ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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転換

「戦闘機隊がまた方向を転じました」

 

ガミラス基地でオペレーターが告げる。画面にはどうやら彼が言う通りらしい地球の戦闘機隊の動きが映っているが、

 

「今度はなんだ」

 

言ってシュルツは画面を見た。先ほど、敵の戦闘機隊は急にそれまでの動きをやめてひとつの方角に向かい出した。その先には特にこれと言うものはない。こちらの迎撃にたまりかねて逃げ出したかのようにも見えたのだが、それがまた向きを変えたと言うのは――。

 

「通信は傍受しているのだろう。やつらの考えはわからんのか」

 

「解読はさせていますが……」

 

と情報部員。先ほどから敵は通信制限を解いて、さかんに何かやりとりしている。その傍受はしているが、しかし何を言っているかつぶさにわかるわけではなかった。暗号とノイズだらけのデータを調べ、きれいなものに洗い上げるには時間がかかる。

 

もちろん、今は、そんなことをしてるヒマなどありはしない。敵の方もそれを承知で、傍受のリスクを覚悟の上で無線交信しているのだ。ゆえに切れ切れのデータから、地球人の考えを推し量るしかないのだが――。

 

「これは……」とガンツが言った。「やつらが進む方向……」

 

「あ」と情報部員。「そうだ。まっすぐ砲台に向かっている!」

 

「なんだと?」

 

とシュルツは言った。あらためて画面を見る。なるほど敵の戦闘機隊は、〈反射衛星砲〉の砲台をまっすぐ目指しているようにも見える。しかし、

 

「そうか? ちょっとズレてはおらんか?」

 

「いえ」と情報分析官。「平面図ではそう見えますが、やつらは星の球面に沿ってまっすぐに進んでいます。だから本当はこのように……」

 

別の画面に冥王星の立体地図が表示され、敵の動きが示される。戦闘機隊が進む先にあるのはまさしくビーム砲台。

 

「〈線〉だ……」情報分析官は言った。「やつら、砲台のある位置を〈線〉で割り出しやがったんだ。一度、あさっての方角に逃げてったように見えたのは、〈線〉の始点に着こうとしてのこと……」

 

「ちっ」とシュルツ。「〈線〉だと? まだ砲台がここだとまでは知らんのだな?」

 

立体図上の砲台を指した。分析官は頷いて、

 

「はい。ですがこのままだと……」

 

見つかるのは時間の問題。敵はその一機一機が核ミサイルを持っているのが、先ほどドリルミサイル発射台を殺られたので判明している。核を喰らえば当然ビーム砲台も一撃の(もと)にオダブツだ。

 

〈ヤマト〉は氷の下の海で、今その力を取り戻しつつあるに違いない。それに対してこちらは三隻。いかに大型の戦艦と言え、回復した〈ヤマト〉相手に充分な戦力を持っているとは言い(がた)い。

 

〈ヤマト〉に勝つには〈反射衛星砲〉の援護が要るのだ。なのにそれを殺られたら――。

 

「こいつらを止めろ!」シュルツは叫んだ。「砲台に辿り着かせるな! 全機その前に墜とすんだ!」

 

 

 

   *

 

 

 

「〈線〉で突き止められただと?」

 

バラノドン隊の隊長は、基地司令部からの通信に応え、キャノピー窓の向こうを見やった。敵戦闘機隊は全機でひとつの編隊を組み、まっすぐにひとつの方向を目指しているらしいのがわかる。

 

その先にあるのは、なるほど――。

 

『そうだ!』と基地の通信士。『敵はその線上にビーム砲台があると知ってる! 見つかったらおしまいだ! 何がなんでも全機墜とせ!』

 

「了解」

 

と言った。言ったが、しかし、そんなことが可能なのか?

 

『隊長!』と、部下が通信を送ってきた。『しかしやつらは、もうすぐにも――』

 

「黙れ!」

 

と言った。しかし、そうだとわかっていた。敵の戦闘機どもは既に、砲台のある場所までもうすぐそこに迫っている。〈線〉まで突き止められたと言うなら、後はそこまで辿り着くだけの話ではないか。とても三十何機も全部、それまでに墜とすなど――。

 

できない。それはわかっている。しかし、と思った。

 

「いいか、また隊長機だ! 敵のアタマをまた狙う!」

 

敵の先頭の機を見据えた。さっき一杯喰わせてくれた銀色のやつの一番機。あれを墜とせさえすれば、まだこちらに勝機はある。

 

「突撃だ! やつらはまた他の機が護りを掛けてくるだろうが、気をつければいいだけのことだ! こちらも同じ手は喰わん!」

 

「はい!」

 

と部下達が応えてきた。編隊が組まれる。八十機で再びあの一番機を襲うのだ。

 

叫んだ。「行くぞ!」


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