ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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粉砕

『波動砲発射準備中、エンジンの推進力は失われ、艦内の電力供給も不能となる。よってバッテリーを予備電源に持つ機器以外は機能停止だ。総員、停電に備えよ。三、二、一……』

 

いきなり声がしたかと思うと、古代の部屋の照明がパッと消えて真っ暗になった。テレビも消える。空調のファンさえ止まったようだった。

 

そして、その暗闇の中で、体がフワフワ浮き上がる。人工重力もやはり失われたのだ。

 

「え? え? え?」

 

彼はさておき、

 

「波動エンジン内圧力上げろ。非常弁全閉鎖」

 

「非常弁全閉鎖!」

 

「波動砲への回路開け」

 

「回路開きます!」

 

「波動砲薬室内、圧力上がります!」

 

「全エネルギー波動砲へ。強制注入機作動」

 

「波動砲、安全装置解除」

 

「安全装置解除! セイフティロック・ゼロ。圧力、発射点へ上昇中」

 

「最終セイフティ解除。圧力限界へ!」

 

第一艦橋で声が飛び交っていた。ひとつの操作がされるごとに、船のどこかで丸太のようなシリンダーがスライドする。〈ヤマト〉の後ろで千メートルの大巨人が、エンジンノズルに大木ほどの鍵を差し込みガチャリと回したかのようだった。リボルバーの撃鉄が丸い弾倉を回すように樽のようなピストンが動く。炉で溶かした熱い銅を、巨大な鐘を造る鋳型(いがた)へ流すようにもそれは見えた。

 

実際、その砲口は、大仏にでも突かせるための寺の鐘を横にして、艦首にネジ込んだように見える。象が入るほどのその穴に、ホタルのような点光がどこからともなく集まってきた。砲口の奥に集約されたエネルギーが一種の磁力を持ち、かつては仮想の存在と呼ばれた光より決して遅くはなれないはずの粒子にビーズを作らせそこに引き寄せてるのだ。

 

キュルキュルとした金属が軋み鳴り出す音が、艦内に響き渡ってゆく。ありとあらゆるメーターがレッドゾーンを示していく。徳川が言った。「エネルギー充填、120パーセント」

 

沖田が言う。「波動砲用意。島、操縦を南部に渡せ」

 

「はい。渡します」

 

島が操縦桿を離した。むろん南部に許されるのはヨーやピッチの微調整だけだ。今の〈ヤマト〉は、中で(おもり)を振り回して上下左右に舳先を動かすことしかできない。

 

「受け取ります。ターゲットスコープ・オープン。電影クロスゲージ、明度二十」

 

南部の前に照準器が立ち上がった。ハーフミラーのガラス板に揺れるレティクルが浮かび上がる。

 

「目標速度、四十宇宙ノット」「タキオン粒子出力上昇」

 

太田や徳川が口々に唱える。沖田が言った。「発射十秒前。耐ショック、耐閃光防御」

 

全員が目に、日蝕用サングラスのような黒いアイプロテクターを掛けた。

 

「発射五秒前」南部が言った。「四、三、二、一……」

 

照準の輪はまだユラリユラリと動き、豆をつまめぬ箸のように標的の上をやり過ごしている。だが、それでよかったのだ。南部は最後の一秒に、突き刺すようにマトを捉える(すべ)を心得ていた。スッと動いた輪が敵艦に重なった。

 

「ゼロ、発射!」

 

轟音。船が見えない壁に衝突したような衝撃が襲った。艦橋の窓が白い光でいっぱいになる。

 

〈ヤマト〉の艦首から放たれた光は、長さ百万キロにも及ぶ巨大な白い滝となって宇宙空間を突き進んだ。地球と月の間の距離の三倍ということであるが、数字でその凄まじさを感じ取ることはできないだろう。しかし、まさに月などは呑み込みそうな光だった。それが消え去ったとき、質量にして〈ヤマト〉の十倍もあったはずのガミラス空母の姿はもうどこにもなかった。塵も残さず蒸発してしまったものに違いなかった。

 

しばらく、誰もが茫然としていた。そのあまりの破壊力に恐れ(おのの)いているようだった。やがて照明が点き出して、重力も艦橋内に戻ってくる。

 

「は……ははは」南部が笑って言った。「どうだ、ガミラスめ」

 

アイプロテクターを外して立ち上がる。

 

「やったぞ! これなら〈スタンレー〉ごとやつらを消し飛ばしてやれる。太陽系からあいつらを追い出してやれるんだ!」

 

「南部」

 

と沖田が言った。しかし彼には聞こえていないようだった。

 

「ハハハハハ! どうだ、ざまあ見ろ! 次はこっちが滅亡させてやる番だ! この船で必ず星を見つけ出して滅ぼしてやる!」

 

「南部、敵を(あなど)るな!」

 

沖田は怒鳴った。南部はビクリと身をすくませる。

 

全員が沖田を向いた。沖田は何か考えげに、目から外したアイプロテクターと制帽をもて遊んでいた。それから帽子を被り直して言った。

 

「確かにたいした威力のようだが、〈スタンレー〉で使えるかはなんとも言えん」

 

「いえ、ですが……」

 

「だから敵を侮るなと言っとるんだ。この力を見た以上、やつらは必ず何がなんでも〈ヤマト〉を止めにかかってくるぞ。冥王星に着かれたらおしまいなのはわかりきっとるんだからな」

 

「そんな……しかし、ならどうして……」

 

「同じことだからだよ」沖田は言った。「どうせ警戒されてるんだから、波動砲の威力を見せようと見せまいとなんの違いもなかったのだ。秘匿に意味がないのなら、いま撃った方がいい。もともと敵地にまで行けば百隻で襲ってくるのは変わらんのだし」

 

「そうだ」と真田が言った。「波動砲で撃てる距離まで、冥王星に敵は近づかせてくれない。たとえ星を吹き飛ばしても、その後、ワープに入る間もなく取り囲まれて殺られてしまう。そのように算定されているはずだ」

 

島も言う。「マゼランへの道を急がなきゃならないんだから、遅い艦隊をゾロゾロ連れてくわけにいかない。〈スタンレー〉をやるとしたら、〈ヤマト〉一隻で行くしかないんだ。百隻相手に勝てるわけないだろ?」

 

「そんな……」と南部。「それじゃ、やつらをほっとくんですか? 遊星爆弾を止めないんですか? このまんまガミラスに太陽系を好きにさせとくって言うんですか?」

 

「そうは言わんさ。まあ見ていろ。わしは艦長室に上がる」

 

沖田は言った。それから窓に眼を向けた。まだ地球を離れてもいない。眼下には赤い大地が広がっている。ところどころに遊星の落下で出来たクレーター。

 

沖田は言った。「願わくば、この船出(ふなで)が絶望した人々にひとすじの希望を(とも)すものであってほしいが……」

 

 

 

   *

 

 

 

〈ヤマト〉の時計はグリニッジの時間に合わせられている。その針がちょうど零時になるところだった。カレンダーが示す日付は九月二十日。人類存続が(かな)わなくなるとされる日まであと暫定(ざんてい)365日――このとき、古代はアングリと口を開けてテレビを見ていた。〈ヤマト〉とやらが何やらバカでっかい砲を撃つのを捉えた映像が映っている。重力が戻ってベッドに落ちて、部屋の(あか)りにテレビも点いたと思ったら画面に出たのがそれだったのだ。

 

「な、なんで?」古代は言った。「なんで、昔の軍艦が空飛んで、先っぽから火を吹くわけ……?」

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