ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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魔女の棲家

古代の故郷、三浦の海は岩礁(がんしょう)の海だ。海岸線は岩だらけで、ゴツゴツとした崖に波が打ち寄せる。そこに立って陸地を(のぞ)めばまるで巨大なドミノ板を並べて突き崩したようなギザギザの岩山。その昔に地の隆起でそのような形になったものだと言う。

 

古代の〈ゼロ〉は今そんな三浦の(いそ)によく似て見える岩山の上を飛んでいた。あるいは、まるで巨大なワニの背中か、ゴムタイヤを山積みにしたトラックの荷台の上でも飛んでるような――キャノピー窓の向こうに広がる光景に古代は目眩(めまい)がしそうだった。

 

眼で見たところで何がなんだかわからない。地形がゴツゴツのギザギザなところに、横から照らす太陽のためにゼブラ柄の影がかかって、物の形がまったく掴み取れないのだ。

 

今までずっとそうだったが、ここは輪を掛けて凄い。直感的に、『ここだ』、と思った。ここだ。ここに〈魔女〉が居る。三浦の磯にサザエの殻を置くようにして、このゴチャついた岩山のどこかに砲台を隠しているのだ。

 

そうに違いないだろう。レーダーマップに眼をやれば、〈ヤマト〉に『飛べ』と指示された〈線〉も終わりに近づいている。これまで飛んで見てきた中に特にめぼしいものはなかった。

 

しかし今、この眼前に広がる光景――。

 

『隊長、ここだぜ!』通信で加藤が叫ぶ声が聞こえた。『ここだ! 〈魔女〉が居るのはここだ!』

 

「ああ!」

 

と応えてから、どうすると思った。これではほとんど肉眼で〈魔女〉を探すのは不可能だ。各種のレーダーやセンサーも、強い障害を受けて画面がノイズだらけになってる。〈ゼロ〉の速度を弱めさえすればなんとかなるかもしれないが、それをやったら上からダイブで襲ってくるあの〈ゴンズイ〉のいい餌食。おれはともかく、また〈タイガー〉がおれの盾になって殺られてしまうことに――。

 

どうする、と思った。そうだ。どうせこの辺にあるに違いないのだから、核ミサイルでみんな丸ごと焼いてしまえばいいのじゃないか。それで〈魔女〉も――。

 

そう思ったときだった。急にひとつの装置が何かの反応を捉え、画面に映し出したのが見えた。古代は拡大させてみる。

 

赤外線カメラが写す映像だった。地下に高熱の存在を探知。それもみるみる凄まじい温度に――。

 

「これは――」

 

と言った。そのときだった。目も(くら)むほどの閃光が、ワニ皮のような地表を包んだ。光線の太い柱が天に向かって立ち上がる。

 

対艦ビームだ。それも超強力なやつだ。間違いなかった。〈ゼロ〉のあらゆる探知装置が、その発生ポイントを捉えてレーダーマップに〈目標〉として描き込む。

 

〈魔女〉だった。〈スタンレーの魔女〉がわざわざ自分から居場所を教えてくれたのだった。しかし、それはまた同時に――。

 

『〈ヤマト〉が撃たれた』と言うことなのか? 古代は考え、慄然とした。ならば、今度こそおしまい?

 

 

 

   *

 

 

 

「命中! 直撃です!」

 

ガミラス基地司令室でレーダーのオペレーターが叫ぶ。画面に映る映像は、真っ白な水煙にすべてが覆われてしまっていてシュルツにはよく見えなかった。それでも水柱の中に、(もり)で突かれた魚がバタバタと暴れているかのような黒い影を見ることができる。

 

砲台から撃ち出された対艦ビームは、一瞬にして重力均衡点に浮かぶ反射衛星に当たって光線を跳ね返させた。それは〈ヤマト〉の直上(ちょくじょう)に置いた衛星でまた反射され、狙い澄ました目標へと突き進む。ふたつの衛星に四枚ずつ、合計八枚のビーム反射板は最大出力の光線に耐えられずに溶けてひしゃげ、枯れた花のようになってちぎれた。けれども船を一撃に仕留めるのに充分な量の光は確実に〈ヤマト〉めがけて送っていた。

 

亜光速のビームが〈ヤマト〉に届くまでに数分の一秒。何をどうしようとも(かわ)すことのできない時間だ。

 

そして、見事に命中した。直撃だ。やったのだ。噴き上がる水の中で〈く〉の字に曲がってしまった船が、火を吹き遂にヘシ折れたのが見て取れた。果たしてあれで〈波動砲〉の秘密を調べられるのか……ちょっとやり過ぎたかもしれない。完全に壊れてしまったのでなければよいが……そうも思わずいられぬが、考えても始まるまい。

 

(きわ)どいところだったのだ。もう少しでビーム砲台は失われ、我が三隻の戦艦は良くて〈ヤマト〉と相討ちか、ヘタをすればすべて殺られて外宇宙にやつらを出すところだった。たとえ勝ってもやはり〈ヤマト〉は真っ二つで、残骸を調べようもなくなっていたかもしれない。

 

それを思えばこの結果は――と、考えたときだった。シュルツは眺める映像にふと奇妙なものを感じた。地中の海から噴き出す水は急速に凍りついていて、穴を(ふさ)いで固まりつつある。みるみるうちに水の勢いは弱まって、水煙は雪に変わって周囲に吹き流れていく。

 

その中から、それまで黒い影としか見えていなかった船の形が、徐々に姿を現してきた。確かにビームに貫かれ、真っ二つになってしまったものとわかるが、しかし――。

 

「これは!」

 

叫んだ。シュルツは(おの)が眼を疑う思いで画面を見つめた。今まで〈ヤマト〉と思いながら見ていた船は〈ヤマト〉ではない! そこでふたつに分かれながら、まだ宙をクルクルとまわっている物体は――。

 

こちらの戦艦! どういうことだ。ならば〈ヤマト〉は――。

 

そう思ったときだった。その船の下、地球人の〈スノードーム〉とか言う置物をひっくり返したかのような舞い散る雪の中から黒く、細く長い物体が姿を現したのが見えた。そのシルエットはまさしく、

 

「ヤマト……」愕然とする思いで言った。「なぜだ!」


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