「氷を割って海に逃げ込んだと言うのか、〈ヤマト〉は!」
シュルツは言った。スクリーンには噴水の中に突っ込む〈ヤマト〉を衛星がカメラで捉えた画像が映し出されている。
「こしゃくな……しかし、本当に海に潜り込んだのか? 途中でひっかかってくれてるようなら大助かりだが……」
「わかりません。いま探査中です」
とオペレーター。その横でガンツが、
「海中に潜っていたら、どうします。ビームでは攻撃できませんが……」
「フン、どうせあと何発も撃てはしなかったのだろう。注意エリアにやつはまっすぐ入ろうとして向きを変えた。そのまま行けば砲台に行き着いたかもしれぬところを、寸前でな……つまりやつは、〈反射衛星砲〉の秘密をまだ解いてはおらんのだ。勝負はまだこちらに分がある」
「そうとも言えるでしょうが、いずれ……」
「だろうな。時間を与えれば、やつは力を回復する。深手は負わせていないのだから、ほんのひと息つくだけでやつらには充分だろう。そしておそらく、衛星砲の〈死角でない死角〉に気づく……」
「そうなると厄介では?」
「わかっている」シュルツは言った。「だがやりようはあるさ」
*
〈ヤマト〉は海底に錨を下ろし、第三艦橋を地に触れさせんばかりにして暗い水の中にいた。第一艦橋では南部が窓に顔を張り付けんばかりにして、メガネの奥の目をすがめて外を凝らし見ている。
島が言った。「何してるんだ?」
「いや、別に……」
「遊んでる暇はないぞ」沖田が言った。「時間を与えられたのは、敵も同じだと考えねばならん。我々が外へ出るのを待ち受ける態勢を整えようとするはずだ。グズグズしてると避難させていた九十の船を呼び戻されるかもしれん」
相原が言う。「そうなったら……」
「そうだ。こちらに勝ち目はない。〈ワープ、波動砲、またワープ〉とできないことは、完全に敵に知られたと考えなければならんのだからな。やつらにすれば最小限の戦力で〈ヤマト〉と戦う必要はもうなくなったわけなのだ。この真上に百隻で網を張られてしまったら、とても逃げることはできん」
「百隻で……」
と南部が、まだちょっと、外を気にする顔で言った。多勢を相手にするとなれば、砲が焼き付く心配を最もしなければならないのがこの男だ。
「戻してくるでしょうか?」
「どうだろうな」と沖田は言った。
*
「いや、それはせん」シュルツは言った。「〈ヤマト〉とは、今あるだけの戦力で戦う。一度避難させた者らを呼び戻すことはしない」
「ですが……」とガンツが言った。「その方が確実に〈ヤマト〉を捕えられると思いますが」
「そりゃそうだろう。だがな、駆逐艦や軽巡洋艦と言ってもタダじゃないんだぞ。一隻一隻に何百人も乗ってる。その命もタダではない。そして〈ヤマト〉も死に物狂いで逃げようとするに違いあるまい。小型の船でやつの前をふさごうとすれば、十隻や二十隻はあの主砲で殺られてしまうに決まってるのだ。それがどれだけ莫大な損失になるか考えてみろ。ガンツ、お前に、それが弁償できるのか。地球人のアニメに出てくる絵に描いた船と違うのだ。一隻沈むごとにわたしの失点となるのだ」
「はあ……」
「別に保身でものを言っているわけではない。
「わかりました。しかし〈反射衛星砲〉は……」
「そうだ。やつは間違いなく、すぐにもあれの弱点に気づく……だが問題ない。次は手加減なしの一撃をお見舞いしてやるだけだ。そのための〈カガミ〉はまだ残している」
「ですが、弱点に気づいたら、やつらは砲に戦闘機隊を向かわすのではありませんか?」
「それがなんだ。砲台には〈バラノドン隊〉を護りに付けているのだろうが」
「はい。それはそうですが」
「そうだろう。それに〈反射衛星砲〉は、もう充分に役目を果たした。これからは戦艦の仕事だ」
言ってシュルツは、スクリーンに映る〈ヤマト〉が消えた一帯を指した。
「氷が薄いのはここだけだ。だから〈ヤマト〉は、またここから外に出てくる他にない。そこで待ち構え捕らえるのは、やはり船の役目となる――そのために最も大型の戦艦だけを三隻残した。〈ヤマト〉の砲でもそう
「はい。三隻とも、すべて完璧に整っております」
「よかろう。発進させたまえ」
「はい!」
司令室内が
「さて」とシュルツは言った。「戦力はこれで充分だとは思うが、しかしもうひとつ手を打つとしよう。海中にいる〈ヤマト〉を叩く方法だが……」