地下東京都知事原口裕太郎は、純然たる〈石崎の
だから決して〈石崎の
原口裕太郎は石崎の〈愛〉の思想など信じていない。それでも石崎を信じていた。そしておっぱいとロボットと、ロボットとおっぱいを信じていた。聞き慣れない漢字言葉やカタカナ言葉に非常に弱く、〈電磁ザボーガ〉とか〈張線ポリマ〉と言った言葉を聞くと、簡単に、それは何か凄いもので世界がすべてひっくり返り、ノストラダムスな大予言を実現させてしまうのだろうと早合点して思い込む。〈ピンク・レディー〉とか〈桃尻娘〉と言った言葉にも極めて敏感に反応する。原口裕太郎の好きな言葉は〈フライト・アテンダント〉に〈ストリーキング〉だが、聞いて慌てて見に行ったらそれが男であったときの悲しみの顔は同情を誘う。
〈ぐっちゃん〉とも呼ばれる彼はそういう男だ。今もまた、石崎の〈ハイペロン爆弾〉と言う言葉を聞いて、『さすが先生』と叫んでいた。ハイペロン! なんですかそれは、ああ先生! 核とは違うのですね、核とは!
「さすが石崎!」
〈ぐっちゃん〉は叫んだ。短絡的な人間は考えることが短絡的だ。
*
そして、まったく似たような脳神経回路を持った集団が、地下都市の〈空〉を飛んでいた。外国からやってきた〈日本人死ね死ね団〉だ。彼らもまた、〈ハイペロン爆弾〉とは、一種の〈浄化装置〉であるとすぐに決め付けて思い込んだ。よくもよくも――。
「ド畜生があっ!」各機内で男達が叫ぶ。「野郎、やっぱりそんなものを持っていやがったのか。許せねえ!」
「ハ、ハイペロン爆弾ってのは、つまりそういう爆弾なのか!」
「そうだ! そういう爆弾なんだ! 他に考えられねえだろうが!」
「そうか、そういう爆弾なのか! そうなんだな? そうなんだな?」
『皆さん』と、同時翻訳の石崎の声はどの機内でもまだ聞こえている。『世の中には、決してお金では買えないものがあります。それは〈愛〉です』
「そういう爆弾なんだなあ!」
『〈愛〉。震える〈愛〉。それは別れ歌……もう哀しい歌を聴きたくはありません。わたしは逃れ逃れてこの部屋に辿り着きました。うっうっ……』
石崎は言う。元々意味が不明瞭な彼の言葉は機械によってこのように訳され外国人の耳に届く。
(わたしに哀願しても聞かぬぞ。逃げるわたしをこの部屋までよくも追い詰めてくれたな。おうおう)
「イシザキめえっ!」
「この電波がどこから来るかわからんのか!」
そう叫ぶ者がいる。それに応えて返す者が、
「北だ! 街のいちばん北で放送しているらしいぞ!」
「変電所か! そこにイシザキがいるってことか!」
「そうだ! つまりこの停電も……」
「イシザキの
各機内で