シュルツが今その中に立つガミラス基地司令室は地球の
蓮の花もウニにしても横に斬って断面を見ればリボルバー拳銃の弾倉のような構造で、拳銃ならばタマを込めるべきところに種や卵が収まる仕組みになっている。その現物を見たことがある者ならばわかるだろう。ガミラス基地指令室は蓮の
水中に潜ってしまえば強固そのもの。至近距離で核がピカリといけばともかく、地球人にはそのような攻撃を今はできぬはずだ。
たとえミサイルが弾幕を抜けても、水に落ちれば
こちらの基地がこのような造りである想定をやつらはしていないのだから、その準備を持つはずがない――シュルツはそのように考えていた。
こちらはいま少しだけ時間が稼げればいい。どうせ次の機会はないのだ。今、船を呼び戻すだけのあいだ耐えられたなら、もうこの基地は用無しだ。通常の攻撃ならばこの《蕾》は、まず確実にハネのけられる。
蓮の花弁のような装甲に幾重にも覆われて、それがウニのトゲのように動いて衝撃を受け流す。〈ヤマト〉の主砲の直撃にも、いま見事に耐えてみせた。何発も喰らったならばどうか知れぬが、それも水に潜ってしまえば――。
「どうだ〈ヤマト〉」シュルツは言った。「これでもう何もできまい」
そうなのだった。〈ヤマト〉がこの司令室を狙ってビームを撃ち始めるとすぐ、シュルツは急速潜水を命じた。司令室は水底にある宇宙船ドックその他の施設とチューブで繋がっており、これにグイと引っ張られて素早く水に潜れるようになっている。
司令室はものの数秒で水中に潜った。カモフラージュ板の陰に入れば上からはまずわからぬだろうし、わかったとして撃たれても水があらゆる攻撃の力を弱めてくれるだろう。
「さて、問題はこちらがやつを仕留めてやれるかと言うことだが」
「重巡艦隊は十分程で到着します」ガンツが言った。「空母はもうしばらくかかりそうですが……」
「ふむ。〈バラノドン〉はまだだいぶ残っているな」
「七十機程が健在です。〈ヤマト〉の戦闘機隊と数は二対一ですね」
「いいだろう。今は出すなよ。重巡隊が来たら同時に攻撃を掛けさせろ」
と言った。〈バラノドン〉はあくまでも対戦闘機戦闘のための迎撃機だ。対艦攻撃能力は持たない。ゆえに、彼らだけを〈ヤマト〉に向けても殺られるだけだ。
「はい。隊にそのように伝えろ」と通信士に言ってから、「〈ヤマト〉はどうするでしょう。無理と見たなら戦闘機隊を回収して逃げてよさそうなものですが」
「そのつもりはなさそうだな」
シュルツは言った。重巡隊が到着するまで、
「あと十分か――こいつは、勝ったかもしれんぞ」
*
「なるほど。こりゃあ、ホントに蓮だな」
〈ヤマト〉のラボで斎藤は言った。一応は科学者である斎藤とその部下である荒くれ冒険学者隊はこの戦いの間ずっと、負傷者の救助や船体の応急補修に追われていたが、どうやらその役もなくなったものと見て、皆でラボに引き揚げてきたところだった。
するとそこに戦術科が『助けてくれ』と言ってきた。ガミラス基地の攻略に科学的アドバイスを願いたい――。
「なんのこっちゃい」
と言いながら送られてきたデータを見ると、なるほどまるで蓮池のような敵の基地が描かれている。
『時間がないんです』と戦術科員。『すぐにも敵がやって来るから、その前にカタをつけないといけない。これが敵の
「蓮の蕾ね」
斎藤は言った。〈ヤマト〉の主砲をハネ返し、水に潜っていったところを撮った映像を眺めやる。
「こんなもん、何をどうすりゃ殺れるんだよ」
『わからないから知恵を借りたいんですよ』
「ふうん」と言った。「主砲をハネ返しはしたが、すぐに潜っていったってことは、殺って殺れなくもないんだろうな。一、二発はハネ返されても、十、二十と撃てば殺れる……」
『そういうこととは思うんですが、しかし水に潜られると……』
「ふうん」とまた言った。「じゃあこんなのはどうだ」