ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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睡蓮

ガミラス基地司令室は、今〈蓮池(はすいけ)〉の上に姿を出していた。何しろ基地の構造が地球の(はす)と言う植物そのものなのだからそのように呼ぶしかない。

 

〈池〉の表面を覆うカモフラージュ板は水底の泥に埋まる宇宙船ドックその他の主要施設とチューブ状の連絡筒で繋がっていて、さらに無数のチューブがウネウネと窒素とメタンが液体でいられる温度に温められた〈水〉の中を漂っている。それらの先には蓮の花の(つぼみ)のようにレーダーやら対空砲、小型宇宙船を離着させるポートがあり、必要に応じて蓮の葉状のカモフラージュ板をちょいとどかして〈池〉の上に首を出させる。で、その〈花〉が開いてそれが果たすべき役を果たす仕組みなのである。

 

ガミラス基地司令室もまた、一輪(いちりん)の巨大な睡蓮(すいれん)のようであった。普段は泥の中に埋まっているものが、連絡筒を引きずっていま水上に出たのである。そして周囲を飛んでいる〈ヤマト〉の戦闘機隊めがけて対空砲の〈花〉を咲かせた。

 

あちらからもこちらからも水柱を立てて対空砲台が昇る。その光景はまさしく睡蓮の花咲き乱れる池のようだった。

 

戦闘機どもは散り散りになって逃げていく。

 

「フフフ」

 

とシュルツは笑った。最前(さいぜん)、彼はこの司令室を『蓮の(うてな)』と呼んでいたが、それも基地の構造が地球の蓮そのものであるからだ。戦艦隊とビーム砲台を失ったショックから立ち直った顔とは言い(がた)いものがあるが、

 

「どうだザマー見ろと言うところだな。あいつらはまだ核を腹に抱いてるようだが……」

 

ガンツが言う。「射ってきたら水中に潜ってしまえばいいだけです」

 

「そうなのだが、この基地に〈ヤマト〉を仕留める力があるわけじゃないのだぞ。どうなのだ。やつらは本当に我々のトドメを刺そうとすると思うか」

 

「わたしはそう思います」とヴィリップスが言った。「必ず〈ヤマト〉の艦長は、第三次攻撃をやろうとする」

 

「どうもわたしにはその考えがよくわからんのだけどなあ」

 

「いいえ。やります。やつはやる――リメンバー・パールハーバーです」

 

ガンツが言う。「その言葉の使い方は、やっぱり間違ってると思うが」

 

「とにかく、もう我々にはそれしか残っていないのです。なんとかして時間を稼いで避難させた船を戻す。〈ヤマト〉があくまでこの基地の破壊にこだわってくれたなら……」

 

「我らにもまだチャンスがあることになる」シュルツが言った。「確かにそうだ。『逃げるが勝ち』を決め込まれたら手の出しようがないが、多数で囲み込めるのなら……」

 

「しかしどうするのです」ガンツが言った。「戦艦はここで全部殺られました。あるのは空母が一隻に重巡が十二隻。他は軽巡に駆逐艦です。駆逐艦ならすぐなんとか戻ってこれるかもしれませんが……」

 

「〈ヤマト〉相手に大して役に立たんだろうな」シュルツは言った。「タイタンのときとは違う。重巡だ。重巡と空母を戻すのが優先だ。重巡艦隊で〈ヤマト〉を囲い込んでから百の攻撃機で突撃をかける。ここで〈ヤマト〉に勝つとしたらもうそれしか方法はあるまい。かなりの犠牲を払うことになるかもしれんが……」

 

「はい」とガンツ。「巡洋艦はほとんどが〈ヤマト〉に殺られてしまうでしょうね。攻撃機も半分が墜とされることになるかもしれない……」

 

「そうなるのがイヤだからこのプランは取りたくないのだ」

 

「それでも勝てる。勝てるのです」ヴィリップスが言った。「〈ヤマト〉を沈められさえすれば、地球人類は終わりです。波動砲も手に入る。それで我々の勝ちは勝ちです」

 

「君はそれでいいかもしれんが……」

 

「他に道はありませんぞ。〈ヤマト〉を逃せば親衛隊に(とが)められるのは……」

 

「そうだな」と言った。「わたしだ。〈ヤマト〉はここに向かってくると思うか」

 

「現に向かってきています」ガンツが言った。「戦闘機隊を収容して星を出てってもいいはずなのに、やってくる。と言うことは……」

 

「ほう」と言った。「やる気なのか。〈ビールサーバー〉とか言うやつを」


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