ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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反撃開始

〈ヤマト〉第一艦橋では、沖田が森を呼び出していた。インターカムに森が映る。

 

「森。どうだ、下のようすは」

 

『あ、はい』

 

と森。彼女は血まみれの医務室の中にいるらしかった。けれども今、手術台の上では佐渡先生がコップを手にして胡座(あぐら)をかいている。

 

『火器と機関の応急修理は完了しました。それと、ケガ人は……』

 

言ったところで佐渡先生が、

 

『おう、みんな片付けた! 重傷者はくくりつけて、戦えるやつは持ち場に戻したぞ。わしゃあ一杯やらせてもらうからな!』

 

一杯どころか、もう既に何杯もやってるような調子で言った。沖田はニヤリと笑ってから、

 

「わかった。森、お前も上に戻ってこい。すぐに反撃開始だ」

 

言って通信を切った。先ほどまで冷え切っていた艦内は、急速に暖まりつつある。壁や天井にまだ霜が張っているが、クルーの多くは船外服を脱いでいた。

 

艦橋の中も同じだ。ピーコートに袖を通して沖田は帽子を被り直し、艦橋の中を見渡した。皆が自分を返り見ている。

 

沖田は言った。「よし、エンジンが暖まり次第発進するぞ。総員戦闘態勢」

 

「ハイ。総員戦闘態勢!」

 

森の代理で席に就いてるアナライザーが言った。艦尾ではメインとサブのエンジンが唸り、そのまわりで海の水が泡立つのがカメラが捉える映像で見える。

 

「氷を割って外に出る。太田、計算を頼むぞ、ポイントはこの辺り――」

 

レーダーマップの画面にタッチペンで書き込みを入れ、それから言った。

 

「急げよ。古代が砲台を叩く前にやらねばいかん」

 

「は?」と新見が言った。「砲台を叩く前?」

 

新見だけではない。皆がギョッとした顔で沖田を振り向いた。太田もまた、

 

「え? それは――」

 

「いいからやれ! 〈魔女〉がまだ生きてるうちに海を出るんだ!」

 

「は、はい」

 

と太田。地図に何やら書き込みがされる。それを見ながら真田が言った。

 

「なぜです? 砲台を潰した後なら――」

 

「そうだ。もう、撃たれる心配をしなくていい。安心して氷を割って海から出られると言うことになるな」

 

沖田は言った。眼はレーダーマップを見ている。氷の上で待ち受ける三隻の戦艦と、遥か高くの反射衛星。

 

「だが、それでは遅いのだ。〈魔女〉がまだ生きてこの船を狙えるうちに、外に出ていく。これ以上の死傷者を出さずにここで敵に勝つにはそれしかない」

 

「はあ……」

 

言って、真田は新見を見た。新見は『全然わかりません』という顔をして首を振る。

 

だが、確かに船務科が『これ以上にケガ人が出てしまうと手当できない。そうなれば――』などと報告してきたのはみな聞いていた。そして皆が『そんなことを言われても』と口々に言った。衛星ビームもさることながら、戦艦三隻とやり合って犠牲を出さずに済むわけがない。そんなことが言える状況じゃないだろう、と。

 

しかし沖田は、〈これ以上の死傷を出さずに敵に勝つ方法〉などと言うものをちゃんと考えていたと言うのか? だが、まさか。いくら〈機略の男〉と言えども、そんな……。

 

そのように皆が考える視線が集まる。彼らを見返し、沖田は言った。

 

「わからないか。だがみんな、これからわしが話すことをよく聞いてくれ。〈魔女〉に本当に勝てるかどうかは、君らの腕にかかっているのだ」


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