ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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轟沈

「お……」

 

とシュルツは顎を半分外しかけ、ふたつの目玉を落としてしまいそうな顔になって言い、そこでピタリと固まってしまった。この男は皮膚の色が青い以外は地球人と変わらない――人種については地球のどれに似てるとも言い(がた)いものがあるが――けれどもその頭はかつて、彼が若い頃には髪がフサフサであったのかもしれないけれど今はハゲ上がっており、両こめかみから襟足にかけて薄く残っているばかりとなっていた。地球人類の中にも一部にそうなってしまう者がいるのが知られているが、おそらく同じ遺伝だかホルモンだかの侵略を頭皮が受けてしまったのだろう。

 

それは気の毒なことである。残ったわずかな毛が白いのも、やはり遺伝とかホルモンとか、親から受け継いだ体質や内分秘腺に問題があるのだろうと思われるが、ただ気の毒と言う他にない。

 

けれどもたとえ彼の髪が黒々のフサフサであったとしても、今のこの瞬間に白くなってバサバサとみな抜け落ちているかもしれない。今のシュルツが顔に浮かべる恐怖の表情は、横で見る者にそんな思いを与えるのに充分だった。

 

「おお……」

 

とまたシュルツは言う。この男の髪が、いや、この男が今こんなふうになってしまうのも無理はなかった。彼が見つめる画面の中で、自軍の戦艦三隻が、地球の〈ヤマト〉一隻に(またた)くうちに殺られてしまったのである。

 

特に三隻目が沈む光景は、彼の心を打ち砕いた。〈ヤマト〉が真横に向け並べた砲身から、一斉に光が伸びて船を撃つ。それはなんだか〈ヤマト〉に(くし)で、ハゲと知ってる己の頭を突っつかれたように彼は感じた。

 

「そんな……」

 

とつぶやく。十五のビームを零距離で喰らった船が死なずに済むはずがなかった。それはまさに轟沈だった。

 

攻撃を受けて一分と経たずに船がドーンと沈む。それを地球の日本語では〈轟沈〉と言う。無論シュルツはそんなことは知らなかったが、十五の穴が開けられた船はもはや船ではなく、一瞬にして(はじ)けてすべてバラバラに飛び散らばるしかないものだった。

 

爆発四散。船が轟沈するさまをシュルツは眺めやるしかなかった。

 

 

 

   *

 

 

 

「後部魚雷発射管! 魚雷ミサイル発射用意!」

 

〈ヤマト〉艦橋で南部が叫ぶ。彼が向かうコンソールのパネルには、〈目標1〉の残骸を受けてズタボロになりながらもまだ宙に浮かんでいるガミラス戦艦が映っている。レーダーの魚雷ミサイル誘導装置がそれを外しようもなくロック・オンしているのを確認し、

 

「目標、〈目標2〉! てーっ!」

 

叫んだ。そして発射された。六基の対艦宇宙魚雷が。〈ヤマト〉の全部で十二門の魚雷ミサイル発射管には、艦首の六つに海を出るとき氷を割るためのミサイルが、艦尾の六つに敵艦を沈めるための宇宙魚雷が装填されていたのである。

 

それが今、炎を噴いて射出された。六基の魚雷は一度空高く上昇し、六弁の花を開いたような航跡を引いて広がると、いつか地球で発進前の〈ヤマト〉を狙った巡航ミサイルのように六つの方角から、ヨロヨロと飛ぶ〈目標2〉のガミラス艦に向かって行った。

 

 

 

   *

 

 

 

「魚雷です! 六方向から!」

 

〈目標2〉と〈ヤマト〉が呼ぶガミラス艦の艦橋で、レーダーのオペレーターが悲鳴のような声を上げる。

 

「迎撃しろ!」

 

とその船の艦長は叫んだが、しかし無駄だとわかっていた。船はすべての舵を失い、回避などはままならず、レーダーは〈影〉を捉えはするもののそれを追いかけ照準を定める力は奪われている。

 

そして何より、対空火器で生きているものはほとんどないのだ。アンチミサイル・ミサイルは発射口の蓋さえ開かず、対空ビームは砲身が曲がり、もぎ取られてしまっている。レーダーの攪乱装置もアンテナが無くなっていて動かない。

 

「無理です。この状態では!」

 

戦術士が言わずもがなの声を叫ぶ。ゆえに艦長の彼は、かろうじてまだ生きているレーダーが映すノイズだらけの画面を見るしかできなかった。

 

自艦めがけて六方から向かってくる魚雷の航跡。彼はその六本の線も半壊した機器が見せるノイズでどうかあってほしいと願ったが、その望みは(むな)しかった。六の指標が船に届くと同時に床を衝撃が襲い、すでにヒビだらけだった窓が一斉に(はじ)け、壁も天井もすべてがグニャリとひしゃげて(ねじ)れ歪んだかと思うと次の瞬間には、白い光に何もかもが包まれて彼の存在もまた消えた。


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