ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

378 / 387
捨て身の攻撃

バイザーに映るマトリクス画が、星の地表に波紋が広がるのを描き出す。地震だ。冥王星の地がいま大きく揺れている。加藤はそれを認めて『やったな』と考えた。

 

古代だ。やってくれたのだ。敵の動力炉を核で破壊してくれた――その証拠がおれの眼にいま表されているのだ。

 

正直、それができるとは、半ば思っていなかった。見ても『えっ、ホントかよ』と、つい考えてしまいさえした。しかし見紛(みまが)いようはない。今このバイザーにこんな線画を表すのは、核の爆発以外にない。

 

古代はやってくれたのだ。後は自分が〈ゼロ〉のために道を開けてやるだけだ――そう思った。思ったが、タイガー隊はまだトンネルの〈裏蓋〉をこじ開けることができずにいた。

 

敵〈ゴンズイ〉戦闘機の群れが『それだけはさせぬ』とばかりに〈蓋〉を護っているのだ。彼らは捨て身だった。〈タイガー〉に体当たりしてでも止める。その覚悟で皆が突っ込んでくるように見えた。

 

「なんだ、こいつら……」

 

加藤は言った。遊星投擲トンネルの〈蓋〉をめがけてミサイルを射つと、敵の一機が前に飛び出し、そのミサイルに自分が当たって自分で墜ちてしまいさえする。明らかにわざとと思える機動だった。(みずか)らの身を盾に〈蓋〉を護ったとしか思えなかった。

 

加藤としてはこれでまた自分の機に描き込む撃墜マークがひとつ増えたことにはなるが、しかしうれしくもなんともない。

 

「どうかしてる……」

 

とまた言った。ここで〈蓋〉を護ったところで、奪えるのは古代と山本の命だけだ。勝敗をひっくり返せるわけではない。動力炉を護ったことになるわけでは――。

 

ない。そうだ。なのにこいつらは、それがわかっていないのか? いま遠くで核が炸裂したと言うのに気づいてないのか。そんなバカな。

 

いや――と思う。そもそも最初から、ここで〈蓋〉を護ったところで、殺せるのは古代と山本のふたりだけ。勝敗となんの関係もない。炉を護ることにはならない。それがわかっていないわけが――。

 

ない。そうだ。そのはずだ。なのに死に物狂いになってる。何がなんでもここで〈蓋〉を護ろうとしている。

 

古代と山本――いや、古代だ。古代ひとりを殺すためだ。さっきは、おれ達タイガー乗りが、盾になって代わりにミサイルを受けてでも古代を護ろうとした。今はやつらがその反対をやっている。たとえ犠牲になろうとも、古代を殺す〈蓋〉を護る――。

 

どうして? しかしそうなのだった。敵戦闘機隊がゴンズイのような塊を作って〈蓋〉の上をグルグルと回り、こちらが行けば何機もで体当たりをかけてくるか、自らミサイルを受けて死ぬかするのでどうにも攻撃のしようがない。

 

そうだ。まさに魚の群れだ。群れを救うためにならときに自分を犠牲にするある種の魚のようなものだ。

 

こいつらにはわかっている。どうせほんの数分のことだと――二機の〈ゼロ〉はあと一分かそこらでここに到着する。だからそれまでの間だけ〈蓋〉を護ればいいだけのことだと。元々〈ヤマト〉が波動砲をもしも撃てていたならばどうせなかった命だから今〈ゼロ〉を道連れに死んで惜しくはないとでも考えているのか。そうでなければ――。

 

こんなことはとてもできない。そうとしか思えなかった。

 

『ダメだ! とても近づけない!』『どうするんです! これじゃあとても……』

 

タイガー隊の部下らが叫ぶ。〈蓋〉を開けるにはやつらの〈玉〉に自分から飛び込んでいくしかないが、やつらはまさにゴンズイだ。危なくてとても突っ込めはしない。

 

どうする。どうすればいいんだと思った。ここで古代に死なれるわけにはいかない――おれは前にもそう思った。一度ではない。何度もだ。最初はあいつが、〈コア〉を地球に運んできたとき。二度目はあいつがタイタンでコスモナイトを運んでいたとき。おれは、命に替えてでもあいつを救わなければと思った。

 

今は違う。今の古代は、別に〈ヤマト〉に必要なものを運んでいるわけではない。それはもちろん〈コスモゼロ〉戦闘機だって貴重だろうが、それでもだ。決してあいつを救うため、おれの命をくれてでも、部下を何人も死なせても、と言う話になるわけが――。

 

ない。そのはずではないか?

 

そうだ、と思った。だがしかし、やはりそれではいけないと思った。今も古代は〈ヤマト〉にとって必要なものを運んでいる。〈ヤマト〉に届けようとしている。それ無しにはマゼランへの旅に決して出られぬほどに大切なものを。

 

希望だ。あいつ自身がそれだ。ここで古代を死なせたら、〈エルモの灯〉が失われる。

 

だから、そうとも、おれもまた、ここは捨て身で行ってやろう――そう思った。通信機で〈ブラヴォー隊〉の部下三機に対して言った。

 

「時間がない! イチかバチかの一発勝負を掛けるぞ。みんな、援護してくれ!」

 

『おお!』『了解!』『わかりました!』

 

「いいか、死ぬのはおれだけでいい。お前らは最後までやろうとするな」

 

と加藤は言った。しかし隊の二番機が応えて、

 

『いえ、おれにもやらせてください』

 

三番と四番機も『おれも』と続けた。それだけでなかった。〈チャーリー〉から〈インディア〉までの他の七つの四機編隊も『自分達も』と名乗りを上げた。声を揃えて、

 

『行きます! どうかやらせてください!』

 

「そうか」と加藤は言った。「すまん……」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。