ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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行進

『ヤマト! ヤマト! ヤマト! ヤマト!』

 

『YAMATO! YAMATO! YAMATO! YAMATO!』

 

地球防衛軍司令部にも、人々の声が届いていた。世界中あらゆる国でマイクが拾う民衆の声が、重なり合って部屋の壁を震わせている。

 

「凄い……みんなが〈ヤマト〉を応援している……」

 

つぶやきをもらす士官がいる。マルチスクリーンにも次々に、コールを上げる人々を捉えた()が映し出されていた。

 

「市民が行進を始めたようです」別の士官が藤堂に言った。「虐殺から逃げて街を出ていた人が、今度は中心に向かい出した……」

 

「そうか」

 

と言った。スクリーンには、そうした状況も映っている。地下都市の四方の壁のすぐ内側は百万本の木が植えられた人工の森となっているが、何十万もの市民が今までそこに逃げ込んでいたものらしい。狂信徒は『革命だ、政府を倒せ、〈ヤマト〉を止めろ』と叫んで街の中心で暴れていたのだから、外縁にある森に逃げればとりあえず内戦の火を避けられたのだ。

 

その人々が森から出てきた。拳を振って、『ヤマト、ヤマト』と叫びながら四方八方から、地下東京の中心目指して通りを行進し始めたのだ。街の中心には市民球場があり、人々がそこで〈ヤマト〉を応援している。誰もがその彼らとともに、〈ヤマト〉よ勝て、勝ってくれと呼びかけようとしているのだ。

 

「北の変電所からも兵士が、自分達も街の中心に残る暴徒を鎮圧に向かいたいと言ってきてます」とまた別の士官が言う。「〈石崎の(しもべ)〉は完全に制圧したとのことで……」

 

「わかった。そのようにしてくれ」

 

と言った。街の中心には確かにまだ暴徒がいる。それでも彼らのほとんどはもう〈AK〉のタマもなく、あったとしても人を撃つ度胸を失くして立ちすくみ、泣き顔でなぜだなぜだと叫ぶばかりとなっていた。こちらが銃を向けてやれば、両手を挙げて降参する者が大半のようだ。

 

特に狂った人間は昨日のうちに多くが自爆や突撃によって死んでおり、油を被って焼身自殺した者や、数百発のビーム弾を喰らいながら仁王立ちして果てた者までいたりする。『大ガミラスに栄光あれーっ!』などと叫んでトラックで突っ込みかけたやつもいたが、そういうのはみんな死んだ。

 

まだ生きている者の多くは、放っておいてもどうせ何もできはしない意気地なしだ。しかしもちろん、だからと言って油断ができるわけでもないし、一部にビルに立てこもって狙撃銃を窓から突き出しバンバン撃ってるやつなどもいる。やらせはせん、やらせはせんぞと叫びながら。

 

「さらに、外国から『日本人を殺せ』と言ってやって来ていた者などもいたが……」

 

「はい。ですがその者達も、戦意を喪失したようです」

 

「うむ」

 

と言った。招かざる訪問者らは、北の変電所の前で、『ホラ死んだよ』と見せられた石崎和昭の死体を棒で突ついたりピンで刺したり口や肛門や銃剣で刺された傷穴に小型カメラを突っ込んで体の中を見ようとしたり、耳を切ったり爪をはがしてみたりして本当に死んだかどうか確かめているところらしい。

 

『トードー、そんなことよりも』

 

と、立体映像での通話がまだ繋がっている外国の代表者のひとりが言った。

 

『オキタはどういうつもりなのです。わたしどもの国でも市民が〈ヤマト〉の名を叫んで行進し始めました。それは素晴らしいことですが、〈ヤマト〉はもう勝ったと言えるのではないですか? これだけやれば充分でしょう。これ以上は深追いせずに〈イスカンダル〉に向かうのが……』

 

「得策だと考えますか」藤堂は言った。

 

『はい。たとえ〈ヤマト〉と言えども、ただ一隻で冥王星の敵基地を完全に殲滅するのは難しいはず。ゆえに波動砲で星ごと消し飛ばすべき――それが軍の結論であり我々の総意であったはずです。〈ヤマト〉は充分やってくれた。人々は希望を取り戻しました。ですが、ここで無理をして、逆に敵に沈められてしまったのではなんにもならない。だから安全策を取ってここで……』

 

「『攻撃はやめろ』とおっしゃる? けれども申しましたでしょう。それは昔に真珠湾で日本が犯した誤りと同じだと」

 

『それとこれとは話が全然違うのでは?』

 

「いえ、同じです。この映像は、おそらく沖田が『これから第三次攻撃をする。勝利を信じて待て』との意味で送ってきたのだ。そうに違いない――わたしはそう思います。これが〈第一次攻撃〉であり、次に起きた核爆発が〈第二次攻撃〉。沖田はやる気だ。敵にトドメを刺すための第三次攻撃を」

 

『リスクを冒してもですか? しかし〈ヤマト〉が沈んだらすべてが無駄になってしまう……』

 

「それが真珠湾攻撃の時の愚かな提督の考えです」藤堂は言った。「しかし、沖田は違います。あの男は戦わなければならぬときを知っている。たとえ敗けるとわかっていても戦わなければならないときを――あれはそういう男です」


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