ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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戦艦

『戦艦だ……』

 

部下のひとりがつぶやく声が加藤の耳に入ってきた。加藤のチーム、〈ブラヴォー隊〉は他のタイガー編隊と同じく四機編成だ。他のふたりの部下もまた、通信機に言葉を入れる。

 

『二隻、いや、三隻か……』『やつら、あんなところに……』

 

加藤のレーダー画面にも三つの指標が映っていた。冥王星の衛星から現れ出た三つの物体。コンピュータはそれをいずれも大型の船であると認識している。

 

肉眼でも見て取れた。カロンの〈夜〉の部分に三つ、蛍のような光る点が動いている。波動エンジンの噴射炎に見間違いようはない。

 

「カロンにいたのか……」

 

加藤は言った。今、自分らはこの星の〈昼〉の面を飛んでいる。

 

ガミラス基地は冥王星の白夜圏のどこかにある――ずっとそう言われてきたし、それが正しいと思われていた。この星の北半球はこの数十年ずっと闇夜で、太陽の方を向きもしない。そんなところに基地を置いてもしかたあるまい、と。

 

だから南半球の今は白夜の面だけ探せ――その考えの元にこの作戦も立てられて、今こうして飛んでいる。レーダーマップには索敵を命じられた範囲が映し出されている。残すところあとわずかだ。

 

これまでは、何も発見できなかった。

 

疑心暗鬼と闘いながらの飛行だった。見込みが外れていたらどうする。基地は本当にこの中にあるのか。あったとして、攻撃に成功するまで〈ヤマト〉が耐えてくれるのか。百もの敵が一斉に襲いかかってきたらどうする――しかし敵は、自分達にはどうやら何もしてこない。それがかえって不気味に感じた。

 

捜索を半分ばかり終えたところで、より不安が募ってきた。ひょっとして基地に気づかず通り過ぎてしまったのでは? おれじゃなくても、他の隊がそうしてしまったなんてことは?

 

そして〈ヤマト〉だ。どうやら敵の対艦ビームが、人工衛星で反射させて船を狙う仕組みと言うのは、この隊でも部下のひとりが気づいていた。〈アルファー・ワン〉が〈ヤマト〉に向けて妙な電文を打ったのも、ここで傍受し、意味を察し取れていた。

 

だが、その後、天を横切り折れ曲がる光を見ない。それはつまり――。

 

〈ヤマト〉がもう沈んでしまったと言うことでは? 自分達の戻る場所がもうないと言うことじゃないのか?

 

そんな思いが胸の内で膨れ上がる。加藤が不安を押さえられずにいたところに、その三隻の戦艦らしいガミラス船が現れたのだ。まったく思いもしなかった場所。連星カロンの夜の面。

 

「どういうことだ?」加藤は言った、「まさか、基地はあっちにあるなんて言うんじゃないだろうな?」

 

 

 

   *

 

 

 

『いいえ、それはないでしょう』

 

山本の声が通信で入ってくる。カロンの〈夜〉の中から敵の戦艦が現れたと知って古代が、『やつらの基地はあっちなのでは』と言ったのに対し、返してきた言葉がそれだ。

 

山本は続けて、『もしそうなら、これまでにわからなかったはずがありません。冥王星であれカロンであれ、〈夜〉の中で光るものが動いていれば、いくらなんでもとっくに見つけているはずです』

 

「そうか、そういう話だったな」

 

『おそらく万一の事態を避けて、あそこに逃げていたのでしょう。敵は〈ヤマト〉が波動砲を撃てないことに百パーセントの確信が持てなかったはず。もし撃てたらおしまいだから、この星にいるわけにいかない。だから避難したものと見せてあそこに隠れていたのじゃないでしょうか』

 

「そうか」と言った。「なら、〈ヤマト〉は……」

 

『はい、おそらく健在です』山本は言った。『少なくとも、沈んではいないと……』

 

 

 

   *

 

 

 

「どうにかして、〈ヤマト〉はビームを避けたと言うのか」加藤は言った。「だから、代わりに戦艦で敵は〈ヤマト〉を討とうとしている?」

 

レーダー画面の中の三隻の船は、カロンの母星であるこちらに向かって来ようとしているらしい。この三隻が戦艦ならば、そうする理由はなるほど考えれば明らかだった。その艦隊で〈ヤマト〉を沈める。敵がそのつもりであるなら、逆に言えば〈ヤマト〉はまだ沈んでいないと言うことになる。

 

「おれ達の帰るところはまだあるってこと……」

 

『そういうことでしょう』部下の声が通信で来た。『やつらは〈ヤマト〉が波動砲を撃てるかどうかわからなかった。けれど撃てるものならば撃つに決まっているのだから、ここに戦艦を残しておけば星と一緒に吹っ飛んでしまう。そこであっちに置いて……』

 

「そうか」と言った。「別にあそこに基地があると言うわけではないんだな」

 

『と思いますね』

 

「だが、ここでも見つからないぞ」

 

『それは……』

 

と部下が言う。加藤はレーダーマップを見た。このどこかに基地が在る、だから探せと指示された直径千キロの円。だが、そろそろ割り当て範囲は索敵を終えようとしている。

 

どういうことだ、と加藤は思った。〈基地は白夜に在る〉という見込みがそもそも間違っていた? それとも、こちらの想定よりはるかに巧妙に隠されていて、気づかず上を飛び越していた? 

 

どちらにしても、このままでは作戦失敗――いや、考えるな。まだ索敵を終えないうちは、任務に集中しろと考え操縦桿を握り直す。しかし加藤は(あせ)る気持ちが膨らむのを抑えられそうになかった。


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