「〈ヤマト〉が艦載機を出しました」
冥王星ガミラス基地でオペレーターがそう告げる。シュルツは「フム」と頷いた。
「どういうことでしょうね」と副官のガンツ。「やはり波動砲は撃てぬものと言うことなのか……」
「どうだろうな。出したのは無人機と言うことは考えられんのか」
オペレーターが、「この距離ではわかりません」
「だろうな。距離は七千か。こちらのビームをギリギリ
ガンツが、「波動砲を撃つ気なら、〈ヤマト〉はしばらくそれ以外の機能を停止するはずです。エンジンは推進力を失い、主砲も対空火器も撃てない……」
「と言う分析だったな」
とシュルツは言った。〈ヤマト〉の秘密は、すでにいくつか〈大ガミラス〉の知るところとなっていた。地球の上で十字空母を撃ったときの状況は離れた場所からスパイカメラで撮影され、細かく分析されていたのだ。
〈ヤマト〉の中に戦術士として新見が乗っているのと同じだ。そして新見がいつか話していたように、ガミラスは〈ヤマト〉の〈アキレス腱〉を探しにかかっていた。分析結果は波動砲発射前の数分間、〈ヤマト〉が無防備になることを高い確率で割り出していた。ゆえに、そこを狙えるなら、
シュルツは言った。「あの分析が正しいかどうかだ。戦闘機はどうやら船を護る布陣を取っているらしい」
「確かにそのように見えます」
ガンツが言った。32の戦闘機が四機ずつ八つの編隊に分かれ、〈ヤマト〉のまわりを囲むように動いている。別に二機だけが離れたところに位置を取るが、指揮管制を目的とした行動だろう。
「波動砲が撃てるのならば戦闘機など出す必要はないはずだ」シュルツは言った。「本来はな。しかし発射準備中、船が自分で身を守れなくなるのなら、戦闘機でまわりを囲む必要が出てくる。ほんの数分持ちこたえればいいのだろう。ならば使い捨ての無人機でよい。ドンと一発我らを吹き飛ばしたら、ロボット機は収容せずにサッサとワープで消えればいいのだ。そのときは、誰もあの〈ヤマト〉とやらを追うことはできん」
言いながらにその声は震えているようだった。それを聞く者らの顔も
無理もあるまい。今この場にいると言うだけで彼らは命を賭けているのだ。〈ヤマト〉がもし波動砲を撃てるなら一分後にみんな死ぬ。ひとりとして命はない……当然だ。あんなものを喰らってなんで生きられるはずがあるものか。
〈ヤマト〉は遂にやって来た。あの船首の巨大な砲口。分析によればあのシロモノは欠陥兵器であるとされる。今この場でどうせ撃てはしないと言う。だが確証は? ない。保証など何もないのだ。波動砲で一撃に殺られてしまう確率が二割ほどもあると言うのに今この場に残るのは、地球人の言葉で言う〈ロシアン・ルーレット〉に他ならない。五つ穴のレンコン弾倉に一発タマがあると知りつつ己のこめかみに銃口を当て、
だが、それでも覚悟を決めて、残らなければならなかった。〈ヤマト〉を迎え撃つに必要な最低限の人員を、残さなければならなかった。本来ならばこのような危険な賭けに
〈ヤマト〉に敗けたら、いずれにしても、自分達は終わりだろう。この星の基地を失えば、攻守は逆転してしまう。地球の艦隊に巻き返されて、護りを固められてしまう。そうなったら、もう二度と、地球を攻めることはできない――。
シュルツは司令室を見渡した。志願を
それでも、そんな死に方は……シュルツは思った。みな想いは同じだろうと。死ぬのであれば、それがどんなに苦しかろうと、あの〈ヤマト〉と戦って死にたい。それが軍人と言うものだ。
「〈ヤマト〉は波動砲発射準備中、数分間は無防備となる。それについては確かと考えてよいのか?」
シュルツは言った。ガミラスの時計で〈分〉に相当するものは地球人の六十秒とむろん同じなどではないが、ここで厳密な訳は避ける。今後もそのようなものである。ガンツが応えた。
「はい。それに関しては、確実と見てよいでしょう。小細工に意味があるとも思えません」
「後は波動砲が撃てるかどうかか。わざわざあの位置に船をつけるのは、こちらに対艦ビームがあるのを見越していると言うことだな。撃てるものなら撃ってみろ、と言うわけだ」
「そうですね。やつはこちらが弱点に気づいてるのを知っている。波動砲で吹き飛ばされたくないのなら、無防備の今がチャンスだぞ、と誘っているのでしょう。この距離ならば当たっても致命傷を受けはしない、と、そこまで計算しているのだと……」
「なるほど、
「さて……」
とガンツ。彼もニヤリと笑みを見せた。司令室内の者達も、皆いくらかの余裕を取り戻したように笑う。
「こちらには〈反射衛星砲〉があります」
ガンツが言った。シュルツは「そうだ」と応えて言った。
「では、狩りを始めよう。〈反射衛星砲〉準備はよいな。発射せよ。目標は〈ヤマト〉だ」