「ではこれより、あらためて〈ヤマト計画〉について説明する」
船務長の森は言った。宇宙戦艦〈ヤマト〉の両の舷腹に、ラグビーボールをふたつに切って貼り付けたように張り出している展望室。ラグビーボールの縫い目のように横一列に窓が並んで外を眺めることができる。普段はクルーのレクリエーション・ルームとして使われる左右ふたつのうち左の側に、クルーがいま数十人、特に集められていた。
赤青緑の識別コードで色分けされた船内服。正しく言えば、火器と機関の要員が
この五色を基本として、他にいくつか特殊部員用のコードがある。たとえば、そこにいる古代だ。ひとりだけ黒いパイロット服に、燕脂でもなんでもない真っ赤のコード。
森は燕脂コードの中に、ワープテスト・ブリーフィングの際に見かけた藪という機関科員の姿も見つけた。いま目の前に並ぶのは、全員が〈ヤマト〉出航直前に沖縄基地の爆発で死んだクルーの代わりに
ひと通りの顔を見渡して森は思った。正規のクルー以上にこの者達の今の思いは複雑だろう。覚悟を決めるヒマもなく、来いと言われていきなりこんな途轍もない使命を持った船に乗せられてしまったのだ。家族に別れを言うこともできず、カバンひとつに荷物を詰めて。
人選にはそれなりの配慮もされたはずではあるが、しかし中には兵舎で犬か小鳥でも飼っていたのを置き捨てた者がいるかもしれない。あるいは、鉢植えの植物でも――禁じられた行為であるが、目の前にあるひとつの命を救うことで自分が救われようとして、そうした行為に走る兵士は多いものと聞いていた。
すでに腹をくくったようすの顔もあれば、不安げに窓外の宇宙を見る者もいる。だがしかし――と森は思った。色とりどりの一群の中でも
「ある程度の話はおのおの聞いていると思うが、まだよく理解ができないでいる者が多いのではないかと思う。そこで本艦の任務について、補充された諸君に説明する場を
森は背後のスクリーンに次々に図や写真を映しながら話し始めた。地球がある天の河銀河と、すぐ隣に寄り添うにあるマゼラン銀河。そこまでの距離――。
「詳細はまだ不明の点もあるが、仮にその星を〈イスカンダル〉と呼ぶ。イスカンダルの使者は言った。地球に手を貸したいが、できることは多くない。ガミラスとの仲立ちなどはしてやれないし、代わりに戦ってやるなどはなおできない。我々にも事情があって、できるのは放射能を除去する装置を提供することだけだ、と」
古代以外の全員が小さく頷いた。〈事情とはどんな事情か〉と疑うような顔はなく、誰もが〈そんなものだろうな〉という表情だ。
「この装置を仮に〈コスモクリーナー〉と呼ぶが、ナノマシンの一種であるとだけ説明されている。自己増殖する極小のロボットがプルトニウムを〈食べ〉て無害な物質に変える。これが地上を覆い尽くしてくれるので、人間がセッセと除染しなくていいというわけだ。しかし、これにも条件がついた」
そこまで言って、森はひとつ
「提供自体は無償で行われるのだが、イスカンダルが持ってきてくれるわけではない。地球人が
ひとりが手を挙げて言った。「質問してよろしいでしょうか」
「なんだ」
「非常に奇妙な話のように思えます。放射能除去装置の作り方は教えないが、波動エンジンの作り方は教えてくれるというのですか」
「そうだ。確かに変なのだが、どうも本当に必要なものは自分の力で手にしろということらしい。それができない者に援助はしないということなのだ。そして波動エンジンにしても、無条件の技術供与は得られなかった。地球はなんとかエンジンの製造はできたのだが、その動力源となるこの――」映像を出して、「〈コア〉の精製はできなかった」
言いながら、それを運んできた当人である古代を見る。自分に関係した話には何か反応を示すかと思った。だが古代はトロンとした目のままで、話をまともに聞いているのかさえわからない。
「〈イスカンダル〉はこれを地球に渡すうえで条件をつけた。『超光速航行船の完成を確認したうえでひとつだけ』だ。正しくは八割方出来上がればよしとするものだったが、とにかくこれは絶対条件だった。特に、波動エンジンの〈コア〉を納める炉が出来上がるのを見なければ渡さない、と」
ここでまた言葉を切って、一同の顔を眺め渡した。古代以外のほぼ全員が不審そうな表情になる。
「これについては、理由を説明してもらえた。〈コア〉はそのまま爆弾になりうる。冥王星に投げつければ、ガミラス基地は星ごと消滅してしまうほどのものだ。それどころか、そこにブラックホールが出来て太陽系は丸ごと呑まれてしまうのだそうだが、イスカンダルにしてみれば地球人がそれをやらない保障はどこにもないということらしい。たとえば、太陽系をブラックホールにしておいて、ごく一部の者だけが船で逃げ、どこか
「ああ……」納得が広がった。
「イスカンダルは〈コア〉を爆弾として使うことは許さない。炉にいったん納めてしまえば〈コア〉は安全に制御され、20世紀半ばに造られた初期の原子炉のように重大な事故を起こすおそれはなくなるそうだ。仮に船が沈むことになったとしても……またそれで、〈コア〉をくれるのがひとつだけ、という理由も
森が話しているうちに、一同が息を呑み、目を見張る顔になっていった。〈イスカンダル〉だのなんだのかんだの、怪しげな話と思っていたものが、どうもそうでもないらしい――そう考えるようになってきているようすだ。これが確かな話なら、コスモクリーナーの話も本当ということになり、自分達は地球を救う船に乗り組んだことになる――その事実を確かめようと、隣同士で顔を見せ合い、頷きを交わし始めた。この話は本当なんだな。オレは夢を見ているんじゃないんだなと、互いに眼で語り合う。あまりに話がうま過ぎるなら信用できない。だが、これはそうではない。自分達が試されているという話なのなら、いいだろう。必ずやってのけてやろう――そんな決意を互いの瞳に
これなら大丈夫だろう――そう思って、森はしばらく一同をそのままにしておくことにした。まだ何人かは不安げにしている。あまりの話に
古代進。このがんもどきパイロットだけは、何も考えてないように無表情なままだった。