〈ヤマト〉船体のあちらこちらから、グラスにビールを注いだように泡が吹き上がり海中を昇る。メインとサブのエンジンに、各所の姿勢制御ノズル、主・副砲塔の砲身だ。それらが熱を帯び始め、海底の水を沸かせているのだった。
艦内では傷に包帯を巻いたクルーがそれぞれの持ち場に就いて戦闘の準備完了の
『第一魚雷発射管、魚雷ミサイル装填完了!』
『第二魚雷発射管、魚雷ミサイル装填完了!』
艦首と艦尾に六門ずつの魚雷ミサイル発射口が蓋を開け、そこからも泡が水中にこぼれ出た。再び氷を今度は下から割るためのミサイルが先を覗かせる。
『これより反撃に出る。総員、戦闘に備えよ!』
全艦に沖田の声が鳴り響く。生活要員や航海要員は、ベッドに縛り付けられた者らの手を握っていた。今のところ、彼ら重傷者に対してできることはそれだけだ。寝かされた者も寄り添う者も頷き合って歯を食いしばる。
「〈ヤマト〉発進!」
艦橋で沖田が叫んだ。島が「〈ヤマト〉発進します!」と唱えて機器のスイッチを入れる。レバーを倒すと船がガクンと揺れ動いた。
海底に泡が
人工重力装置によって〈重く〉されていた船体が、その
急速に浮上しつつ〈ヤマト〉は艦首を上向かせた。船を〈軽く〉しただけではない。エンジンの噴射の力でグングンと上昇。球形艦首が水を切り、泡が昇る速度を追い越して突進する。
その姿はまるで滝昇る龍だった。〈ヤマト〉はもう完全にその船体を垂直にしていた。竜巻のように渦巻く泡の柱を切り裂いて上昇。その先には固体メタンと固体窒素の厚い氷が待ち構えている。
「艦首魚雷発射管、全門発射用意!」艦橋で南部が叫んだ。「てーっ!」
六基のミサイルが、泡の尾を引く彗星のように射ち出された。
*
「ソナー及び水中レーダーに巨大物体の反応有り! 急速に浮上しています!」
ガミラス基地司令室でオペレーターが叫んだ。
「〈ヤマト〉です! 間違いありません!」
「来たか!」
とシュルツは言った。身を乗り出してスクリーンを見る。だが、
「どうなのだ。上に出てくる気なのか?」
「この勢いならばそうです。とても止められませんから……」
とオペレーター。つまり、〈ヤマト〉がゆっくりと海底から上がってくるなら厚い氷の下で止まって、戦闘機隊がビーム砲台を潰すのを待つ気なのだと言うことになる。けれどもグングン上がってくるなら、その勢いで氷をブチ割り飛び出してくる気なのだとわかるわけだ。
そして、これは後者だった。〈ヤマト〉が浮上してくる速度は、とてもいったん氷の下で止まれるようなものではない。
「よし、いいぞ!」シュルツは言った。「〈反射衛星砲〉、発射用意だ! 出てきたところを最大出力でブチかませ!」
「はい!」
と砲のオペレーター。発射準備は完了しており、後は狙いの微調整だけだ。
使う〈カガミ〉はふたつだけ。重力均衡点にある〈
だから衛星は二基だけだ。それで〈ヤマト〉を真上からズドンとブチ抜いてやる。手加減無しの最大出力ならばそうとも間違いなくあのデカブツもおしまいだ!
やったぞ、とシュルツは思った。わたしの読みが当たったのだ。〈ヤマト〉は必ず、ビーム砲台が生きてるうちに氷を割って出てくるだろう。そのときこそが上で待つ戦艦隊と戦うチャンスと考えて――。
そうだ。もちろんその通りだとシュルツは思った。〈ヤマト〉を指揮している者よ。わたしがお前であるならば、やはり同じに考えてここで氷を割ることだろう。不運だったな。すまんが、命を頂戴することにしよう。
残念だが、もうこれ以上お前と遊んでいられんのだとシュルツは思った。もうひとつのスクリーンに映るビーム砲台の状況に眼をやる。敵の戦闘機編隊はまっすぐ砲台を目指しているが、〈ヤマト〉を撃つのを止めるには到底間に合わないだろう。
勝ったな、とシュルツは思った。〈冥王星〉――やつらがそう呼ぶこの冷ややかな氷の星はこのわたしに味方した。あと五十年続く白夜の圏にある〈ハートマーク〉に冷たい笑みを浮かばせ、地球人類の