ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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被害拡大

ビームはほぼ真横から〈ヤマト〉の舷腹を直撃した。その衝撃は全艦に伝わり、クルーの体をビリビリと、まるで寺の鐘が撞かれた内側にいるかのように震わせ、立っていた者を何人も床に転がした。

 

無論、被弾した箇所にいたクルーはそんなものでは済まない。外側の装甲レンガを打ち砕いて内部にまで達したビームは、そこで力を炸裂させて船の内壁を焼けた無数の破片に変え、近くにいた者に浴びせかけた。爆風が船の中を抜けた後、逆向きに風が流れて艦外に物を吸い出させる。また幾人か宇宙に消えた。

 

今の〈ヤマト〉は冥王星の地表からほんの数キロ上におり、速度は落とし切っていてビームを()けることはできない。対艦ビームはそこを狙いすましての一撃をかけてきたのだった。先ほどの、後ろから艦橋を狙ったような手口とは違う。小細工なしのド真ん中狙いだ。

 

すぐさま南部が指示を飛ばし、副砲が敵の衛星を撃ち抜く。これで同じ衛星から同じ箇所に直撃

をまた喰うことはなくなったが――。

 

『Cブロック被害甚大! 負傷者多数です!』『右舷前部スラスター損傷! 七番と八番使用不能です!』

 

報告が艦橋に送られてくる。航海部員は島や太田に、砲雷部員は南部に、と――受け取る者達の顔に苦渋の表情が浮かんだ。

 

今は心を鬼にしなければならないときだ。船が被弾を受けたとしても何がダメになり何がまだ使えるかの把握に努め、死傷者については脇に置かねばならない……けれど、できるわけがなかった。艦橋クルーは全員が百人からそれ以上の部下を持ち、その全員の顔と名前を知っていた。誰がどのように〈ヤマト〉に乗り組み、どんな役を(にな)っていて、そのおかげで自分の仕事もできるのかを……この〈ヤマト〉に死なせていいクルーはいない。失くしていい部下などいない。

 

なのに、タマを喰らうたび、それが失われていくのだ。艦橋からは、吸い出されて宇宙に消える人間も見えた。自分の部下の誰がどこに配置されているのか知らぬ者などいなかった。だから思わずいられなかった。いま死んだのはあいつかもしれない。それともあいつか、でなければあいつ……。

 

そうでなくても傷つき動けずいるかもしれない。あの辺りにいるオレの部下はあいつとあいつとそれからあいつか。なんとか無事でいてくれるのか、と。

 

〈ヤマト〉はすでに何発も被弾を受けてしまっている。敵のビームは一体どこからどのように撃ってくるのかわからない。このままでは無駄な犠牲を増やすだけ。

 

誰もがそう思わずにはいられない状況だ。そしてまた、いつまでも〈ヤマト〉がもつはずがないのもまた明らかなことだった。この調子でビームを喰らい続ければ、〈ヤマト〉はいずれ完全に戦闘不能に陥るのは目に見えている。冥王星の氷の大地に〈坐礁〉させられ、その後は、トドメの一撃でお陀仏(だぶつ)だ。

 

しかし、

 

「新見君」と沖田が言った。「今の直撃だが、さっき艦橋を狙ったものよりビームの威力は弱いように感じた。正確なところがわかるかね」

 

「は? ええまあ……そう言えば、弱いと言えば弱かったようですが……」

 

新美はカチャカチャとコンピュータのキーを叩いた。それから言った。

 

「はい。確かに、威力はだいぶ低かったようです。直撃したのにごく一部が損傷しただけ……さっきここを狙ったものは、当たれば艦橋が丸ごと吹き飛んでいたレベルだったのに、今のビームはその半分程度の力で撃たれたらしい……」

 

「そうか。だろうな」

 

「え? どういうことです?」太田が言った。「ほんとはもっと強い力で撃てるのに、わざとビームの出力を弱めて撃ってきたとでも?」

 

「『とでも』ではない。そうなのだ」と沖田。「これではっきりしただろう。やつらは、この〈ヤマト〉を一撃で仕留める気はないのだよ。だからさっきから言っとるだろう、『考えればわかるはずだ』と。やつらはそうせざるを得んのだ」

 

「あ」

 

と何人かが言った。確かに沖田は先程にそんなことを言っていた。そして今の直撃は、その言葉を証明したと言えなくもない。今〈ヤマト〉を苦しめている敵の奇怪な対艦ビームは、本来もっと強力な威力を持っているらしいのに、敵はわざわざ出力を抑えて撃ち放っているのだ。

 

これは〈ヤマト〉を一撃に沈める気がないと考える以外にない。こちらにとって好都合なことではあるが、しかしどうしてそんな真似を?

 

「わからんか? ガミラスは、この〈ヤマト〉をジワジワと嬲り殺しにする気でいるのだ。やつらにはそうせねばならんわけがある。それが今はっきりした」

 

沖田は言った。

 

「敵は〈ヤマト〉を生け捕りにして秘密を奪い取ろうとしている」

 

 

 

   *

 

 

 

「それで? 秘密ってなんの話だ」

 

斎藤は言った。第三艦橋。メチャメチャにされたラボから負傷者を連れてやっと抜け出してきたところだ。

 

「敵は〈ヤマト〉を完全には破壊せず中を調べようとしている。主砲とかサブエンジンの力はこっちが上だから技術を盗もうとしていると、そういうことか」

 

「ええ、それもありますが……」

 

とさっきの部下が言う。もう空気も重力もある区画に入ったので通信機を通さぬ(じか)の声だ。

 

地球は決して科学技術でガミラスに劣ってはいない。この八年の戦いがそれを証明しているのは確かだ。ガミラスは波動エンジンを持つがゆえ地球の船を圧倒するが、それ以外はむしろ劣る。地球人にはガミラスより火力だけなら強い船、速度だけなら速い船を造ることさえ可能だった。

 

この〈ヤマト〉は地球初の波動エンジン船である。これでガミラスと互角どころか、従来の技術によって敵を凌駕(りょうが)する性能を持つ。〈ヤマト〉の火力と速力は、十のガミラスを相手にして楽に勝たせるものであろう。

 

強さの秘密は主砲とサブエンジンにある。ガミラスが〈ヤマト〉を拿捕して技術を盗みとろうとするのは当然のこととも言えるが、

 

「それだけじゃありません」とラボの科学部員は言った。「砲やエンジンの技術なら、〈ヤマト〉でなくても他にいくらでも船はあります。〈ヤマト〉だけが持っていて、敵がどうしても欲しがりそうな技術と言えばひとつだけです」

 

「って、つまり――」

 

「ええ」と言った。「波動砲です」

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