ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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行くか行かぬか

敷井の一隊が戦場にたどり着いたとき、見えるのは白い煙ばかりだった。スモーク弾の煙幕に包まれ、変電所を見ることはできない。ただ、煙の奥にある照明の光がそこに敵がいるのを教えている。

 

煙のために、レーザービームの飛び交う光が眼にクッキリと鮮やかに見える。凄まじいまでの敵の弾幕。そこに兵士が突っ込んでいき、撃たれてドウっと倒れるのが黒いシルエットで見える。

 

「ひるむなーっ! 行けーっ! 進むんだーっ!」

 

叫び声がする。その声が地下の空間に(こだま)する。だがそれも、ドーンという爆発音にかき消された。声の主は迫撃砲にでも殺られたか、それきり何も聞こえなくなる。

 

だが静寂は一瞬のことだ。すぐまた別の誰かが叫び、銃声がオーケストラで鳴り響く。突撃の足音が地を響かせて、爆発の大音響が地下空間の壁と柱と天井を震わせ、谺にして反響させる。

 

地には死体が転がっている。傷つき這いずる者もいる。地面のわずかな起伏の上を血が流れ動いていた。靴の底でヌルついて足を滑らせようとする。

 

「ひでえ……」

 

と誰かが言うのが聞こえた。それに対して、「見るな」と応える者がいる。肩にしていた銃剣を下ろし、吸入器の酸素を吸って、

 

「行こうぜ。ここまで来たんだからな」

 

「っておい。本当に行くのか?」

 

「たりめーだろが。逃げたところで何時間かで息ができずに死ぬだけなんだぞ」

 

「そりゃわかってるけどさ」

 

言ってるところにパルスビームで斉射され、榴弾まで飛んできた。近くで炸裂。皆たまらず血の池に伏せる。

 

「見ろ! ここにいても殺られるだけだ。それよりは突撃しよう!」

 

「って、ちょっと待て!」

 

言い合いになる。他の者は顔を見合わすばかりだった。敷井もまたどうしていいかわからなかった。

 

「考えろよ! 突っ込んでも死ぬだけだぞ」

 

「そんなことはない! この人数で行けば敵を何人かは殺れる! おれ達がたとえ玉砕しようとも敵を全員殺ればいいんだ。おれ達の後に続く者はいるが敵はそうじゃないんだからな!」

 

「いーや、これじゃただの(マト)だよ!」

 

「やかましい! おれだけでも行ってやる!」

 

言って、その男は銃剣を手に雄叫び上げて突っ込んでいった。煙の中に黒いシルエットになって消える。

 

残った者らはあらためて顔を見合わせた。

 

「どうする?」

 

「どうするって」

 

と、敷井は聞かれて言った。自分達は寄せ集め部隊。指揮する者が存在しない。仮にでも上に立つ者がいたならば、おそらく今の男の理屈で突撃せよと命じられ、やけくそになって行ったに違いないところだが、しかし士官は死んでしまった。今の男がひとり向かっていったからって、後に続こうという気になれない。

 

だからと言って、じゃあ逃げようという考えを持っていそうな顔もなかった。元来た方を振り返ってもあるのは暗闇。チラチラと火事の炎が見えるばかりだ。

 

たとえ逃げても家になど帰りつけるわけがない。闇の中で息ができずに死ぬだけだ。それがわかっているのに、どうして逃亡する気になるか。

 

また、現実に逃走が可能であるとも思えなかった。

 

「行くしかないだろ。後ろに下がろうなんてして、やって来るもんとぶつかってみろよ。問答無用で撃ち殺されるぞ」

 

敷井は言った。足立が「だよな」と頷いて、他にも「うん」と言う者がいる。

 

うん、そうだ、とあらためて思った。この戦場には次から次に兵が送り込まれている。トラックやタッドポールが兵士をピストン輸送して、さらに歩きでもやって来る。多くが自分達と同じ寄せ集め部隊だろう。当然、なかには銃剣突撃などはイヤだと脱走を試みる者がいるだろう。

 

こんなにたくさん兵がいるんだ。だからおれひとりくらい逃げても別にいいだろう。変電所を奪還して、石崎を殺す役目は他の人に任せるよ――なんてことを考えて、ひとりバックレを図ろうとする。

 

しかし戦場という場所で、そういう者を許すわけにはいかないのだ。ひとり許せばオレもオレもと他の者が言い出しかねない。だから隊を指揮する者は、敵前逃亡を見つけたら問答無用で射殺する、と下に対して言わねばならない。ましてや今のこの場所は、負傷者を見ても救けず突撃せよと叫ばねばならぬような場所。

 

そうだ、と思った。もし逃げようなどとすれば、絶対にすぐに見つかり撃ち殺されることになる。それどころか、今この場にいる者達に対しても、『オレは逃げるがお前どうする』などとは冗談にも言えない。言った途端に『ふざけるな』と銃剣を突きつけられるに決まっている。

 

これはそういう戦いなのだ。いま戦わねば人類は滅ぶ。明日という日はないというこのときに、〈逃げる〉という選択肢は残されない。

 

「けどどうする?」とひとりが言った。「突っ込んでも無駄に死ぬだけだと思うぞ」

 

「そうだな」と別のひとり。「でも、ここにいても死ぬぜ」

 

「それは……」

 

とまた別のひとり。そのとき、また砲弾が近くで(はじ)けるのが見えた。いずれ自分らのいる場所に同じものが落ちるだろう。そのときこそ全員無駄死に。

 

ここまで来ながら人類を滅ぼそうとする者達に何もせず、首も手足ももぎ取れて内蔵をブチ撒けさせたバラバラ死体が血の池の中に十数体だ。ならば皆で銃剣構えて突撃かけていった方がひとりでも敵を倒せる望みがあるというもの。理屈を言えばそうなのだが……。

 

しかし――と思った。銃剣突撃。そんなのは号令かける人間が誰かいなければできるようなものではなかった。この中に、行こうと言って他を従わす者がいない。敷井達は何もできずに顔を見合わすだけだった。

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