変電所の中は機械の密林だった。敷井は眼の前の光景に圧倒される思いだった。他の者らもアッケにとられて前に広がるものを見る。
「嘘だろ……」「なんだこれ……」
誰からともなく声が出た。高さ10メートルかそこらのボーリングのピンのようなものが、ボーリングのピンのようにドカドカと並び立っている。おそらく変圧器とやら言うものなのだろう。かつて地上の街で見かけた電信柱の上に載っていた変圧器――あのゴミバケツにあれこれくっつけたようなもの――を大きくしたような見かけなのでそれとわかるが、ともかくデカい。
それが林立し、上の方では木が枝を広げるように電気ケーブルやパイプを四方に伸ばしているのだから、まったく『機械の密林』としか呼びようのない光景だ。さらにハシゴやラッタルがひとつひとつに
「ここが施設の心臓部です」宇都宮が言った。「まっすぐ行けば管理部ですから、石崎がいるのもそこ……たぶん、〈橘の間〉という部屋だと思うんですが……」
「タチバナノマ?」
と、大平が言ったときだった。床でバチバチと火花が
フルオートの銃声。そして火花は跳弾によるものだった。タマを喰らって大平が倒れた。続く銃弾が床を撃ち、跳ね返って設備の中を跳ね回る。
そして薬莢が降ってきて、床にバラバラと散らばるのを敷井は見た。これはつまり――そう考えて上を仰ぐ。数メートルの高さに渡されたキャットウォーク。そこに男がひとりいた。〈AKライフル〉でこちらめがけてダダダダダと撃ってきている。
「うわあっ!」
叫んで尾有が倒れた。敷井は転がるようにしてその場から逃げ出した。他の者らも四方に散らばる。
撃ってきたのは無論〈石崎の
応戦など思いもよらない。敷井は逃げ惑うしかなかった。
*
「どうやら変電所の中で何か動きがあったようです」
ひとりの士官がそう言った。〈指揮通信車両〉と呼ばれるクルマの車内だ。
変電所のほど近く、街の天井を支えている〈柱〉の陰に身を潜めて、何十という特殊車両が駐まり兵士が出入りしている。あるクルマでは反重力ドローンを何十機も無線で飛ばしてカメラで戦況を掴もうとしており、赤外線や集音マイクなどによっても敵のようすを探ろうとしている。それらの情報を集めて指令本部に送り、また、部隊に指示を出すのが指揮通信車両の役目だ。
「敵の動きに乱れが出てます。しばらく前に奥の方で爆発があって、続いて銃の発砲音も……これは内部で撃ち合いが起きているのだと思われます」
「それは」と、話を受けた上官が言った。「どういうことだ? 突入に成功した者がいるのか?」
「わかりません。敵の仲間割れということも考えれられます」
「どちらにしてもこちらにはチャンスということじゃないのか?」
「かもしれません。しかしことによると……」
*
「つまり、変電所の中に味方が裏から侵入したと言うことなのか?」
地球防衛軍司令部の会議室で藤堂は言った。眼の前の画面には指揮通信車両から話す現場の戦闘指揮官。
彼は問いに応えて言った。『どうやらその見込みが強いと思われます』
「ふむ」と言った。「人数は」
『わかりません。しかし、ほんの数人でしょう。充分に期待できるほどの数とは……』
「しかしおかげで、敵の動きに乱れが出たと言うのだろう。一気に突いて崩すわけにはいかんのかね」
『もちろん努力はさせていますが、兵士が皆、息ができずに動けなくなってきている状況であり……』
「ううう」
『携帯ボンベ程度の補給ではとても足りません』と現場の士官。
「まずいですね」と会議室の中にいた情報部員が言った。「ヘタをすれば石崎が、変電所ごと自爆などやらかさぬとも限りません」
「そりゃそうだろうが、あの男のことだ。まずその前に自分だけ逃げようとするのじゃないのかね」
「ええ。そうですが、イザとなれば……何しろ『逃げる』と言ったって、どこへ逃げると言う話になりますからね。裏から突入した者がいるなら、逃げ道はあったとしてももう塞がれたと言うことでしょう」
「そうか。やつは、もうどこへも行きようがない」
「そうなるはずです。いっそ側近の者にでも、殺されてくれたならばいいのですがね」
「この状況では、その見込みもあるかもしれんな」