ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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速度低下

「無理です! とてもよけきれない!」

 

島が叫んだ。〈ヤマト〉はほとんど減速できずに小物体が撒き散らされた宙域へと突っ込んでいく。レーダーには無数の点。まるで全力で泳ぐイルカが、漂う海洋生物の群れにぶつかったようなものだった。(かわ)せるわけがない。〈ヤマト〉はほとんど曲がることもかなわずに、雲をなす無力化兵器のただなかに入り込んでいくしかなかった。

 

反重力感応器――それは実際、一種のクラゲか、または北極の海に棲むクリオネとやらいう生物に似ていた。だいたいあれはイカが逆立ちしているような感じだから、つまりイカに似ているとも言える――あれらのように透明でなく、金属製のロボットイカという見た目だが。

 

触手のようなアンテナ――つまりそれが〈感応器〉なのだが――をクルクルと回すようすはやはり生物じみていた。そのアンテナで早速にも〈ヤマト〉の存在を感じ取り、近くにいた何十匹かが動き出す。まさしくイカが漁船の光を求めるように、〈ヤマト〉のいる方向を〈上〉とみなして(みずか)らの体を〈軽く〉することによって。

 

一匹動けば次々と連鎖的に〈感応〉し、やがてすべてが〈ヤマト〉めがけて群がるのだ。

 

すぐ何匹かが〈ヤマト〉の舷に取り付いた。まさにホタルイカのように青い光を(またた)かせ、アンテナをクルクル回して仲間を呼ぶ。

 

「〈ヤマト〉の速度が落ち始めました!」太田が叫ぶ。「80宇宙ノットから79、78……」

 

「機関長!」

 

島が叫ぶと、徳川が、

 

「出力は最大だ! なのに推力が落ちていく!」

 

「〈ヤマト〉が〈軽く〉なっている?」南部が言った。「軽くなればなるほど遅くなるなんて……」

 

「そうだ。普通と逆なんだ」真田が言った。「もちろん、ワープもできなくなる……三次元の宇宙から四次元方向に〈浮いた〉状態にさせられて、最後には宙吊りで身動きが取れなくなる……」

 

「そんな!」森が言った。「そんな兵器を相手にどうすりゃいいっていうの?」

 

宇宙にまた花火のショーが展開されつつあった。今度は打ち上げスターマインではない。〈ヤマト〉に向けて流れ集まる渦を巻いた青い瞬きだ。舷に、甲板に、船底に、次から次に機械のイカが貼り付いて船を電飾させていく。〈ヤマト〉は青い光に覆われつつあった。

 

太田が叫んだ。「速度30宇宙ノットに低下!」

 

そして、五隻の宇宙駆逐艦だ。今や〈ヤマト〉の周囲をグルグルまわり動いている。弱ったクジラをいたぶるサメのようだった。もしそれらの艦尾に紐でもついていれば、もはや無力化兵器などなくても〈ヤマト〉はギュウギュウに縛り上げられているかもしれない。

 

「これじゃもう撃ちたくても砲は撃てない……」南部が言った。「ここまで近づかれたんじゃあ……」

 

その通りだった。〈ヤマト〉の主砲副砲は、敵がある程度遠くにいてこそ力を発揮する。亜光速のビームが二秒で届く辺りの船を見定めて、その船が二秒後にいるはずの位置を狙って砲を撃つ。二秒ではとても回避できないから敵は『うわー、やられたー』となるのだ。しかし近くに寄られたのでは、相手の動きに砲塔の旋回と砲身の上げ下げが追いつくはずがない!

 

ガミラス捕獲艦隊。まさに精鋭だった。友軍ではある自分達を〈ヤマト〉が撃ちはしないとは踏んでいる。だからと言ってそれに甘えることはない。〈ヤマト〉の周囲をてんでバラバラにまわり動くのは、取り押さえるためばかりではない。万が一にも主砲でブチ抜かさせないための防御の行動なのだ。

 

〈ヤマト〉はもはや全体を無力化兵器にビッシリ覆いつくされていた。艦橋にも砲塔にもイカ型機械が貼り付いている。船の速度はみるみる落ちる。エンジンノズルは咆哮を上げて炎を後ろに送っているのに、前へ進む力はない。完全に船の動きが止められるまでもういくらもなさそうだった。


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