ガミラスの出現以来、地球はひたすら敵異星人の捕虜を捕ろうと努めてきた。
できれば、船を丸ごとだ。理由のひとつは、むろん、敵を知るためである。〈ガミラス〉とはなんなのか。どこから来たのか。背後にどれだけの勢力を持つのか。なぜ太陽系に現れ、地球人類を滅ぼそうとするのか。
兵をひとり捕まえたくらいでは、何もわかりはしないだろう。どうにでも嘘をつくかもしれない。ふたり捕まえればふたりとも、五人捕まえれば五人とも、同じ嘘をつかないとさえ限らないのだ。ことによると全員が、地球の海は塩でなく砂糖水で出来てるものと考えて、地球人類を皆殺しにして星全体をひとつの
地球人でも男と女は決して本当にわかり合うことはないともいう。それが異星人ともなれば、その心理は地球人にはまったく理解できないものが必ずあるのは疑いない。七進法で数をかぞえるかもしれないし、脳に巣くった寄生虫に操られた生物かもしれない。結局何も知り得ないということも、多分に有り得る話だった。
ゆえに何より、ガミラス艦を捕らえたい本当の理由は別だった。その動力である波動エンジンだ。なんとしてでも地球政府はこれを手に入れたかったのである。
波動エンジン――その元となる波動技術を、地球はガミラス出現以前に一応かたちづくってはいた。だが研究は基礎段階で、到底、ワープを可能にするエンジンなどは試作にも至らずにいた。出来るのは二十年も三十年も先のことと言われていたのだ。
ガミラスはそこに現れた。彼らの船は明らかに波動エンジンを積んでおり、こちらの船とは比べ物にならないほどの動力性能を発揮して、地球防衛軍を圧倒した。
が、しかし、それだけだった。『波動技術を持つ』ということ以外では、敵の科学は地球とたいして違わぬらしい。地球から火星へ一日で行ける現在の宇宙技術を
ならば、こちらが波動技術を完全にものにできたなら、ガミラスに勝てるのではないか? やつらを太陽系から追い払い、二度と来る気にさせないようにできるのではなかろうか。それどころかワープ船を造り上げ、こちらがやつらの本拠星系を見つけ出し叩くことさえできるのではないか――〈波動砲〉という、未だ持たざる兵器を以て。
地球政府はそう考えた。が、どうやらガミラスも、同じことを考えていると思えるフシが窺えた。やつらは波動エンジンを備えた船を持っているのに一気に地球を攻めてこない。むしろこちらが追えば逃げる。なぜか? それはあいつらが、船が拿捕されるのを恐れているからではないか。船が地球の手に渡れば波動エンジンが調べられる。三十年かかるとされる研究が一気に五年に縮められる。ガミラスは地球が波動技術を持つのを恐れ、人類がワープで外宇宙へ出る前に滅ぼすために来たのではないか。だから、たった一隻でも自分達の船を渡すわけにはいかぬと考えているのではないか――。
地球人類は地球の資源を21世紀中に使い果たした。そして火星や月の資源も23世紀にはなくなるものとされている。それまでに波動技術をものにすれば、当然のこと地球人は資源を求めて太陽系を出ることになる。
ガミラスはそれを察知した。そしてどうやら、ことによると、地球人が外宇宙へ出る船には彼らには造ることのできない巨大な砲が積まれるかもしれないことも……。
ガミラスはだから襲ってきたのであり、だから船を拿捕させまいと必死なのだという仮説が立てられた。この仮説に、『まあ辻褄は合うと思うが一体なんでやつらには波動砲が造れないのか』と反論する者は多い。多いが、しかし『敵の科学も地球とたいして変わらないのだろう』と応える他にない。科学が格段に上ならば、地球を恐れることもないのだ。
むしろ波動エンジン以外で地球の方が優れるならば──波動技術の確立に政府は力を注ぎ込んだ。だが研究は進まない。なんとかしてガミラスの船を捕まえその
ガミラスの船を捕まえろ――実はこれには、表向きとは別に裏の真意があった。もしも生きたワープ船を一隻と言わず二隻三隻と捕まえることができたなら、それはそのまま一部の者が地球を逃げる逃亡船になり得るのだ。
とにかく、拿捕だ。捕まえろ。大型戦艦や空母と言わない。駆逐艦の一隻でいい。ガミラス艦を生け捕るのだ。そのためのだけの艦隊を作ろう。そのためだけの船を造り、そのためだけの兵器を載せ、そのためだけの訓練をした兵士を乗せる。それによって艦隊を組ませ、ガミラス艦を取り囲むのだ。
〈ガミラス捕獲艦隊〉はそうした