ザ・コクピット・オブ・コスモゼロ   作:島田イスケ

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第4章 疫病神
強者の責務


22世紀末の地球で、日本は経済力において他国を大きく引き離す最強国となっていた。それは日本の不幸でもあった。経済の強さは軍事力の強さとなり、ガミラスとの戦いにおいて常に先頭に立たねばならないことを意味したからである。

 

そうなった最大の要因は、この世紀の中頃に日本が生んだ画期的な地熱発電システムにある。石油も石炭もウランも枯渇(こかつ)し、それに代わるエネルギーもない――風力や太陽光で得られる電気などしょせん雀の涙というのが二百年かけて証明されてしまった状況で、日本が開発に成功した、穴さえ掘ればほとんどどこでも効率的に低コストの発電ができ、水や立地も多くを必要としないという新システムはまさに人類の福音(ふくいん)となった。さらに日本はこれで発電するだけでなく、地下に広大な空間を造り地熱で得た電気で米や野菜を育て、さらには牛やニワトリを成育するようになったのである。

 

これによって日本はかつての食糧自給ができない国ではなくなった。逆に世界を飢餓から救い、国の力を強くして、地球のリーダー国家としての地位を確固にしていったのだ。

 

そしてまた、これがガミラスとの戦争で人類に延命の機会を与えることになった。地下に農場や牧場を造る技術は、地下深くに街を造って放射能を逃れるための役に立つ。水が刻々と汚染されていくのはどうにもならなかったが、日本の技術で人類は即時の滅亡を免れたのだ。

 

結果、〈ヤマト計画〉も、国連主導の体裁(ていさい)を一応とってはいるものの、実質的にほとんど日本が執り行うことになった。クルーが全員日本人となった理由もそれである。いや、ちょっと待て。だからって、別に全員日本人でなくてもいいんじゃないかと思われる向きもおありになるかもしれない。すべての人類を救う旅にどうして日本人だけが、と……。

 

そ、それは、確かに、まあ、なんと言うか、ええと、あの、その、おっしゃる通りと申しますか、実にもっともな疑問であります。ハイ、まったくそのような疑問を持つのが当然のことでありまして、そのう……イヤハヤ、大変に心苦しい限りではございますが、それについてはどうかひとつ胸にお収めになられまして、心の広い皆々様のお許しとご理解を願う所存でございますです。とにかく全員日本人と決まったものは決まったのだ。

 

リーダーとして地球人類を救う責務を負わされてしまった日本。そして重過ぎるその使命をただ一隻で背負わされてしまった〈ヤマト〉。クルーひとりひとりの肩にそれは重くのしかかる。

 

ことになったわけではあるが……。


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