった。最も大きなものがカロンで、直径は冥王星自体の半分。母星に対してあまりに大きな〈子〉であるため、衛星と言うより連星となって、互いに互いを回り合うようになっている。このカロンを〈P1〉として、P2とP3がニクスとヒドラ。続けてP4、5、6と、いくつか小さなジャガイモ星があったのだが、みなガミラスに砕かれて遊星の材料にされてしまった。地球人類を皆殺しにしたいなら〈山〉の大きさのニクスかヒドラをそのまま投げればよかったのだが、ガミラスにそこまでの力はなかったものと考えられる。

 

よって今、カロン以外に〈月〉はない。この会議に先立って、真田は沖田に〈スタンレー〉には罠があるはずと聞かされていた。おそらく、対艦ビーム砲だ。真田君、君には特にその対策を任せたい、と。

 

それがすなわち〈スタンレーの魔女〉……わしが君を船の副長に選んだのも、元はと言えばそのためだと沖田は言った。冥王星に必ずあるはずの〈ヤマト〉を一撃に沈めるほどのビーム砲。しかしそれがどこにあり、近づく船を敵がどう撃つ考えなのかまるでわしにもわからない。そこで君に頼むのだ。科学者の眼で罠を見極め、打ち破る方法を考えてもらいたい。この戦いに勝てるかどうかは、ひとえにそれに懸かっている。

 

君なら〈魔女〉に勝てると見込んだ――艦長室で先ほど沖田が言ったのは、つまりそういう意味だった。それ以外は他の者とわしに任せて、とにかく君は対艦ビーム対策に専念しろというわけだ。真田はハイと言うしかなかった。

 

だが……と思う。なるほど自分は対艦戦闘だの基地の攻略なんてことは素人だ。一方、そういう仕事なら専門と言えなくないが、それにしても……最初からそのつもりでいたなら、なぜもっと早く教えてくれなかったのか。どうしてこのドタン場の今になって言うのです。そう聞いても沖田はただ、『君にはまず副長職に慣れてもらわねばならなかったからな』と言うだけだった。どうせ出たとこ勝負になるのだ。早く言っても仕方あるまい。

 

ヘタな考えならば休むに似たりだと――確かにそうでもあろうが、しかし、とりあえずの知恵は絞った。敵がビーム砲台を置く場所として、真っ先に思い浮かんだのがカロンである。まずは順当な選択のはずだ。

 

「冥王星とカロンとは、完全に同じ面を向け合っている。地球の月が地球に対して常に同じ面を向けているのは、誰でも知っているだろう。地球も月の引っ張る力で潮の満ち引きが起きたりする。冥王星ではこれが極端で、カロンがあまりに大きいために、母星の方でも子に対して同じ面を向け続けねばならなくなっているわけだ」

 

立体像を動画でプレイさせてやる。カロンの自転・公転と、冥王星の自転とは、目に見えない歯車が間にあって制御しているかのように完全に一致。互いに〈裏〉を見ることがないのは誰の眼にもわかるはずだった。そしてまた、軸が平行なのだから、白夜の圏も同じ具合になってることも。

 

「つまり、カロンが冥王星に向けている〈表〉の面の真ん中にビーム砲台を置いてやれば、向かい側をどこでも自由に狙い撃つことができるわけだ。冥王星の基地が対面のどこかにあれば、地球の船が近づいてもビームで完全に護れるのだな」

 

〈ヤマト〉の模型を手に持って、立体映像に差し入れた。カロンからビームが飛び出て模型に当たり、爆発するアニメーションが投影で重なる。

 

加藤が言った。「つまり、基地は、カロンを向いた面にあると言う……」

 

「そういう話にもなってくるな」

 

言ったが、しかし実のところ、真田はあまりこの考えに自信を持っていなかった。何よりこれを話したときに沖田が浮かない顔をしていた。『まあ最初の案として悪くないとは思うのだが』などと言う。カロンに置けば〈表〉の面を自由に撃てる。なるほど理屈はその通りだが、そんな誰でもすぐ思いつくようなことを敵が果たしてそのままやるか?

 

言われてしまうと確かにやや疑問を感じざるを得ない。何よりもすぐ、加藤が言った考えにたどり着いてしまうことだ。ガミラス基地は冥王星の白夜に在る。とりあえずこれは疑問の余地がないので、星全体の二割程度に範囲を絞って考えられる。それでも直径千キロだ。索敵は容易(たやす)い話でないのだが、これにカロンを向いた面、という条件を加えると、一気に半分に(せば)まるのだ。底辺が千キロの半円形。そのどこかに基地があるという話になる。星全体の一割……。

 

単純に範囲が絞れたと言って喜んでしまっていいのか。話がうま過ぎはしないだろうか。いや、もちろん、カロンにビーム砲台があれば、それを躱して基地に近づく難しさもあるのだが……。

 

しかしこれも逆に言えば、カロンを向かぬ側の面は全部がビームの死角になると言うことなのだ。だから〈ヤマト〉はそこに入れば、罠を無効にできてしまう。敵が強力な砲台をいくつも設置できるものとも思えない……。

 

対艦ビーム砲台など、二基も三基もあるはずがない。一基だ。それが限界のはずだ。敵は結構苦労している。二百三百という船を送ってこれないから地球相手に苦戦している。冥王星まで普通の船で二ヶ月かかるというその距離。何よりもその遠さを盾にして地球艦隊を退(しりぞ)けてきたのだ。やつらはそうするしかなかった。実はカツカツのギリギリで、(ふところ)の具合は厳しい。

 

新見の意見も聞いてみたが、これは決して希望的観測ではないと言われた。やつらがやつらの兵に食わせるメシの問題などといった〈家計の事情〉まで考慮して敵の力を分析したうえで、ビーム砲台などいくつも置けぬし維持もできないという結論を出したのだ。〈スタンレー〉の敵が持てる強力な対艦ビーム砲台は一基のみ。だからやつらはその一基をできるだけ効率的に使おうとするはず――。

 

カロン。もちろん砲台設置に適した場所には違いないが、しかしこんな誰もが最初に思いつきそうなところに……そう考えるととても自信を持つ気になれない。容易(たやす)く見破れ無効にできてしまえるものは、そもそも罠となど呼べまい。

 

しかしそれなら、砲はどこに――だが考えは浮かばなかった。確かに沖田の言うように、考えるだけ時間の無駄としか思えない。とりあえずカロンが有力候補なのも確かな話なのだから、まずはこれで進める他にないのだが……。

 

「ガミラスは一対一で〈きりしま〉に勝てる船さえ持っていない。なのに〈ヤマト〉を迎え討とうと言うのだから、必ずどこかに固定のビーム砲台はある。その罠さえ破れたら、我々はこの戦いに半ば勝ったと言えるだろう。〈ヤマト〉自身が星の白夜に乗り込んで、航空隊と連携して敵の基地を叩けるのだ。ガミラスが十の戦艦で向かって来ても別に相手にすることはない。我々は基地さえ潰せばよいのだから、後は放ってワープで逃げるべきなのだ」

 

そうだ。船と戦わぬなら、主砲もエンジンも温存できる。元々すべてが基本的に船を護るための装備なのだ。基地を潰してワープで離脱。ただそのためだけに使用する。〈ヤマト〉は決して戦うための船ではないという原則は、この作戦でも変わらない。必要以上の戦闘はせず、イスカンダルを目指すのだ。

 

真田はそう考えた。一同を見て話を続ける。

 

「砲がどこにあろうとも、必ず死角は生じるものだ。何しろ、星は丸いのだからな。冥王星の片面が百年ずっと白夜なら、反対側はずっと夜だ。夜の面は基本的にビームの死角と考えてよかろう」

 

言ってから、違っていたらどうする、と思った。やつらがまさに〈裏〉をかいているとしたら……しかしまさか。基地を白夜に置くのなら、ビーム砲はその圏を護るように配置しなければ無意味。〈きりしま型〉や〈いそかぜ型〉の船の突っ込みを許してしまったときにアウトだ。逆の面を護るよう砲を造るバカがいるなど考えられん。だから死角に戦艦を送り、〈ヤマト〉を囲み込もうとする――。

 

この考えに間違いなんてあるだろうか。いいや、まさかとしか思えなかった。『〈メ号作戦〉でもし地球に敗けていたら』とやつらが考えぬわけもないのだ。ひとつの砲が星の半球を護るなら、その裏側は死角のはずだ。だって、星は丸いのだから。そうだろう。これがどうにもなるはずがあるか。

 

「ゆえに〈ヤマト〉は予想される敵ビームの射程外にワープして、航空隊を送り出す。迎える敵となるべく交戦せず逃げながら、砲台の位置を見極めるのだ。固定され移動できない砲ならば、位置を突き止めてしまえばやりようはあるはずだ。〈ヤマト〉の主砲で撃ち返すなり、魚雷ミサイルを送るなり……では、砲台をどう見つけるかだが……」

 

真田はここで言葉を切った。この先を話すのは勇気がいる。しかしやらねばならなかった。一同を見て真田は言った。

 

「ビーム砲でわざと〈ヤマト〉を狙い撃たすのだ。それ以外に砲台の位置を突き止める方法はない」


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