第三艦橋〈サラマンダー〉。
〈顎〉の奥にはクルマが二台。〈ガマガエル〉と呼ばれる多目的車両だ。
宇宙の星を探検する必要に迫られた場合に備えて、〈ヤマト〉に積まれていたものである。形もカエルに似ていると言えないこともないけれど、荒地走破用のいわゆるバギー・カーであり、脚の代わりに太く大きな四つのタイヤを横に張り出させている。
それらがホイール・イン・モーターの唸りと共に空転を始めた。ゼロヨンのスタートダッシュを待つ〈走り屋〉のクルマのようだ。ゴムのタイヤが焼けて煙を立ち昇らせる。
「おっしゃあ、行くぞ! ロックを外せ!」
中に乗っている斎藤が叫んだ。船外服のバイザーを降ろした完全装備状態だ。
一緒に車内に乗り込んでいる者らも皆同じである。二台のクルマに合わせて十人。全員がラボの科学者であり、ただしそのうち〈ひとり〉の者は人ではなくてロボットのアナライザーだった。
「オーウ! 野郎ドモ、突撃ダーッ!」
メーターをピカピカさせて声を上げる。
『斎藤、いいか、五分だぞ』第一艦橋から真田が通信を入れてきた。『五分ですべて終わらせて戻れ。そうしないと――』
「わかってまさあ!」
『では、援護の弾幕を張ります』相原の声が続いて聞こえる。『「ゼロ」の合図で飛び出してください。五、四、三……』
〈ヤマト〉艦底に並んでいる対空ビーム砲とミサイル発射口が一斉に火を噴いた。ハッチの向こうに広がっている〈蓮池〉めがけて光を散らす。
『二、一、ゼロ!』
合図と共に、〈ガマガエル〉を押さえていたロックが外れた。二台のバギーはまさにカエルが蓮の池に飛び込むように、百メートルの高さから宙にダイブしていった。
冥王星の弱い重力の
〈蓮葉〉に着地。液体窒素と液体メタンの水しぶきが噴き上がった。
巨大なカモフラージュ板は今、〈ヤマト〉が浴びせた砲弾で穴だらけとなっており、どこもかしこも水びたしだ。二台のバギーはその上を、ガミラス基地の中枢が水の中に隠れていると
〈ガマガエル〉は水陸両用車両であり、さらに、浅い深度なら潜水も可能となっている。そして、おまけにピョーンとばかりに空へジャンプする能力まで持っており、〈ヤマト〉がごく低いところに浮いていてくれるなら自力で〈サラマンダー〉の口に戻ることができるのである。
そう。まさにカエルのようなクルマだった。四輪駆動で地を疾駆して、ときにジャンプで〈ヤマト〉の主砲が開けた穴を飛び越える。そうやって〈蓮の花〉が居るはずの場所へグングン近づいていった。
「よーし、この〈葉っぱ〉を越えたところで潜水だ。いいな!」
と、斎藤は通信機のスイッチを入れて、もう一台の〈ガマガエル〉に向かって叫んだ。それから同じ車内の者らに言う。
「できればこんな〈池〉じゃなく、さっきの海に潜ってみたいもんだったがな」
「生物ナラバ別ニイナイヨウデシタヨ」とアナライザー。
「ふうん」と言った。「そりゃ残念だな」