ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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動力炉

「つまり、遊星は北側の口から入れてこのトンネルで加速させ、南の口から射ち出しているわけですね。真ん中にあるこれはおそらく動力炉です。これを殺れば遊星は止まる」

 

「ふうん」と南部が言って、「けど、地中深くじゃないか。主砲で撃っても届きゃしないぞ」

 

「ええ、無理でしょうね。〈魔女〉もまたこの近くにありました。対艦ビームもこの炉から力を得ていたのでしょう。けれどもあの核攻撃もまるで届いていないはず」

 

「じゃあどうするの?」

 

森が言うと、南部が応えて、

 

「だから、全然無理ってことだ。けど遊星を止めるんなら、穴の出口にミサイルでもブチ込んでやりゃいいんじゃないか? それで口は塞がるだろう」

 

遊星の射出口は〈ハートマーク〉の縁にあった。〈ヤマト〉が今いるこの場所からそう遠くない。

 

「ああ」

 

と森が頷いたけれども、

 

「そんなの、またすぐ掘り開けられるんじゃないのか」

 

と島が言った。南部は応えて、

 

「どうせ今から遊星止めても、水の汚染は止まらないぜ」

 

「そうだとしても、やはり遊星は止めるべきだ。そうして初めて地球は自然を取り戻せるようになる。やるんだったらちゃんと止めなきゃ」

 

「そりゃおれだって確かにそういう考えだったけどさ」

 

と、島と南部で言い合いになるのを相原が指で差しながら、太田に向かって、

 

「あのふたり、言ってることが昨日の会議とあべこべじゃない?」

 

「とにかく」と新見。「この動力炉こそ敵の力の源でしょう。こいつを殺ればすべてを殺れる。あの〈蓮池〉が凍らぬように温めてるのも、この炉なのだと思います。だからこいつを潰せばきっとあの〈蕾〉も〈池〉の上に出るしかなくなる」

 

「それで主砲で殺っちまえるって?」南部が言った。言ったがしかし、「けど、それって何時間後のことなんだ?」

 

「さあ。ちょっとわからないけど……五時間くらい?」

 

と新見は言った。あの〈蓮池〉の〈水〉はおそらく水ではなくて、元々そこで凍っていた窒素とメタンを液体にしたものだ。〈蓮葉(はすば)〉のようなカモフラージュ板は凍結を防ぐ役目も持っているが、なければまた固体化していくだろう。

 

そのくらいはすぐに察しがつくことだった。星のどこかに動力炉があり、零下百度の〈湯〉になるように〈池〉を沸かしているのだろうから、〈火〉さえ止めればやはりすべてが凍っていく――それもわかりはするのだが、そうなるまでに時間がどれだけかかるものか。

 

となると答はすぐに出ないのだった。五分や十分でないのは確かだ。

 

「じゃあ、話にならないじゃないか。すぐカタつけなきゃいけないんだろ?」

 

「ええまあ。だからやるとしたら……」

 

と新見が言う。そこで沖田が、

 

「航空隊だ」と言った。「戦闘機でトンネルに突っ込み、動力炉に核をブチ込む」

 

「そう。それしかないでしょうが……」

 

「な……」

 

と太田が言ってそこで絶句した。他の皆もアッケにとられる。

 

しばらくして徳川が言う。「おいおい、本気か? 〈ゼロ〉と〈タイガー〉で……」

 

「〈タイガー〉ではたぶん無理です。やるとしたらこれも〈ゼロ〉の仕事でしょう」

 

「じゃあ、古代と山本で」

 

「そうなんですけど、ふたりとも、核は射ってしまいました」

 

「じゃあどうするんだ?」

 

「ですから、やるとしたら……」

 

と新見が言いかけたところで、彼女の席のインターカムが着信を告げた。

 

スイッチを入れる。新見の部下の戦術科員がパネルに出た。

 

『戦術長、よろしいですか。基地攻略の件でラボから提案が……』

 

「なんなの?」

 

と新見が言うと、別の者が画面に出てきて、

 

『おう。ちょいとおれに考えがあるんだがね』

 

「斎藤?」

 

と真田が言った。インターカムの向こうにいるのは彼の部下である斎藤だった。真田の前の画面にも、同じ画像が映っている。

 

『はい。技師長、アナライザーをおれに貸してくれませんか』斎藤は言った。『あの〈蓮池〉に潜ってこようと思うんですがね』


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