ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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次は最大で

「殺りました! 敵隊長機を撃墜!」

 

ガミラス基地司令室でレーダーのオペレーターが叫ぶ。だが、わざわざ言われなくても、シュルツはバラノドン隊が百数十発のミサイルを敵戦闘機隊のアタマめがけて射つのをスクリーンで見守っていた。

 

ドカドカと次から次に燃え広がる爆発で、画面はまるで赤いお花畑のようだ。ただ一機の戦闘機に対して『よくも』と言うほどの数。

 

あの爆発の中にいて助かる者がいるわけがない。スクリーンには、敵戦闘機が炎に呑まれ翼をバラバラに四散させて墜ちる光景が確かに映し出されていた。

 

まずは敵の隊長機を仕留めたのだ。ようやくながら――しかし、と思った。

 

「こちらもまた失いました。三機、いえ、四機!」

 

「ちっ」

 

と言った。無茶なことはやるものではない。敵のアタマを殺りはしたかもしれないが、こちらも数機が自分で作った爆発の中に自分で突っ込んでしまったのだ。

 

普通であれば決してやらない愚かな自殺突撃だ。わかっていながら、彼らはこの状況で、敵に砲台を殺らせまいと突っ込んでいってくれたのだろう。祖国のために(みずか)ら盾になろうとして。だがしかし……。

 

ガンツが言う。「たとえアタマを墜としたところで、次の者が先頭に立つだけ。砲台に辿り着かれるのは時間の問題と思いますが」

 

「わかっている」シュルツは言った。「〈反射衛星砲〉、発射用意だ」

 

「は?」

 

「『は?』ではない。衛星砲だ。発射用意は出来てるのだろうな」

 

「ええまあ。いつでも、撃てることは撃てますが……」

 

ガンツは砲撃オペレーターの方を見た。砲手は頷き返してみせる。

 

シュルツは言った。「よし、いいか。出力を最大にしろ。今までのような手加減は抜きだ。次は〈最大〉でビームを撃つ」

 

「はい」と砲撃オペレーター。「ですが司令、それをやると……」

 

「わかっている。〈カガミ〉がもたんと言うのだろう。しかし構わん。どうせあと一度撃てるかどうかなのだ」

 

「わかりました」

 

とオペレーター。ビームの出力ダイヤルを回す。彼が前にしている画面に、これ以上に出力を上げると重力均衡点に置かれている衛星のビーム反射板が破壊される(むね)(しら)せる警告が出たが、それを解除し、撃てる限りの最大にまで出力を上げる。今まで〈ヤマト〉めがけて撃ってきたものの十倍にもなるほどのパワーだ。

 

ガンツが言った。「しかし、何を撃つのです?」

 

「〈ヤマト〉に決まっとるだろう」

 

「は? いえ、ですが〈ヤマト〉はまだ……」

 

「わかっとる」

 

とシュルツは言った。そうだ。〈ヤマト〉はまだ厚い氷の下の海にいる。たとえ最大出力でも、〈ヤマト〉めがけて撃ったところで氷と水に吸収されてビームは力を失ってしまう。

 

そんなことはわかりきってる。しかし、

 

「『撃て』と言ったわけではない。『〈最大〉で撃つ用意をしておけ』と言ったのだ。あと一回撃てるかどうかなのだから……わかるだろう。〈ヤマト〉は今、海の中で戦う力を取り戻しているところに違いないのだ」

 

「ええ、それは」

 

「それに対して、こちらは三隻。たとえ大型の戦艦だろうと、やつに充分に回復されたら決して勝ち目が高いとは言えん。こちらが勝つにはビームの援護が必要なのだ」

 

「はい」

 

「〈ヤマト〉もそれを知っている。だからあの戦闘機隊にビーム砲台を攻撃させ、成功を確認してから氷を割って海から出ようと普通ならば考えるはずだ。『砲台が生きているうちは、ずっと潜ったままでいよう』と……」

 

「それが当然ではありませんか?」

 

「そうだ」と言った。そしてシュルツはニヤリと笑った。「敵が普通のやつならば、そのように考えるはずだ。だが、違う。あの〈ヤマト〉を指揮しているのは、〈普通のやつ〉などではない。『〈線〉まで突き止めたのだからビーム砲台が死ぬのを待とう』などと言う考え方はしないのだ。きっと今すぐ外に出てくる」

 

「は? しかし、なぜまたそんな……」

 

「わからんか。それが普通の人間だろうな。しかしあの〈ヤマト〉を指揮しているやつは違うぞ」

 

「はあ」

 

怪訝(けげん)な表情をしてガンツは言った。そのときだった。レーダーオペレーターが、

 

「これは……」

 

と、急に驚きの声を発した。

 

「なんだ?」とガンツ。

 

「違う! さっきのは間違いだ! 敵の隊長機はまだ生きてる!」

 

「なんだと?」


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