ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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夜桜吹雪

水と窒素と一酸化炭素。それにメタンが氷となって降る冥王星の黄ばんだ雪は、『金色の桜吹雪』とでも呼ぶべき印象を見る者に与えた。

 

それも、夜桜(よざくら)だ。冥王星で陽の光は地球で見る満月光の百倍ほどの明るさと言う。人間が夜道を歩いて街灯の下に立ったらこんなもの、と言う程度の明るさと言うことになろうか。

 

つまり、雪や桜があれば、夜に街灯に照らされたように人の眼に見えるはずだった。今ここでまさに起きていることのように――。

 

星空の下、キラキラと金色に輝く雪が宙を舞う。その中に、よくよく見れば金魚鉢のような形の、やはり眼を猫のようにキラキラと金色に光らす生物が飛んでいるのがわかるのだが、けれどもそれに気づいた者は〈ヤマト〉の乗員にはいなかった。〈ヤマト〉はその艦底に並ぶ姿勢制御ノズルから噴き出す炎で雪を吹き散らしながら、まるで金色の夜桜のごとき景色の中に浮いていた。艦首からは一本の鎖が天に伸びている。

 

それは〈ヤマト〉の直上(ちょくじょう)で、ふたつに折れてヘシ折れてしまいながらまだ宙に浮かんでいるガミラス戦艦に続いていた。折れた残骸の片方はクルクルと回転しながらあさっての方に飛んでいく。

 

必殺の〈魔女〉のビームを受けたのは、〈ヤマト〉ではなくその戦艦の方だった。〈ヤマト〉は敵を盾にすることで光線を(かわ)してのけたのだ。すべては己の考えを、敵が半分は読んでいるに違いないと踏んだ沖田の作戦だった。

 

そうだ。〈ゼロ〉と〈タイガー〉がビーム砲台を叩くより前に海から出なければ今の〈ヤマト〉は敵三隻を相手に勝てない。良くて相討ちだ――そのことは、敵指揮官も察しているに違いない。

 

ゆえに、不意を突くことはできない。氷を割って海から外に飛び出せば真上から『待ってました』と串刺しだ。それも今度は手加減なしのズドンに決まっているのだから、そこでオダブツ、一巻の終わり。

 

しかし……と言うわけだった。そうくるとわかっているなら手はあるだろう。敵は三隻がグルグルと輪になり宙を巡っている。ならばその行く手のところで氷を割れば――。

 

敵艦をビームの盾にできるはずだ! すべては太田の計算と、島の腕にかかっていた。氷をブチ割り、海の水が噴水となって噴き出す中で、向かってくる敵艦を指して沖田はそのとき叫んでいた。

 

「ロケットアンカー! やつのドテッ腹にブチ込め!」

 

と。すかさず飛んだ錨の槍が、ロケットの炎を噴いて敵へと向かう。

 

そのとき敵の基地の中では衛星ビーム砲の射手が『十、九、八……』と秒を読んでいるはずだった。いや、もちろん、沖田は敵がどんな時間の単位を使い、どんな言葉でそれを唱えているのか知らぬが、とにかく、それが『ゼロ』になるとき、すべては水煙に覆われて眼では見えないことも読みに入れていた。

 

敵の砲手が『七』か『六』と言ったところでロケットアンカーは敵艦に刺さり、装甲板をブチ抜いて止まる。鎖がピンと伸び切って、二隻の船がまるでダンスのステップでも踏むかのようにひるがえり合う。

 

そこからが島の腕だった。『五、四、三……』と敵の砲手が秒を読む間に、柔道技を決めるかのごとく〈ヤマト〉は敵を宙に投げ上げ、自身はその下に潜る。『二、一……』。技は見事に決まった。『ゼロ』でビームが発射され、半秒後に〈ヤマト〉の直上に配置された衛星で跳ね返された光線は、高さ数キロにまで昇る水柱の中で敵を射止めた。敵にしてみれば味方の船を。

 

そして〈ヤマト〉はいま金色(こんじき)の夜桜吹雪の中にいる。近くからその姿を眺めるのはこの星の変なブヨブヨ生物だけだが、しかしその猫のように光る目玉はひどい近眼であるうえに、水中でなければものを見ることができぬ造りにもなっていた。知能も無いに等しいので、〈彼〉は何が起きたのかわからないまま雪と一緒に宙を舞うだけなのだった。

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