ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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ココロア

「通じたかな」

 

古代は言った。〈ゼロ〉のキャノピー窓の向こうに霜降りの白茶けた地が広がっている。〈糸電話〉で山本の声が入ってきた。

 

『島操舵長が聞けば、なんの符牒(ふちょう)かはわかるでしょうが……』

 

「問題はその先だよな」

 

自分が送った電文の意味を〈ヤマト〉が読み取ってくれるかどうか。あの真田という男が、そこから危機をくぐり抜ける策を講じられるのかどうか。〈ヤマト〉がふたつにヘシ折れてこの氷原に沈めれる前に。

 

ダメならおれもこの〈ハートマーク〉の上で霜に埋もれておしまいだ。『ココロア』と言えば島には通じる――はずだが、しかしその先は――。

 

いや、考えるだけ無駄かと思った。どのみち、おれに今できるのはこれが限度だろうから。カクカクビームは〈ヤマト〉がなんとかすると信じて、あらためてこの〈ココダ〉をおれは飛ぶ以外にない。

 

それにしても、とまた思った。相変わらず敵はおれと山本には何もしてこずタイガー隊も何も言ってこない。今のところどうやら全機存命らしい。それは結構なことだが、しかし……。

 

すでに〈ココダ〉を半分以上飛んでいる。基地があるなら、もうそろそろ、おれでなくてもタイガー隊の誰かが何か見つけていていいはずだ。それがないと言うのはなぜ……。

 

まさか、敵は白夜にいない? おれはてんで見当違いの空を飛んでいるのじゃないか。

 

そんな疑念を抱かずにはいられなかった。それとも、基地があるのに気づかず上を通り過ぎて……。

 

そんな思いも頭をよぎる。〈ココロア〉か――古代は思った。見渡す限り霜に覆われた氷の原野。どうする。基地が眼の前にあってもとても見つけられないようなものであったとしたら……。

 

いいやまさか。自分の言葉に自分が惑わされてどうする。〈ココロア〉と言えば〈オキ〉とか言っても、なんのことやら意味はさっぱり知らないと言うのに。 

 

そうだ。〈ココロア〉と言えば〈オキ〉――けれども、それは実のところ、どういう意味なんだろうなと、今更のように古代は思った。ひょっとして、やっぱりおれが今やっているようなことなんだろうか。

 

空に無数の星の光。この中に、あの奇妙な花のような衛星がある。もし適当に突っ込んで落とせるものならいいのだろうが、しかしひとつ殺れたとしても……。

 

バカバカしい、おれは何を考えてるんだと思った。この霜降りの平原の中に敵の基地があったとしても闇雲に核を射ち込めば討てるというものでない。そんなことはわかっているからこうして苦労してるんだろうに、何を……。

 

しかし〈ココロア〉か。ほんとに、どんな意味なんだろう……島なら知っているんだろうかと、古代はぼんやり考えていた。


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