ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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巻き寿司

「へえ」と言った。「〈銀河〉か」

 

「ああ」

 

と古代。この男が天の河銀河の渦を『でっかい海苔巻き』と呼ぶのを真田はいつも聞いていた。おれが育った家の近くに〈海苔屋〉がある。その海苔で作る巻き寿司はすごくうまいんだ。だからいつかお前にその〈ちっちゃな銀河〉を持ってきてやるよ、という話もずっと――どうやら、その約束を遂に果たしに来たわけだ。真田は友と笑い合った。

 

「どれ」

 

と言って手を伸ばした。柔らかいものをつまむときには注意が要る。感覚のない指で慎重にひと切れ取って、真田は寿司を口に入れた。

 

「どうだ?」

 

と古代。

 

「さあ」と応えるしかなかった。「よくわからんが、確かに海苔が違うような気がするな」

 

「ちぇっ」

 

と言った。基地は反戦の団体に取り巻かれているはずだった。「正面から入ったのか」と聞いてみると、

 

「そんなわけないだろう。ツバびたしになっちまうよ」

 

「だろうなあ」

 

タマゴを投げつけられたとか、クルマを傷だらけにされ、タイヤに穴を開けられたなんて話もあると言う。耳を澄ませば、『波動技術の軍事研究はんたーい』と拡声器でがなりたてる声が聞こえる。地球人は太陽系を出てはならなーい! 波動砲など造ってはならなーい! ガミラスさんはそれを我らに教えに来てくれたのだーっ!

 

「まったく」と古代は言った。「こんな星、護る価値があるんだろうかとときどき思うよ。おれのしてることなんなんだろうな」

 

「世界とか人類とかじゃなく、お前の好きなその寿司を守るんだと思えよ。三浦の海で海苔を作る人がいるからそれが食えるんだろ」

 

「うん」巻き寿司に手を伸ばし、つまんで眺めながら言った。「まあな」

 

古代守は元々は、宇宙船に乗りたくて軍に入った人間だ。より正確に言うならば、外宇宙を旅する者になりたくて――地球人類はあと二十か三十年で波動技術を確立させ、星の海に乗り出していけるはずだと言われている。天の河銀河の渦を眼で見る最初の人間になりたいと言うのが、古代が軍に入った動機。対して、真田は軍人と言っても技術研究員で、波動技術の確立を目指す学者だった。もっとも、波動技術と言っても、やっているのはワープ船の開発でなく波動砲の研究だが。

 

同じ基地で波動技術に取り組んでいても、やってることはまるきり違う、と言うのが真田と古代の関係だった。廊下ですれ違うだけの間柄でもおかしくないが、なぜか知り合い友情が生まれた。分野が違うというのがかえってよかったのかもしれない。

 

この時点で、ガミラスが現れてから一年。古代は外宇宙に出るよりも太陽系を護ることを考えねばならず、真田も〈砲〉を冥王星を吹き飛ばすための兵器と考えねばならなくなった。本来は巨大隕石を止めるためのものなのにだ。もっとも、おれのそもそもの動機も別のところにあるが――考えながら、真田は機械の手を伸ばし、また巻き寿司をつまみ取った。この腕だ。それから脚だ。おれは科学が憎いから、軍に入るしかなかった。波動砲の軍事研究。それ以外に選ぶ道を持てなかった。

 

真田が波動砲を造ろうとするのは、人が愚かな生き物だからだ。人は科学を過信する。巨大なスペースコロニーなどを宇宙に浮かべてしまうかもしれない。直径数キロ、全長が数十キロの分厚い土管……これが何かの事故により地球に落ちる確率は千年に一度くらいかな。無視していい数字だから、十基二十基と造りましょう。

 

そんなことを言って本当に造りかねない。政治家だの官僚だの、銀行屋やら株屋やらには、十基造れば百年に一度、二十基ならば五十年に一度、それが落ちるという計算はできない。百造ろうが千造ろうが、千年に一度と言えば一度なのだ。999年間は一基も落ちないという意味なのだ。そして千年経ったとき、自然にパッと消えてなくなってくれるという意味……大学の経済学部の数学では、それが正しい算法とされる。人は愚かであるがゆえに、そんな者達を秀才と呼ぶ。

 

スペースコロニー。宇宙に浮かぶこれも巨大な太巻き寿司――それが造れて生み出す利益が莫大なものであるならば、人はそれを造るだろう。もしも落ちたらどうなるかなど考えもせずに。

 

安全性の議論はじっくり重ねました、各分野で一流の人が安全と言っているから安全です。だから絶対、これは安全なのですと言って造ることだろう。実際、計画が進んでいた。元を取るのに何年かかるかの問題というところにきていた。建造費を回収するのに百年かかるようならば誰も手を出さないが、十年で一基造れて元を十年で取ることができ、後はガッポリと言うのなら、カネの亡者の蚊柱が立つ。ワープ船が外宇宙へ出るのが先か、地球の上に安物の双眼鏡でも見えるほど巨大な蟻塚が浮かぶのが先か――この22世紀末、人類の科学はそんな段階に至ろうとしていた。

 

しかし、もし、その蟻塚が軌道を外れて地球に落ちたら、十億が死ぬのだ。それでも、人はいい。人が己の愚かさのために死ぬのは自業自得だ。だが自然の生物を巻き添えにしてどうするのか。

 

まあ、もし落ちるとしても、軌道を外れて十五分後に落ちることだけはさすがにない。地球にブチ当たるまでに何日も何週間もかかるわけだ。だからその間に人を避難させられるものならして、(しか)(のち)にドカンとやる。その手段が必要じゃないのか? 万一の際に地球に落下する前に粉砕してしまえないなら、宇宙にあまりに巨大なものを浮かべてはならない。落下対策はひとつでなく、二重三重に必要じゃないのか?

 

波動砲が確実な破壊手段のひとつになるなら開発すべき――このように考えたのが真田が波動砲を研究する理由だった。もっとも、まだこのときには、末端の研究員に過ぎなかったが。

 

ガミラスが来るより前から真田は自分から志願して波動砲の研究員になっていた。その頃に『スペースコロニーが落ちる前に壊す』と言っても研究費はなかなか降りてこなかった。大学の教授達は代わりに言った。

 

『真田君、スペースコロニーが落ちるとしても千年に一度のことだろう。だから造って百年くらい経ったらどこか遠くに運んでいって、そこでバラバラにしてしまえばいい。常に入念に保守点検し、ちょっとヤバそうなものがあればそうする。これなら千基浮かべようと、万基浮かべようと絶対安全と言えるじゃないか。スペースコロニーは落ちないのだ。人類の叡智(えいち)の結晶なのだよ。落下対策を万全にすれば安全なのがわからないかね』

 

『必ず教授の言われるようになると保証ができるのですか』

 

『そんなこと、ワタシは知らんよ。とにかくスペースコロニーは落ちない。二度と「もし落ちたなら」と口にするのはやめたまえ』

 

そんな調子であったものが、冥王星を撃つため、今は、カネがザクザクと降ってくる。こうして軍からお呼びがかかり、待遇に恵まれる身にもなった。とは言え――。

 

「おれもあくまで、波動砲は地球の自然を守るためのものと考えているからな」

 

と真田は古代に言った。古代は寿司をモグモグしながら頷いて、飲み込んでから「そうだな」と言った。

 

「言っとくけど、だからって、外の連中と違うぞ」

 

「わかってるよ」

 

反戦を叫ぶ人の群れ――ひと月前に最初の遊星が落ちて以来、基地を囲む市民は日増しになっている。魚の死骸でいっぱいの海や、焼き尽くされた森の映像がニュースで流れるや、一部の者は石を投げるガミラスでなく、地球政府に怒りの(ほこ)を向けだした。これ以上に自然が破壊される前に降伏せよ。彼らはきっと、本当は、いい異星人に違いない。聖書の『ヨブ記』の神のように、すべて元通りにしたうえに倍の恵みをくださるのだ。どうしてそれがわからないのだ!

 

などと叫んで基地の中の人員にツバを吐きかけるようになった。真田と古代のいるこの基地が、波動技術の軍事研究をしているのは公然の秘密だったから、特に狂った者達が押し寄せるようになっていた。

 

『研究はんたーい! 人類は太陽系を出てはいけなーい! 波動砲は造ってはならなーい!』

 

『政府は嘘をついているーっ! 軍は波動砲を積む船で平和に暮らす異星の民を侵略するつもりなのだーっ!』

 

そんな声が聞こえてくる。波動理論が構築されて何十年も経つのだが、こんなことを叫ぶ者は初めの頃からすでにいた。これまでマトモな人間は相手にしてなかったものが、ガミラスの出現により勢力を増した――とは言え、狂人の集まりであり、言うことやることてんでメチャメチャ。やはり正気の大多数は相手にしていないというのが現実だ。

 

ガミラスに降伏して奴隷になろう。彼らは必ずいい異星人だから、労働で自由になれるに違いないぞ。身にシャワーでも浴びるように、彼らの進んだ知識を(さず)けてもらえるんだ。サリンを適度に含んでいるくらいがちょうど快適という生物に進化する。それが人類の補完と言うもの――なんてなことでも考えてしまっているのだろうか。どうも、そうらしかった。その昔にカール・マルクスの本を読んだ人間がソビエト連邦や朝鮮民主なんとやら(こく)を自由の国と本気で信じ込んだように、降伏論者はガミラスを理想の星とみなしていた。地球の軍は悪い軍で、ガミラスの軍はいい軍だ。

 

古代が言った。「狂ってるよな」

 

「まあな」

 

と真田は応えた。『降伏か滅亡かどちらか選べ』。ガミラスから最初にそう迫られたとき、地球政府はとりあえず、『降伏すればどんな処遇を受けるのか』と聞いてみたと言う。普通は嘘でも『悪いようにはしない』との返事が来そうなものだろう。だがガミラスはこう言った。『イエスかノーか。聞いているのはそれだけだ』。

 

そしてそれきり――これはまるで昔に日本が英米相手にした戦争で使ったやり口だと言う者もいる。本当はまともにやったら勝てない者がハッタリかましてるんじゃないのか、と。

 

あるいはそうなのかもしれない。波動エンジンを持てさえすれば、地球は勝てる。ガミラスは恐れるに足りる相手でなくなる――そう言われている。ワープ船を何隻か造ることができるなら――その船首に波動砲が積めるなら――そう言われている。やつらはそれを知っているから、地球人を恐れているのだ。だから頼む、波動砲を造ってくれと真田は請い願われていた。外で基地を囲んでいる変な連中の叫びは聞くな。

 

いずれにしても、遊星を投げてくるような相手に降伏など、バカげた選択と言うしかなかろう。やつらは地球人類に、絶滅以外何も求めてはいないのだ。その昔にヒトラーがユダヤに対してただ絶滅を求めたように。日本人がアイヌに対してそうしたように――そう考える以外ない。真田はまた寿司をつまみ、その自分の指を見た。

 

「兵器と言えば、おれのこの腕も爆弾さ。電池を外して安定剤を抜いてやれば、すぐ燃料が過熱して……」

 

ドカーン。家の一軒くらい吹き飛ぶ。そんなものを両手両足に一個ずつ、おれは着けて生きていると真田は思った。これがなければ脚で歩けず、手でものをつかめない。科学の進歩がこんな生き方を可能にしたが、しかしこんな生き方をせねばならなくなったとも言える。おれが波動砲を造ったら、そのときに人は言うのだろうか。その手と脚で波動砲を造ったのか。ならばその手は悪魔の手、そんな脚は悪魔の脚だと。お前などは手足のない芋虫として、汚水槽の中かどこかをのたくって生きていればよかったのだと。

 

今この基地を取り囲む者達ならばそう言うだろう。地球が造る波動砲は悪い波動砲だから、隕石や落下物を破壊するためと言いつつ結局は人に向けられることになります。地球に落ちる物体は愛で止めればいいのです。光速も愛があれば超えられます。二百年前、麻原彰晃という偉人がそうおっしゃっておられました。愛があれば手足などなくなっても不自由しないのに、どうしてそんなサイボーグ義手義足などに頼るのですか、トチローさん。波動技術は必ずや人を不幸にするでしょう。あなたなんかその手足の爆弾で自分自身を吹き飛ばして死んでしまえばいいのです。それが宇宙の愛なのです。

 

宇宙か、と真田は思った。無限に広がる宇宙――手にした海苔巻き寿司を見る。今、目の前にいる友はこれを〈銀河〉と呼んで食い、いつか自分ででっかいやつを見るのだと言う。

 

タクアンとシラスが中に入っていた。これもおそらく、三浦産のものだろう。だが果たして、同じものをまた食う機会があるだろうか。

 

いいや、おそらくこれが最後で二度とないのじゃないだろうかと真田は思った。遊星が落ち続ければ海は干上がると言われている。ほんの数発落ちただけで、環境はすでに甚大な被害を受けた。海は稚魚が成長できる海ではなくなりかけている。海苔の草も育つ海ではなくなろうとしている。

 

そして、いずれ人間の子も――今この基地のまわりを囲み反戦を叫んでいる者達は、果たしてそれがわかっているのか? いいや、あの連中は、皆ビューティフル・ドリーマーだ。社会や自然がどうなろうとも、コンビニへ行けばいつでもホールトマトでもシーチキンでも手に入ると思い込んでる。チョコレートは最初から板の形でこの世にあると考えてるに違いない。

 

牛肉や豚肉も、最初から肉の形でこの世にあると考えてるに違いない。だから自分は生き物の命を奪ったことなどないと平気で思っていられて、それは違うと言われることが許せない。今後は肉や魚など食えなくなると言われて怒り、ふざけるなと叫ぶのだ。

 

『つまり、ガミラスに降伏すれば、肉や魚が食えるってことだ。そうでしょう! そういうことなんですよね! なのにどうして降伏しようとしないんですか!』

 

このように叫ぶ者達が、〈おっぱいナチ党〉原口祐太郎などに投票してしまっているのが今の地球の現状だった。冷蔵庫に入りきらないほどの精肉を買い占めて、それが腐ってハエがたかれば捨ててまだまだ肉を買う。そんな者達が正義をかざす。〈正義〉とは常に幼稚で短絡的だ。そうでなかった(ためし)など歴史上にひとつもあるか。

 

今の地下には、広大な農牧場が造られている。民を避難させるためそれが広げられていて、〈ノアの方舟〉と呼ばれる施設の建設も始まっている。海苔すら養殖されるだろう。食い物にすぐ困りはしないにしてもだ――しかしおそらく、そこで肉や魚は食えまい。食肉用の家畜を育てる余裕などはなくなるはずだ。人は隣人の飼い犬や猫を殺して食おうとするかも。それどころか、人を殺して食おうとするかも。

 

それが人というものだろう。真田は寿司を口に入れた。

 

「古代」と言う。「この寿司はうまいな」

 

「なんだよ急に」

 

「おれはいっそ、この手足よりヒレが欲しいと思うときがあるよ。イルカみたいに海を泳いで魚を食って生きていたいと……地球の海は、なんとしてでも護らなければいけないと思うが……」

 

「ええと……うん、まあ」

 

「波動砲は間に合わんだろう。冥王星をドカンとやる前に海は干上がってしまう。だから、この寿司を守るには、今ある地球の兵器で敵と戦うしかない」

 

「まあなあ」

 

「すまん」

 

「別にお前のせいでもないだろ。行けるもんならおれだって、すぐ核持って敵に向かって行きたいが……」

 

「それも難しいんだろうな」

 

「ああ」と言った。「敵に近づくことができれば、とは言われているが……」

 

それが難しい。冥王星に近づけるなら、敵を叩く最も有効な戦術は戦闘機による空襲だろうと言うのは、(かね)てから聞く話だった。空母十隻に艦隊を組ませ、満載した戦闘機の一機一機に核を持たせて冥王星に送り出すのだ。やつらに千の戦闘機を墜とすことは到底できない――。

 

「問題は、冥王星が遠過ぎること。宇宙では船は敵から丸見えで、奇襲など不可能だということだ」古代は言った。「まるで昔の太平洋戦争の話だな。真珠湾ではアメリカに途中で見つからなかったから、ハワイに近づき艦載機を送り出せた。けれどもミッドウェイのときは、艦隊が途中で敵に見つかっちまった。だから勝ち目は本当は日本にあったはずなのに、空母を狙い撃ちされて全部沈むことになった……」

 

250年前の戦争で真珠湾を攻撃できたのは、地球が丸く人工衛星なんてものがまだなく、レーダーなどの技術もまだまだ未発達であったからだ。ところが、冥王星はどうか。地球の船では二ヵ月かかり、その間、姿を隠してくれるものは何もない。空母はとても護り切れず、奇襲などはかけようもない――。

 

真田は言った。「もしも船が近づけて戦闘機隊が送り出せたら、基地を叩ける望みは高いと言えるのか」

 

「まあな。そう言われちゃいるが、しかし何機要るんだろうな。基地の位置もわからないんじゃあ……」

 

奇襲を許さず、どこに基地があるかも知らせないために、敵はあんなに遠い星に陣を構えた。そうして石を投げてくる。たどり着くさえ不能ときては、このままでは地球の海は――。

 

そう考えたときだった。真田は足元が揺れるのを覚えた。グラグラという大きな揺れ。

 

古代と顔を見合わせる。

 

「地震かな」古代は言った。「なんか、ちょっと違うような……」

 

そうだ、違う、と真田も思った。これは近くでバカでっかいロケットの打ち上げでもしたような。いや、それとも違うような。『何が違うのか』ともし聞かれても表現などできないだろうが、これまでにあまり感じた覚えのない妙な振動の仕方だった。

 

「なんだろう」

 

と真田も言った。そのとき、ズーンと、腹に響く音がした。どこか遠くで寺の鐘でも()かれたような。

 

「なんだ?」とまた言った。「音が後から来る……?」

 

それはつまり――考えて、何が起きたかを真田は知った。外国のどこかに遊星が落ちたとき、数十キロ離れたところにいた人々が報道のマイクを向けられ、語っていたことと同じだ。つまり、ここから音速で数十秒かかるところに遊星が落ちた――古代の顔にも理解の色が広がるのを真田は見た。

 

急いで部屋を飛び出した。あちらからもこちらからも、同じように出てきた者らですぐ舎内は騒然となった。「何があった!」「遊星か?」「わからん!」とてんでに(わめ)き合う。

 

そのうちに誰かが言った。「どうも神奈川の方らしい。『津波を見た』なんて話が……」

 

「津波?」「神奈川のどの辺だ?」「海に落ちたってことか?」

 

と大勢が群がって言った。

 

「いや、よくわからないが……」

 

「神奈川」

 

と古代が言った。真田は友の顔を見た。まるで耐G訓練で血が頭から抜けたように蒼白だった。

 

真田も技術研究員と言ってもその種の訓練は受けている。眼に血液が行かないために真っ暗で何も見えなく感じる。今の古代もそうなりでもしたかのようによろめいた。

 

「おい、古代」

 

真田は友の体をつかんだ。古代は真田を向いたけれどその眼は死んだ魚のようで、こちらをちゃんと()ているように見えなかった。真田はさっきの巻き寿司に入っていたシラスの目を思い出した。寿司に巻かれた何十という茹でシラス。遊星が地に落ちたと言うのであれば、そこでは人があんなふうに――まるでおれの手足のように――。

 

つい、力を込めたがために、真田は自分が友の腕をヘシ折りかけているのに気づいた。しかし当の古代の方は、何も感じてないようだった。「ススム」とひとつつぶやいたが、それが友の弟の名だとそのとき真田は思い至らなかった。

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