ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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火星軍部

火星は小さな天体だ。直径は地球の半分、重力は三分の一しかない。人間が長期に渡って暮らそうとすれば、宇宙船の内部同様、人工重力が加えられた環境が必要だ。いま現在、火星植民地に住む人々は地球と同様やはり地下に潜っているが、それはガミラスの侵略があるばかりではない。太陽からの距離に加えて希薄な大気のために温室効果も得られず、星は低温でどうせ外などロクに歩けはしないからだ。空気と1G重力のある地中のトンネルの中に()もるしかないのである。

 

それでも現在、その火星に数千万が生きるのは、豊富な鉱物資源と共に、地球の月にはない水が氷の形で多量に存在するからである。鉄もアルミもウランも石油も地球に埋まっていたものは、21世紀中に全部採り尽くされてしまった。代替エネルギーについては地熱がなんとか解決させて、今も地下都市の生命線となってはいる。が、鉱物については別だ。宇宙船の造船は多くが水と金属資源が豊富な火星で行われており、厚い大気と強い重力を持つ地球よりはるかに運用が容易でもあるため、防衛艦隊の拠点もここに置かれていた。

 

ガミラスの出現以前から、人は宇宙資源を求めてたびたび激しく軍事衝突を起こしてきた。それも、主に火星資源をめぐって。それが宇宙艦隊を作り、火星植民地をまるで竹の地下茎のような地中に張られた網としてきた。それが皮肉にもガミラスへの抵抗手段を人類にもたらすことになったのだ。

 

火星がなければガミラスは遊星などというまだろっこしい手は使わずに大艦隊で一気に地球に攻め込んできて、核の雨を降らせていたに違いない。人類には地下に逃げるヒマなどまったくなかったかもしれない――このように言うと、狂信的降伏論者や〈ガミラス教〉の信者達は猛反発する。そんなことはない、人類が宇宙艦隊を持たなければ、ガミラスはそもそも来はしなかったのだ、人が兵器を捨て去ればガミラスは去ってくれるのだ、とか。神は人に信じる時間を与えてくれているのです、だからガミラスを信じれば、あなたも神に選ばれて高い世界にゆけるのです、とか。

 

滅亡のときが迫る中、このようなカルトに引き込まれる者が増えてしまうのはしかたのないことかもしれない。しかしこれは地球に限った現象だ。火星植民地の中ではその種のカルトは広まらなかった。なぜなら、きわめて厄介な別の狂信的思想が幅をきかせていたからである。

 

そう、軍事信仰だ。実際のところ、地球の兵器はガミラスにそう劣っているわけではない。ただ相手は船の動力に波動エンジンを使えるという、それだけだ。小型の戦闘機などは互角かそれ以上なのだから、何十年か持ちこたえて波動技術を確立させることができれば、ガミラスよりもずっと強力な船さえ造れて太陽系からやつらを追い払えるに違いない――宇宙戦艦〈ヤマト〉にしてもこの考えのもとに造られたわけではあるが、火星ではこのように叫ぶ者達が地球よりもはるかに多く存在し、住民の過半を占めていたのである。

 

火星に長く住んでいると人は〈火星人〉になる。〈地球人〉とまったく同じ考え方はできなくなる。〈火星人〉らにはこれまで地球を護ってきたという自負があり、資源のない地球を養ってやっているという考えさえ持っている。ゆえに地球の政府が何をするにしても、『我らを置いて勝手に事を運ぶな』と言ってくるのが常だった。

 

特に宇宙の、それも軍事についてはだ。

 

〈ヤマト計画〉に関しても、火星に黙ってすべてを行うわけにはむろんいかなかった。船を地球で造ることには火星軍部も同意せざるを得なかったが、しかしひとつ、地球とほとんど合意のできていない問題が残されていた。

 

火星軍部はガミラスとの徹底抗戦を主張する派が牛耳っており、〈メ二号〉と呼ばれる彼らの作戦を〈ヤマト計画〉に組み込む考えを地球に(ゆず)るつもりはまったくない、ということである。

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