「ハイペロン爆弾?」
地球防衛軍司令部で情報局員が言った。言ったが、しかし首を
「えーと、なんだっけなそりゃあ……」
「おいおい」と藤堂は言った。「『なんだっけな』はないだろう。どんなシロモノかわからんのか」
「いえ。確かに聞き覚えはあるのですが……申し訳ありません。ええと……」
コンピュータを操作するが、
「ダメだ。資料が出てこないな。あるにはあったと思うんだがな。ただ、記憶ではあれはええと……」
「なんでもいい。覚えてるなら言ってみろ」
「はい。わたしの記憶では、造りはしたが棚上げになった兵器です。『これはあっても威嚇にしかならない』と言うような理由で……」
「威嚇ねえ」
「まあ、〈独裁者好み〉と言えば言えるかもしれませんね。イザと言うとき指がロケット弾として飛び出す手袋とか……いや、まあ、これは例えが悪かったかな。とにかくそんなの撃って当たるわけないし、当たったとしても威力があるわけないでしょう」
「なるほど、威嚇にしかならん」
「そう」
「しかし独裁者は好む」
「ええまあ……とにかく、実用性はナシと評価された兵器のはずです」
「それでも、〈爆弾〉と言うからには、爆発するものなんじゃないのか?」
「ええまあ、たぶん……」
「『たぶん』じゃないだろ。生物兵器や化学兵器と似たようなものじゃないのか。マトモな軍には使えなくても、テロリストにはうってつけとか……」
「ええまあ……」と言った。「そんなものだったかな……」
「汚らしく卑劣で非人道性が高く、しかしショボくて普通なら恥ずかしくて使わないほどにヘンテコで、往生際がよほどに悪くない限り最後に頼らぬみっともない兵器……」藤堂は言った。「まさに石崎好みじゃないか」
「はあ」
「名前からしてそんな気がするぞ」
「わたしもそんな気がしてきました」
と情報局員が言った。石崎が笑うラジオの声が『フッフッフ』と聞こえていた。
*
今や地下東京の誰もがラジオの声に耳を傾け、石崎の声に聞き入っていた。聞き入っていたが、しかし同時に誰もがイラつく思いでいた。石崎の語る言葉はどこかの学校の校長先生の話のように長くダラダラと要領を得ず、〈ハイペロン爆弾〉なる兵器がどのようなシロモノで、使うとどういうことになるかまったくサッパリわからない。石崎は〈愛〉の説法モードに入ってしまってオンオンと泣きながら、自分が今していることはすべて〈愛〉のためなのだ、と訴えるばかりなのである。
『〈愛〉の力を信ぜよ! 〈愛〉を信じる者のみ〈愛〉によって救われる!』
この男の頭の中では、きっと花火がパンパンと打ち上がっているに違いないのだが、
「それでその、なんとか爆弾ってなんなんだよ」
「さあ。そもそも、何爆弾って言ったっけ」
「いや、おれには、なんとかペロンしかわからなかった」
「おれも」
などと言う会話があちこちで交わされている。市民球場のスタンドだ。
近藤に、野球選手の仲間が言った。
「そのペロン爆弾だけど……」
「おれに聞いても知らないぞ」
「とにかく使えば、この地下都市は消えてなくなるものなんだろうな」
「かもな」
「でなきゃ脅しにならないだろう」
「うん」と言った。「でもなんだか本人は死なないつもりでいるみたいだな」
「だからそういう爆弾てことだろ。爆発すればこの街の人間みんな死ぬけれど、石崎とその〈
「そんな爆弾があってたまるか」
「あるかどうかの問題じゃない。肝心なのは石崎自身がそのつもりでいるってことだ。それがそういう爆弾だと本気で信じ込んでいる……」
「うん」
と言ったときだった。球場の外で『うおお』と歓声が上がっているのが聞こえてきた。酸素が足りずに苦しげだが、『石崎先生~、石崎先生~』とコールが叫ばれているらしい。
「やれやれ。どうやら〈
『そうだーっ!』
と、
『石崎先生ーっ!』
「ありゃ都知事の原口じゃねえのか」
「あれも石崎のシンパだからな」
と近藤は言った。せんせー、せんせー、せんせー……と、〈おっぱいヒトラー〉と呼ばれる男の声が地下都市に