ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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反重力感応器

〈反重力感応器〉――名前を聞くとかなり珍妙な印象だが、つまるところは小型の人工重力発生装置である。

 

宇宙船の床に使われる人工重力。天井で逆さにすればこれすなわち反重力というわけで、このふたつが同じものであることは22世紀末の今には誰でも理科で習うことだ。

 

人工重力制御技術は超光速通信と同じく波動理論の研究の過程で生まれた。さらにはこの技術の応用により亜光速のビームをそれが発射されるのと同時に探知し、ときには()けることすら可能にしたわけだが、それらの理屈はとても中学の理科くらいで説明できることではない。

 

高校の理科くらいでも説明できぬが、とにかく、ある物体を人工的に重くするのが人工重力であるのなら、同じ力を逆に使って〈軽く〉するのが反重力なのである。高校の理科で説明できないのならいつどの理科で誰もが習うのか、などと考えてはいけない。

 

幼稚園児も反重力遊戯施設で遊ぶ時代に誰がそんなこと気にするものか。とにかく、物体を〈軽く〉する。何に対してか、と言えば、それは宇宙に対してだ。たとえば、宇宙をスポンジの上に敷いた黒いゴムシートのようなものであると考えてみよう。ゴムシートにリンゴを置けば、当然その部分はくぼむ。ビー玉を一個、そこに向かって転がすと、ビー玉はくぼみに沿ってリンゴのまわりを回ることになる。もしシートがツルツルで抵抗がまったくないとするならば、ビー玉は止まることなくいつまでもリンゴのまわりを回り続ける。これがすなわち星の公転運動だ。

 

ではもしここに反重力装置を使い、ビー玉を〈軽く〉できたらどうだろう。ビー玉はリンゴの重力を逃れてどこかに転がっていくことになる。簡単な理屈だろう。学者は何やら小難しい論を並べてどうこう言うが、そんなの誰も聞いてられないだろう。

 

さて、それでは宇宙船ならどうか? これも、二次元の平面である水の海に浮かぶ船を考えてみればいい。船がヨットであるならば、〈軽く〉なればなるほどに水から浮いて速く進むことができるが、スクリュープロペラで進む船では、軽くなっても喜んでばかりいられない。浮けば浮くほど、スクリューも水から出てしまうのだから。やがてまったく水を掻けなくなってしまって、船はその場にピタリと止まることになる。

 

そうだ。それと同じ理屈が働くのだ。うん、それと同じ理屈が働く。真田が見破った通りだった。〈ヤマト〉の前に広がった無数の小物体は〈反重力感応器〉――宇宙を行く船に取り付きそれを〈軽く〉することで推進力を失わせる摩訶不思議とも言うべきような無力化兵器だったのである。


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