ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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ドリルミサイル爆雷

ドーン!という轟音とともに床が揺れる。『揺れる』などと言うものではなかった。〈ヤマト〉という船が一個のカクテルシェーカーで、超巨大な斎藤副技師長に振られでもしたかのような衝撃だった。

 

そのとき佐渡先生は全身が血まみれになって手術台に向かい、ケガ人の胸を切って開けた口に手を突っ込んで、止まっている心臓を掴んでギュウギュウ揉んでいるところだった。

 

「ええい、動け! 動かんか!」

 

そう叫んで揉んでいたが、心電計は直線のまま。

 

そこへドシーンだ。衝撃で、手術台から患者はフワリと一瞬飛び上がった。そして落下――と、佐渡先生は、手にドックンと物が膨らむ感触を受けた。

 

「おおっ?」

 

見れば心電計がニューギニアの山脈みたいな線を表している。止まっていた患者の心臓が見事に脈を打ち出したのだ。

 

「なんと!」

 

言ったときだった。またドシーンと衝撃が来た。床が傾き、器具が散らばる。

 

「な、なんじゃあーっ!」

 

無論、医務室ばかりではない。船全体がグラグラ揺れた。船務科室では森がちょうど部屋に入りかけたところでドーンと来た。森はたまらず床に転がる。

 

続けざまにドドーン、ドドーン。

 

「な、なに?」

 

「爆雷です!」部下が叫んだ。「やつら、水中を〈ヤマト〉めがけて……」

 

「落としてきたの? でも、上は氷なんじゃ……」

 

「ええ、それはそうなんですが……」

 

と部下は言う。今の〈ヤマト〉は水中にいて、潜水艦行動をしている。潜水艦の天敵と言えば爆雷だ。〈ヤマト〉に対して敵が爆雷攻撃するのは当然。

 

とは言っても、この〈海〉は分厚い氷に上を閉ざされている。爆雷など落とそうにも落とせるはずが――。

 

ない。しかしそうなのだった。それどころか、それは〈ヤマト〉のクルー達が、すでによく知る物体だった。

 

今、水中の〈ヤマト〉めがけて落ちてくるのは爆雷であって爆雷でない。かつて沖縄の基地を潰し、発進前の〈ヤマト〉めがけて八方から進んできたもの――そう、〈ドリルミサイル〉だった。敵はあのミサイルを爆雷にして〈ヤマト〉に雨と降らせてきたのだ。

 

前回は地面の下を水平に〈ヤマト〉に向かってきたミサイル。それが今度は垂直に、〈ヤマト〉が潜った〈海〉の上の氷を掘り抜き、一個の爆雷となる。そうして水中を落ちてきて、〈ヤマト〉の近くで爆発したのだ。

 

一基二基のことではない。十、二十……いや、もっとだ。第一波の後に続いて、次から次に宇宙空間を飛んできて氷に刺さりドリルを回す。硬い岩盤も掘り抜くドリルの刃にとっては、冥王星の固体窒素と固体メタンの氷などなんというものではない。百、二百という数が、〈ドリルミサイル爆雷〉として今〈ヤマト〉に迫りつつあった。

 

冥王星の氷原は、数キロメートル四方に渡ってドリルが掘った穴だらけになっている。まるである種のチーズを切った断面を見るようだった。

 

ひとつひとつの穴ボコの中に、チーズを食べる虫のようなミサイルが。〈ヤマト〉はその虫どもが進む真下の海中にいた。一発でも当たったならば爆発でやられるだけのことでは済まない。そこからドッとマイナス数十度の水が艦内に流れ込むだろう。そうなったら命はない。

 

次から次にミサイルが、〈ヤマト〉の周りで起爆して暗い深淵を照らし出す。水中ではすぐ火は消えるが、衝撃は球形の波を作って広がって、水圧の壁で行く手にあるものを叩くのだ。〈ヤマト〉は四方八方から、人工の海底津波に襲われていた。

 

そのたびに船はガクガクと揺さぶられ、床は暴れて跳ね動く。中にいる者はたまったものではなかった。

 

そしてまた、一発が、〈ヤマト〉の直上からまっすぐに甲板めがけて落ちてきていた。今の〈ヤマト〉に(かわ)(すべ)があるわけもない。ひとつでも直撃すれば一巻の終わりだ。しかし――。


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