「うおおおおっ!」
叫んだのはガミラス戦艦残り二隻のうち一方の艦長だった。〈ヤマト〉からは〈目標2〉と勝手に呼ばれているのを知らない。
彼にはただ、叫ぶことしかできなかった。何しろ自艦めがけてまっすぐ、かつては
「
そう叫んだが、しかし無理とわかっていた。命じなくても操舵士は、エンジンを逆噴射させ舵を目一杯に切り、必死に船の先を横にそらそうとしている。
だが間に合うものではなかった。『これは何かの冗談だ、頼む、どうか外れてくれ』と祈る以外に何もできない。
その祈りは
体を叩きつけられる。僚の残骸はバラバラになり、グシャグシャにひしゃげ折れ曲がりながらこちらの船体を引き裂いていった。穴を開け、装甲を剥がし、砲をもぎ、アンテナや安定翼を叩き割る。
艦橋の窓も全面にヒビが入った。その寸前に彼の眼は、〈ヤマト〉が残りもう一隻に向かって飛んでいくのを視界の隅に捉えていた。
*
「うおおおおっ!」
ともう一隻――つまり、〈ヤマト〉の乗員には〈目標3〉と呼ばれる――のガミラス戦艦の艦長も彼の艦橋で叫んでいた。
〈ヤマト〉だ。〈ヤマト〉が向かってくる。なのに為す
窓には残るもう一隻が、死んだ僚艦の残骸を喰らってボロ靴みたいになってしまった姿が見えた。それが真正面からのカウンターであったのに対し、彼の船に〈ヤマト〉は斜め後方から追う形でやって来る。ためにぶつかり合うまでに今しばらくの時間があるが――。
それも十秒か十五秒だ。〈ヤマト〉はグングン迫ってくる。彼は叫んだ。
「撃て! 早くあいつを止めろ!」
「は、はい。今――」
と砲雷士がうわずった声で応える。もちろん、わざわざ命じなくても、すべての砲は旋回し〈ヤマト〉に火を噴こうとしていた。
照準が合う。〈ヤマト〉はもうすぐそこだ。この距離ならばたとえ〈ヤマト〉の装甲がどれだけ厚いものであろうと――。
「てーっ!」
と砲雷士が叫ぶ。ビームが〈ヤマト〉めがけて撃たれ――。
た、と思った。そのときだった。こちらめがけて体当たりするかのような勢いで向かってきていた〈ヤマト〉――もう今では艦橋の大窓一杯の大きさに見えていたその姿が、フッと一瞬にかき消えた。そこにはもう何もなく、ただこの星の希薄な大気があるばかり。
ビーム砲はそこを撃った。その後に、ガクンと強い衝撃が来た。
彼は言った。「なんだ?」
*
〈目標3〉がビームを撃つ。その寸前に、〈ヤマト〉艦橋で沖田はまた「ロケットアンカー!」と叫んでいた。
〈目標1〉の残骸を、〈目標2〉めがけて投げてその後は宙を引きずってきたロケットアンカー。そのロケットがまた点火され、冥王星の白茶けた氷の大地に突き刺さる。
そのとき、〈ヤマト〉は〈目標3〉に、もう少しで球形艦首を追突させるところまで迫っていた。錨に繋がる鎖がピンと伸び切って、その〈ヤマト〉の動きを止める。
いや、止まるわけがなかった。〈ヤマト〉は宙でつんのめり、船体を大きく振ってでんぐりがえった。
一瞬前にいた空間を〈目標3〉のビームが撃つ。そのとき〈ヤマト〉はグルリとその巨体を一回転させながら、敵艦の上を飛び越えていた。
犬が鎖で繋がったまま、別の犬を飛び越えるようにだ。当然ながら〈ヤマト〉と地面を繋いでいる鎖は〈目標3〉の甲板を叩いて巻き付くようになった。
〈目標3〉もまたつんのめり、
その凄まじい振動が、鎖を通して〈ヤマト〉に伝わってきた。けれどもこれらの動きはすべて
〈ヤマト〉は鎖で動けなくした〈目標3〉のガミラス戦艦のすぐ真横に、舳先を揃えてピタリと並んで停止した。それはまるで上から見れば一隻の双胴船のようでもあった。
ただし、〈目標3〉の砲はすべてが〈ヤマト〉と逆の方角に向けられているのに対し、〈ヤマト〉のそれはすべてが敵を向いている。
三掛ける三で主砲が九門。そして副砲が六門だ。合計十五のそのすべてが真横を向いて、すぐ真横の敵に対して突っつかんばかりにしているのである。
完全な零距離射撃の態勢だった。これで撃てばどうなるか、誰にも理解できるだろう。
「てーっ!」
艦橋で南部が叫んだ。