ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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上と下と

ガミラス基地司令室はいま蓮の花が蕾を閉じたような形で水中にあり、その〈蕾〉の先端だけを水の上に出していた。そこから上に伸びたカメラが、こちらめがけてやって来る二台の車両を捉えている。

 

「あれは何をする気なのだ?」

 

シュルツが画面を見て言った。ガンツが「さあ」と首を振り、

 

「ここにこうしている限り、滅多なことで我々が殺られるはずがないのですが……」

 

「なんとかして殺っちまえんのか」

 

「浮上すればできないことはありませんが」

 

「浮上したらこっちが〈ヤマト〉に殺られるだろうが」

 

シュルツは言った。この司令室は極めて強固な装甲で(よろ)われ、〈ヤマト〉の主砲を受けたとしても数発ならば耐えられるはずと推定されている。

 

つまり、『数十発』ならば、耐えることはできないのだ。ボカスカ撃たれりゃ蜂の巣になるとわかっているのだから、〈ヤマト〉の主砲がまっすぐこちらを向いている今、水上に出るわけにはいかない。

 

だが問題はそれだけでなかった。オペレーターが「司令!」と叫んで、

 

「やつら、突っ込もうとしています!」

 

「なんだと?」

 

と言った。オペレーターが言うのは、地球人の戦闘機が遊星の射出口に飛び込もうとしていると言う意味なのは、スクリーンを見ればわかった。先程、蓋を破壊されたとき、『まさか』と言った者もいたが、

 

「本当にやる気なのか!」

 

「これはそうとしか思えません!」

 

「墜とせ! なんとしても墜とせ!」

 

「しかし――」

 

と、言ったところで今度はガンツが、

 

「やつら、水に飛び込みました!」

 

と叫んだ。見れば変な二台のクルマだ。水中を潜ってこちらへやって来る。

 

「だからこいつは一体何をする気なんだ!」

 

 

 

   *

 

 

 

まずは古代の〈アルファー・ワン〉、次に山本の〈アルファー・ツー〉が、トンネルの中に飛び込んでいく。上空からそれを見届けて加藤は言った。

 

「よし、核ミサイル発射だ! まだ持っているやつはブチ込め!」

 

『了解!』

 

と言う声が次々にして、十数機の〈タイガー〉が腹に抱いたミサイルを放つ。

 

加藤自身が持っていた核はあの蓮の蕾みたいなやつがまだ水上に浮いてたときに狙い射ってみたのだが、対空砲で墜とされてしまった。しかし今の十数基はすべてが二機の〈ゼロ〉を追って穴の中へ飛び込んでいく。

 

それも道理なのだろう。あのトンネルに普通に核を射ち込んでも入り口で爆発するだけだ。穴を塞いでも掘り直されて、敵はまたすぐ遊星を投げるようになる。

 

完全に止めるためには戦闘機で中に飛び込む。それしかない。腹に抱いたミサイルを自分で中枢めがけて射つか、あのようにして先に飛び込み後ろについてこさせるのだ。しかしまさかそんなこと、本当にやるやつがいるとは誰も思わないだろう。

 

古代と山本が行くのを見ても、加藤は正直、『わーホントに行ったよ』と言う思いを感じてしまった。そりゃあ、もうこうなったらやるしかないかもしれないが……。

 

ミサイル全基が煙の尾を引いて穴の中へ入っていった。見届けてまた加藤は言った。

 

「それじゃ行くぞ! 向こう側へ!」

 

『了解!』

 

とまた全機が返事を返す。

 

加藤以下のタイガー隊の次なる任務は〈裏蓋〉だった。トンネルの向こう側の口もまた、こちらと同じくカモフラージュの蓋で塞いであるはずなのだ。けれどもそれがどこにあるかも〈ヤマト〉が送って寄越したデータでわかるのだから、先回りして〈アルファー〉が到達する前にブチ壊す。

 

そうして古代と山本が外に出られるようにするのだ。それが役目と言うことになった。

 

タイガー隊はこれまでに三機殺られて今の数は29。まだまだ充分に戦える。むしろ全機が核を下ろして身軽になった状態だ。

 

これからこそが格闘戦用戦闘機〈コスモタイガー〉が真価を発揮するところ。

 

見てろよ、と加藤は思った。古代よ、今あんたに死なれるわけにはいかない。

 

必ずそこを突き抜けてこい。おれが道を開けてやるから。


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