ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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強襲

『来た!』

 

と山本が叫ぶ声が通信機に入ってきた。〈タイガー〉の数機がミサイルを一斉に上空めがけて射ち放つのがレーダーに示される。

 

古代は身のすくむ思いがした。これはつまり、また敵が、何十機もひとつに集まり自分めがけて急降下をかけてきたのを意味するが、それはレーダーに映っていない。ステルスの(みの)を被っているために、〈ゼロ〉の強力なレーダーにも捉えることができないのだ。

 

ステルス機と言うものは、こちらに正面を向けているとき最も〈見えにくく〉なる。あの〈ゴンズイ〉もそのように設計されてるに違いないが、それだけではないだろう。何十機もがひとつに集まり〈玉〉を作ったときにそれぞれが蓑を重ね、輪郭を打ち消しあってよりレーダーに写りにくい大編み笠を形成するのだ。

 

これにスッポリと覆われた群れが向かってくるために、標的として狙われた者にはまったく〈見る〉ことができず、攻撃を逃れようもない。敵のレーダーにロック・オンされて始めて自分が次の餌食と知るが、そのときにはもう為す(すべ)も――。

 

それが上から襲ってくるのだ! また! 再び! おれがこの隊を率いている指揮官だと敵は知ってる! だから今、まずはおれを墜とそうと言う考えなのだ!

 

それでも、ただまっすぐに〈ゼロ〉を飛ばし続けるしかない。古代は今、〈ヤマト〉が『飛べ』と伝えてきた〈線〉の上を飛んでいた。これに沿って進んだ先に〈魔女〉が居ると言うのだから。だから命に替えようとも、それを見つけ討たねばならない。

 

そうだ、兄さん。ここまで来たんだ。ここまで。あと少しなんだ。この線上をあと少しだけ行ったところに必ず敵の砲台がある。それを叩くことができれば、後はどうなろうといい。

 

おれはここで死んでもいい。兄さん。だから何がなんでも、おれは前を見続けてやる。おれはここまでやって来たんだ。皆のおかげでここまで来たんだ。

 

ここで後に退()いたりしたら、申し訳が立たないよな。みんなに――おれを送り出してくれた者達に。

 

そして死んだ者達に。サーシャと、あのとき沖縄で死んでいった無数の者達。訓練生時代の仲間。

 

あの日に横浜で死んだ人々。クレーターにされた三浦。

 

あの日、最後に空中バスの窓から見た故郷の風景。父さんと母さん。

 

そうだ。あの日におれと兄貴を、父さんと母さんは見送ってくれた。その向こうに青い海が広がっていた。ここでおれが(くじ)けたら、とても申し訳が立たない。死んだ人達に申し訳が立たない。

 

そうだろう、兄さん! 皆、あの青い海を取り戻すために死んだんだ。おれの父さんと母さんの仇を討つために死んだんだ。兄さん、兄さんもそうだったんだろ? なのに、ここで命惜しさのためにおれが逃げるなんてことをして、申し訳が立つわけないよな?

 

そうだ。ここでおれが死んでも、山本や他の誰かが後を継いでくれるだろう。だからこのまま前を見続けてやる。ガミラスめ、おれを殺るなら殺れ、と思った。

 

上空でいくつも爆発が起きたのがわかる。山本と〈タイガー〉の数機が射ったミサイルだろう。

 

さっき山本がひとりでやっておれを救ってくれたことを今度は何機もでやったのだ。あのミサイルは相撲(すもう)で言う〈猫だまし〉のようなものだ。立ち会いで、相手の眼前でパーンと強く手を叩き、驚かせる姑息(こそく)な技。

 

相撲でやったら顰蹙(ひんしゅく)を買うが、これは戦争だ。卑怯も姑息もありはしない。これがあの〈ゴンズイ玉〉の急降下から味方を護る唯一の手と言えるものなのだから。

 

〈ゴンズイ〉どもが次にどの機を襲うのかわかっているなら、その背中を護る者には、上に向けてミサイルを射ち、〈玉〉のすぐ前で(はじ)けさせることができる。うまくいけばさっきのように何機をも地面に激突させられると言うわけ――。

 

今度はそうはいかなかった。山本を含む何機もで数倍の数のミサイルを見舞ってやったのに、敵は一機も墜ちなかった。

 

やはり同じ手は喰わない――〈ゴンズイ〉どもはいずれも地面に激突寸前にクルリと機体をひるがえし、サッと素早く上に昇っていってしまう。

 

しかしこちらも、やつらの狙いはこの隊長機、〈アルファー・ワン〉であったようだが無事に済んだ。とりあえずは――。

 

しかし、

 

『ちっ』と加藤の声がした。『また来るぞ!』

 

言われなくてもわかっていた。やつらが上昇する間は〈ゼロ〉のレーダーにも姿が映る。けれどもまたそれが消えた。

 

そして警告音! 『敵にロック・オンされた』とレーダーが鳴らす警報だ。今度の狙いもまたこのおれ!

 

当然だ。敵はこちらが〈魔女〉へと続く〈線〉を見つけたともう知っている。そしておそらく、その場所までもうすぐなのだ。ならばここで敵が狙うはおれになるに決まっている。

 

たとえ命に替えてでも! 今におれが命を懸けてこの線上を飛んでるように、敵にとっても今まで以上にこれは命懸けなのだ。

 

レーダーに無数の光点が映った。ミサイルだ。雨のように降り注いでくる。

 

しかし、と思った。なんだこいつは――慄然とした。こんなもの、(かわ)せるわけが――。

 

ない、と思った。ミサイルの数は尋常(じんじょう)なものではなかった。これまでに敵が一度に放ったものの数倍。

 

百をはるかに超える数のミサイルが、上から降ってきたのだった。八十からの敵が急降下をかけながら、古代の乗る〈アルファー・ワン〉めがけて一斉に射ち放ったのだ。

 

全機で! やはり敵は甘くなかった。そう何度も〈猫だまし〉などでおれを救けさせはしない。

 

降り注いでくるミサイルの雨。そのあまりの数に、古代は血が凍る恐怖を感じた。


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