クルマに詳しい人間ならば、前輪駆動と後輪駆動ではコーナーの曲がり方が違うのを知っているだろう。普通に道を走るぶんにはどちらでも別に変わりのないことだが、もしあなたが峠を攻める走り屋なら、あなたのマシンが限界域でどんな挙動を示すのかを体で覚えておかねばならない。
あるいはクルマにニトロ・チャージャーなどといったものが装備されているとしよう。しかしあなたがそれを知らず、知ったとしてもそのスイッチがどこにあるかもわからず、わかったとしてもどの程度の効果があって使いどころがいつなのかまるで理解していないなら、それはただの重しでしかない。一万台のマシンがあれば一万通りにカスタマイズされていて、特性はそれぞれに違うのだから、ドライバーの腕が良ければその性能を一度で引き出せるということはない。その個体なりの限界を見極め、あらゆる機能を使いこなして初めてベストの結果を出すことができるのであり、その0.01秒が
『ようこそ〈コスモゼロ・ファイター・シミュレーター・システム〉へ。古代進一尉、本機は貴官の本機による〈コスモゼロ〉操縦の教習資格を認めました。教習課程に入る前に、まず機体の概要と、〈ヤマト計画〉における役割について説明します』
〈ゼロ〉のコクピットを模したシミュレーターの中、これから宇宙のヴァーチャル映像を映し出すのだろうキャノピー型スクリーンの古代から見た正面に、文字が流れて表れると同時に音声アナウンスがそう告げた。ヘルメットを被りシートにベルトで体をきつく縛り付けた古代は早くもげんなり声で、
「それ飛ばしてくんねえの」
『質問の意味不明。九九式艦上支援戦闘機宇宙戦艦ヤマト搭載隊指揮官用特別仕様。機体全長……』
ズラズラと細かなデータが示されていく。全長、全高、重心、前後の重量配分、乾燥重量、全備重量、エンジン型式、ノズル形状、出力、翼の形状、取り付け位置、面積、角度、翼断面、各動翼と制御方法、兵装、火器管制、航法、通信、情報収集能力……。
このシミュレーターでただの飾りのものがひとつ。脱出装置のレバーだ。それが活きて動くものなら、ポンと飛び出して終わりにしたいと古代は心底考えた。このアーケードゲーム
『宇宙戦艦〈ヤマト〉には、支援戦闘機〈ゼロ〉と要撃戦闘機〈タイガー〉の二種の戦闘機が搭載されます。両者の違いは多岐に渡りますが、最大の相違はエンジンとノズル形状です。〈ゼロ〉が大型の単発エンジンに円形ノズルであるのに対し、〈タイガー〉は二基のエンジンを並列に配して上下偏向の二次元ノズルを備えています。これによって〈ゼロ〉が機体の軸を中心に回転するロール性能に優れるのに対し、〈タイガー〉は機首を上下に動かすピッチの運動性に
「眠いんだけど」
『〈ゼロ〉と〈タイガー〉は互いが互いを護り合う関係にありますが、〈ゼロ〉は迎撃戦闘においてはタイガー隊を後方で支え、対地・対艦作戦では先頭に立ってタイガー隊に援護させつつ敵に向かうことになると考えてよいでしょう。ゆえに隊長とその僚は、〈ヤマト計画〉においては〈ゼロ〉に搭乗します』
「よくわからん……」
『説明を繰り返しますか?』
「やめてくれ」と言った。「早く終わらせよう」
『それではまず、飛行前点検の説明から――』
「ううう」