ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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旅立ち

『〈アルファー・ワン〉、着艦誘導コースに入れ』

 

管制員が告げる声に「了解」と応え、古代は〈ゼロ〉の機体をひねらせた。〈ヤマト〉の舳先の少し前に浮かせていた機を後退させて、船を横に眺めてゆく。

 

〈ヤマト〉か……と思う。暗い宇宙に街灯ほどの陽の光に照らされて見えるゴツゴツとした黒鉄(くろがね)の船体。

 

しかし、あらためて見てやっぱりこの形はやり過ぎじゃないのかなと思った。船首の変なレモン絞りはなんのつもりなんだろう。錨なんて宇宙でなんの役に立つのか……。

 

艦橋に島の姿がチラリと見えた。そのまま後ろに過ぎていくと、あの森ユキと言う女が『真っ赤なスカーフ』と言った艦橋裏の展望室にも今は何人も人がいて、こちらに向かって手を振っている。

 

ひょっとしたらあの中に、昨日煙突に張り付いておれに手を振ってくれたやつがいるかもしれない。そう思って古代は軽く手を挙げた。そうして着艦のアプローチに入る。

 

振り返れば冥王星。グングン小さくなっている。星の両側からまだ煙を噴いて、〈ハートマーク〉を覆い隠しているのも見える。

 

あれが遊星を投げていた穴。あの日に父さんと母さんを殺した穴……でも、おれはやったんだ。おれはあそこを突き抜けてやったんだ。

 

その証拠があの煙だ。冥王星の重力のためにキノコ状に傘を広げ、そしてカロンにも流れていく。その光景は古代の眼に、まるで宇宙に大小マゼランに似た小さな銀河が出来つつあるかのように見えた。

 

あれがおれのやったことだ。そうだ、おれはやったんだ……あらためてそんな実感が湧いてきた。

 

兄さん、と思う。やったよ、兄さん。おれはやったよ。兄さんにできなかったことを、生まれて初めておれはやったよ。

 

ハーロックに越えられなかった〈スタンレー〉をおれは越えたよ。褒めてくれよ、兄さん。

 

ずっと行くとこも帰るところもなかったけれど、どうやらおれにも出来たらしい。変な船だが、この〈ヤマト〉が帰る場所。そして行く場所は大マゼラン。

 

それがおれの〈アルカディア〉だ。この窓からそれが見えるよ。おれは必ずあの〈高原〉に、兄さんの代わりに行ってみせるよ。

 

兄さんが『見る』と言った天の河。〈でっかい海苔巻き〉の上を渡って……おれは必ずこの眼で見て、越えてみせるよ。父さんと母さんに、おれはやったぞと言ってやるんだ。

 

そう思った。クレーンアームに取り付くと、〈ゼロ〉の機体はすんなりと離着艦台に降ろされた。架台が動いて格納庫に運ばれる。

 

そこには古代を待っていた十数人のクルーがいた。整備員の大山田に、船務科員の結城と、そして名も知らぬ者達。昨日までは異分子を見る眼を自分に向けてた者らが、いま喜びを一杯にして出迎えに来てくれていた。

 

〈ゼロ〉の機体が固定されると、歓声を上げて機首に駆け寄ってくる。

 

古代はキャノピー窓を開け、拳を挙げて彼らに応えた。


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