「次の目標は敵の三番艦だ!
沖田が叫んだ。それは主砲が使えぬ距離に相手が肉迫しているがゆえに取れる戦術だった。そして相手がグルグルと〈ヤマト〉の周囲をまわり動いているがゆえに。その動きにタイミングを合わせられれば、カウンターを喰らわせられる。
三隻目の獲物はまだ、自分達に〈ヤマト〉が何をしているか気づいていなかった。主砲の火線を
いや、たとえ読まれたとして、〈ヤマト〉に何ができるというのか――普通ならばそう思う。戦艦など砲が撃てねばデカいだけ。かつて地球の海上で大艦巨砲主義が
沖田はそれを見逃さなかった。この状況でも冷静さを失わず、相手の心を読むことにずっと集中していたのだ。そして〈ヤマト〉の動力が封じられかけた今こそが反撃のチャンスと見極めたのだった。
「今だ! 右回頭、同時にロケットアンカー点火!」
もはや進む力はないが、代わりに〈軽く〉なったがために横Gを受けることなく船の向きを変えられる〈ヤマト〉。島は野球のバットでも振るかのごとくに船体を右にスイングさせた。それに引かれて艦首から長く伸ばされていた鎖が鞭のように宙を走る。その先にある巨大な
〈ヤマト〉の旋回でそれが振られ動くと同時に、錨の軸に装備されたロケットモーターに火が入り、宇宙空間を薙ぎ払う大鎌となって真空を駆ける。そして狙い
相手艦はまさしく尻を蹴飛ばされた
眼には眼を。推進力を奪う敵には同じく船の推進装置を破壊する攻撃を――これがこの状況で沖田が出した答だった。五隻の駆逐艦のうち三隻を同胞である地球人類の乗員をひとりも殺すことなしに、瞬くうちに戦闘不能に追いやることに成功したのだ。〈ロケットアンカー〉――本来、武器ではあり得ない船の繋留器具を使って。まさに信じられないほどの機略の才と言うしかなかった。
『イカリだ! イカリにやられた!』『なんてやつだ! 船が動かない!』
慌てふためいた交信を相原が拾って艦橋に流す。
「さすがに気づいたな」沖田が言った。「残りは二隻か。もうイカリの手は喰うまい。さてどうするかだが……」
「推進力は完全になくなりました」太田が言った。「宙ぶらりんです。火星の重力にも捕まらず、ここに〈浮かされた〉まま……」
「そうか」と言った。「相原。あちらの旗艦にひとつ電信を打ってやれ。文面は……そうだな、『まだやるか、これ以上は死人が出るぞ』だ」