ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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ジャヤに旗を立てろ

『〈ヤマト〉より航空隊各機へ。聞こえるか?』通信機に相原の声が入ってくる。『ジャヤに旗を立てろ! 繰り返す。ジャヤに旗を立てろ!』

 

「了解!」

 

古代は言って、スロットルを開けた。〈ゼロ〉のエンジンが唸りを上げ、(はじ)かれたように加速する。

 

山本の〈アルファー・ツー〉がついてきた。さらにその後ろをタイガー隊が散開しつつ追ってくる。

 

そしてさらにその後ろ。〈ヤマト〉もまた加速しているのがレーダーの()に見て取れた。自分達とは少し進路をそらしながら冥王星へ進んでいる。

 

予定通りの行動だ。今、キャノピーの正面に見える冥王星はほぼ半円。その〈昼〉である白夜の圏に自分ら航空隊が行き、〈ヤマト〉は〈夜〉の側にまわって〈ジャヤに旗が立つ〉――つまり、敵基地に核が射ち込まれるのを待つ手はず。状況がこのようになっても計画に変わりはないということだ。今、作戦の第二段階が始まった。

 

しかし、それで大丈夫なのか? 古代としては思わないではいられなかった。あの奇妙な衛星が何かも確かめないで行くと言うのは――だが、いいや、と首を振った。もう(さい)は投げられたのだ。船のことは島に任せて、おれはおれの役目に集中するしかあるまい。

 

〈ゼロ〉はグイグイと速度を上げる。冥王星がみるみる大きくなっていく。隊を指揮するための戦闘機である〈ゼロ〉は、〈タイガー〉よりその速力は大きく上だ。誰より早く敵地に入って状況を掴み、フォワードとなって戦場を駆け巡るべく造られた機体なのだから――レーダーマップを切り替えて、作戦エリアの図を呼び出す。目玉焼きを見るような二重丸が画面に出た。

 

冥王星の白夜圏。中央の〈黄身〉の部分が〈ココダ1〉。古代と山本の二機の〈ゼロ〉に割り当てられた区域だ。外周の〈白身〉の部分はタイガーが八つの隊に分かれて飛ぶべき領域となる。指揮管制機である〈ゼロ〉は、〈タイガー〉が星に取り付く援護をするべく、まずどの機より先にそこに着かねばならない。

 

タイガー隊を引き離して、二機の〈ゼロ〉は冥王星の極圏を目指した。ニューギニアの最高峰、赤道の壁にちなんで名付けられたこの作戦。人を(はば)んできた〈(いただき)〉を征する役を与えられたのは、まさしくこの〈アルファー隊〉だ。

 

「魔女か」

 

と古代は言った。もはや星は前面の視野一杯を占めている。〈ハートマーク〉が窓枠からはみ出しさらに近づいてくる。地球人が肉眼で初めて()の当たりにする光景。

 

ゴツゴツとした岩肌までが眼に見える。それが人の顔に見える。冷ややかに(あざけ)り笑う女の顔に。

 

〈スタンレー〉だ。ついに来たんだ。ハーロックが抜けられなかった〈ココダの道〉に――その入口におれは来たんだ。古代は思った。兄さん、行くよ。見ていてくれ。おれは行くよ――。

 

レーダーが警報を鳴らす。敵の対空砲火の射程に入り込んだ(しら)せだった。そして行く手に(またた)く光。

 

ビーム弾幕の出迎えだった。まるで花火のスターマインがそこで炸裂しているかのようだった。古代は〈ゼロ〉をその中へと突っ込ませた。


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