ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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加速

〈ゼロ〉のレーダーが後方からのミサイル接近警報を鳴らす。画面を見れば〈ゼロ〉の後についてくる核ミサイル群のさらに後ろに、こちらめがけてやって来た〈敵〉であるのを示す指標。

 

それが無数に分裂した。

 

多弾頭ミサイルだ。一基の大きなミサイルの中に麦穂のように幾十も小さなミサイルが納まっている。標的に近づいたところでそれらが(さや)を開いて一斉に飛び出す――そういう種類のミサイルを敵はここで使ってきたのだと古代にはわかった。

 

暗闇だったトンネルの中を無数のミサイルの炎が照らした。子供ミサイルの群れはてんでに標的を見つけて尻に襲い掛かる。

 

たちまち殺られた。核だ。タイガー隊に託された十数基の核ミサイルのうち、数基が敵の餌食になる。

 

残りはあと七基となった。

 

『敵はまだたくさん残っています!』山本が叫んだ。

 

「わかってるよ!」

 

古代は叫んだ。レーダーにはこの二機の〈ゼロ〉と核ミサイルに追いついてこようとしている敵があと五か六。その全部が二十か三十基に分かれる多弾頭なのに違いない。

 

対してこちらのミサイルは七。これでは無理だ。全部が殺られる。そして、核が全滅したら、次の狙いは――。

 

おれと山本! しかし、とにかく核ミサイルだ。あれを敵にブチ込んでやれたら後は死んでもおれは構わん。そうさ。ここで死んでやるさと古代は思った。だがそれまでは――。

 

後方でまたいくつもの爆発が起きた。核ミサイルを三基喪失。

 

残りは四基だ。

 

山本が叫ぶ。『隊長! わたしが――』

 

「待て! 『犠牲になる』と言うならダメだぞ!」

 

『ですがもう!』

 

「ダメだ!」

 

と言った。山本の考えは、聞かなくともわかっていた。古代もまた同じことを考えたからだ。

 

核ミサイルを敵の炉にブチ込むことができるなら、自分はここで死んでもいい。だから核を先に行かせて自分は後退し、敵ミサイルに射たれて死ぬ。

 

そう考えた。だがそんなことをしても――。

 

「お前が死んでも道連れにできる敵はひとつだけだ!」

 

叫んだ。そうだ。山本が犠牲になっても敵はまだあと何基も残っている。ここで死なれるわけにはいかない。

 

山本には、ここでおれが壁にぶつかって死んだとしても代わりに核を誘導して必ず敵を討ってもらわねばならないのだ。

 

だから死ぬのは許さない。許すわけにはいかないのだ。だから、と思った。

 

こうなれば、できることはたったひとつだ。

 

「スピードを上げるぞ!」

 

古代は言った。〈ゼロ〉は既にこのトンネルを秒速10キロで飛んでいる。時速にすれば四万キロ――一時間で地球の上を一周する速度だが、けれどもこれはロケットが宇宙に出るため出さねばならない程度のスピードでしかない。

 

〈ゼロ〉には当然、これより速い速度をここで出すことが可能だ。しかし、と思う。問題は、それをやったらこのトンネルの内壁にぶつからずに抜けるのが極めて難しくなるだろうと言うこと。そしてもうひとつ、それをやったら――。

 

今まで以上に強烈なGを受けねばならないことだ。大昔のロケットで宇宙に昇るときにも倍する加速を行うことになる。

 

そんなことをこのアビスの中でやる? 考えただけで恐怖に身がすくんだ。

 

しかし、他に手はないのだ。ブースター・スイッチのロックを外して古代は言った。

 

「行くぞ!」

 

そして、ボタンを押した。

 

途端、凄まじい衝撃がきた。

 

Gだ。身を()し潰し、背をシートにメリ込ませる強烈な力。肺が圧されて息をすることもほとんどできない。

 

山本も後ろでブーストを掛けたのがわかった。誘導する核ミサイルも二機の〈ゼロ〉に合わせてその速度を上げる。

 

だが、どうなんだ。これで振り切れるのか? 古代は思った。振動に身をガクガクと揺さぶられる。ヘッドアップディスプレイの中でベロシティのマークが震え、機体が針路を外しかけているのを報せる。

 

トリムスイッチはなんの反応も示さなかった。微調整で向きを変えさす限界を超えてしまっているのだ。操縦桿とペダルとで、〈ゼロ〉を操る以外にない。

 

だがそんなこと、できるのか。このGに耐えながら、内壁に当たらぬように〈ゼロ〉を飛ばす?

 

いや、そもそもこのGにいつまで耐えることができる? もういくらもしないうちに失神してしまいそうだ。たぶん、十秒もしないうちに――。

 

レーダー画面の行く手に目指す動力炉を示す指標が表れた。けれども、見れない。文字が読めない。強烈なGと振動のために、そこまであとどれだけの距離があるかを示す数字が読み取れない。

 

そして、今この〈ゼロ〉が出してる速度も読むことができない。動力炉までどれだけあるんだ。五百キロか、六百か! 今の〈ゼロ〉のスピードでそこまで何秒かかるんだ。おれの意識がそれまでもってくれるのか? 〈ゼロ〉を壁に当てさせずにそこまで飛ぶことができるのか?

 

わからない。何もわからなかった。またミサイルの警報が鳴る。なおも追いすがってくる敵の迎撃ミサイルが、後方でまたも多弾頭の矢に分かれたのだけが古代にわかった。

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