ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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蓮池

『なんだあれは!』『どうなっている!』

 

〈ゼロ〉と〈タイガー〉のパイロット達が口々に叫ぶ。通信の声が〈ヤマト〉艦橋に届いている。それに対して相原が「いいから逃げろ!」と応えるのを聞きながら、森は一体、何がそこで起きたのだろうと考えていた。

 

〈ヤマト〉は現在、補助エンジンにモノを言わせて〈ハートマーク〉めざして急行している。もはや対艦ビーム砲も戦艦による迎撃もないこの冥王星で、〈ヤマト〉の航行を遮るものはない。ゆえにほんの数分で、丸い地平の向こうに白い氷原が見え、自分の前のレーダー機器にも何がしか映るはずだった。

 

とは言え既に、そこにどんなものがあるかおよそのところはわかっている。さっき新見が『これが基地だ』と言って見せたエコー画像だ。メインスクリーンにまだ描き出されたまま。

 

「なんと言うかこれはまるで(はす)ですね」と、そのときに新見は言った。「ガミラス基地は冥王星の〈ハートマーク〉の中にあった。それも巨大な蓮池(はすいけ)と言った感じの……」

 

聞いて太田が、「蓮だって?」

 

「ええ。見たことあるでしょう。大きな丸い葉っぱが池の水面を覆い尽くして、水中を茎が下に伸びている。で、水底の泥の中に蓮根(れんこん)があるわけです」

 

「うん、まあ」

 

「ほら」と言って新見はエコーの画像を示し、「これって、そっくりでしょう。〈ハートマーク〉は一部に元々、ウロコ状の丸い紋が表面に刻まれたような区画がありました。ガミラスが基地を造っていたのはそこです。〈紋〉そっくりに擬装した板を並べてその下の氷を解かして池にする。液体メタンと液体窒素の深さ1キロメートルの池……」

 

「その下にあるこれは泥の層なんだな」

 

「ですね。で、そこに長さ1キロくらいの太い筒状のものがゴロゴロしているでしょう。これがおそらく宇宙船のドックなんです。必要に応じてこれが浮き上がり、カモフラージュ板をどけて出てきて宇宙船を離着させる。これらはチューブで繋がっていて……」

 

「まるきりレンコンじゃあねえかよ」

 

「だから蓮池みたいだと……」

 

「ううう」と太田。「わかりやすいっちゃわかりやすいけど……」

 

「航空隊は既に全機が一度この上を飛んでいる。しかし何も気づかなかった」

 

新見は言った。〈ゼロ〉と〈タイガー〉はこの星の白夜の圏を九つに分け、それぞれ〈ココダ1〉から〈9〉と呼んで手分けし、基地を探して飛んでいる。そのすべての割り当て範囲の中にこの〈蓮池〉があり、全機が一度は基地の上を飛んでいたことになる。しかし誰もそのときそれと気がつかず、今もまた何も知らずに敵の上を飛んでいたのだ。

 

「当然でしょう。蓮の葉状のカモフラージュ板がすべてを覆っていたわけです。ガミラス基地は蓮池の底の泥の中にあった」

 

まさに蓮根。しかし、

 

「待てよ」と太田が言った。「それじゃ……」

 

「はい。これは無理です。主砲でも核でも殲滅できないでしょう。池の水と泥に吸収されてしまってダメージを与えられない……」

 

「そんな」と今度は南部が言った。「じゃあどうすればいいんだ?」

 

「と言われてもすぐには。けれど……」

 

「けれど?」

 

聞かれて新見は言った。「無理に叩かなくてもいいのでは?」

 

「あん?」

 

「だって、別に〈ヤマト〉の任務じゃ……」

 

「何言ってんだよ」

 

「いや」とそこで島が言った。「その通りだ。おれは元々この星は迂回しようと言っていたぞ。〈スタンレー〉の基地を殺るのは別に〈ヤマト〉の務めじゃない、と」

 

「あ」

 

「もう充分な戦果は上げたと言えるんじゃないのか? ここで〈ヤマト〉が勝ったと知れば人は希望を取り戻すはずだ。それで内戦も止まるはずだ。おれはそう思ったからこの作戦に同意したんだ。太田」

 

と言って航海士席の方を見やり、

 

「これでお前の両親だって〈ヤマト〉を信じられるんじゃないか?」

 

「え?」と太田。「うん、まあ」

 

「森はどうだ」また島は言う。「ガミラス教徒もこれでもう、何も言えなくなるんじゃないのか」

 

「まあ」と森は言った。「たぶん」

 

「機関長は……」

 

言って島は後ろを見た。徳川は言った。

 

「わしは元々お前さんと同意見だよ」

 

「ふむ」と真田が言って沖田を見た。「どうします? わたしも島と新見が言うのがもっともだと思いますが」

 

「ぼくも」と相原が言って砲雷士席の方を見て、「南部さんは?」

 

「え?」と南部。困った顔をして、「いやあ、おれもやりたいのはやまやまだけど、これじゃあ……」

 

と言った。それも無理はなかった。基地を護る盾として水に(まさ)るものはないのだ。深さ1キロの水底の泥の中に基地がある。それではどんな攻撃も水に弱められてしまう。主砲や魚雷ミサイルでもダメと言うのでは南部には言えることがあるはずもない。

 

どうやらこれで艦橋にいる士官がみんな基地攻撃は不要と言う考えになったようだった。さてどうすると思って森は沖田を見た。もちろん誰がなんと言おうと、決めるのは艦長の沖田だが――。

 

「いいや」と沖田は言った。「基地は必ず叩く」

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