「メインスクリーンに状況を出します」
森の操作で、レーダーの像をグラフィック化した
第一艦橋。ワープテストの準備どころではなくなって、艦長以下の艦橋クルー全員が今は席に着いている。
「戦艦、空母、巡洋艦……戦闘機も出しています。〈ヤマト〉の前をふさぐつもりのようですね」
太田が言うと、新見が、
「つまり、〈ヤマト〉が火星の陰に入りたがっているのを知っていて、それを邪魔するつもりなんだわ」
島が言う。「まさかとは思ったがなあ。これが味方のやることか……」
艦橋の窓に、戦闘機の四機編隊が向かってくるのが見えた。〈ヤマト〉の前で二機ずつ左右に分かれて横をすり抜けていく。そして、さらにその後からも続いてまた四機の編隊。
相原が言った。「火星から入電です。『停船せよ』」
「『バカめ』と言ってやれ」沖田が言った。「これだから火星なんかにうっかり電報も打てんのだ。コスモナイトがないなんて知ったら、連中、なんて言ってくるか」
「『それをやるから一緒に火星の人間を乗せろ』でしょうね」真田は言った。「冥王星まで」
「そうだ。これではガニメデも無理と思った方がいいな。タイタンで
「はい」
島が操縦桿を操った。〈ヤマト〉が右に向きを変える。星の光が窓を左に流れていく。なかには船の光と
「〈メ二号作戦〉なんてあきらめたと思ってたのに……」
島が言うと、横から南部が、
「波動砲の力を見たらね。またやりたくもなるんじゃないの」
「南部、お前もやりたいんじゃないのか」
「まさか。二ヶ月かけてまで……」
「おしゃべりはやめろ」沖田が言った。「火星の狙いはわかっとる。君らの言う通り、〈メ二号〉だ。〈ヤマト〉と共に冥王星まで火星のほぼ全艦で行く。ガミラスが迎え撃ってきたら、波動砲の射程距離まで〈ヤマト〉を護り、その後〈ヤマト〉がワープするまで持ちこたえる。それで全艦玉砕という特攻作戦だ。そうまでして火星軍部は冥王星を消し飛ばしたい……」
「信じられないほどにバカげた作戦です」新見が言った。「防衛圏を出た途端に、敵は全艦で地球にワープし、核の雨を降らせるに違いありません。人類はあと一年や十年と言わずその日に絶滅するだけなのに……」
「そうだ」と徳川が言った。「その論理で一度は火星を納得させたはずだった。だが論理に溺れると、人は目先の
「じゃあ」と森が言った。「その話をここでもう一度言ってやっても無駄ってこと? 〈スタンレー〉まで二ヶ月言い続けても?」
「だろうな」
「そんな! 女が子を産めなくなるまであと一年しかないのよ! 九ヶ月でマゼランから帰ってこれるかもわからないのに、太陽系で二ヶ月潰してどうするのよ! その間にどれだけ子供が放射能の水を飲むと思ってるの!」
「それは女の理屈なんだよ」太田が言った。「バカな政治家や官僚は、冥王星が吹っ飛べば若い女が子を産むようになると思い込んでるんだ。〈来年〉なんて考えてない。今年の出生率が上がれば自分の手柄なんだから」
「産むわけないでしょ、今の地球で! 汚染を除去しない限りダメなのよ!」
「ぼくに言うなよ。〈火星人〉にしてみたら、冥王星を迂回して〈ヤマト〉が外宇宙に出るのは〈ヤマト〉が逃げるってことなんだから。徹底抗戦派にしてみたらこれはどうしても許せないのさ」
「あなたも〈スタンレー〉をやりたいわけ?」
「何言ってんの。ぼくが島さんと同じく迂回派なのは船務長もよく知ってるでしょ」
「それは……」
「もういいだろう森君。そういうことだ」真田が言った。「とにかく、火星は〈メ二号〉をやめる気はない。ここはサッサと退散すべきじゃないでしょうか。我々がいなくなれば、〈火星人〉も少しは頭を冷やすかもしれません」
「その通り。と言いたいところだが……」沖田が言った。「どうやらなかなかそうはさせてくれなさそうだぞ」
「は?」
と真田が言うと、沖田は、
「新見君、八時上方から向かってくる駆逐艦の群れがあるな。あいつをちょっと調べてくれんか」
「はい」新見がパネルに指を走らせた。それからハッとした顔で、「艦長、これは……!」
「そうだ。やはりな」沖田は言った。「〈ガミラス捕獲艦隊〉だ」