「船? 宇宙船か?」
〈ヤマト〉第一艦橋。相原が古代の通信に応えて言った。
『そのようです。沈んだ軍艦じゃないかと』
と古代の応答。艦橋にいた者らは顔を見合わせた。
「まさか、ガミラスの……」
と新見が言う。もし、ガミラスの船だとしたら大変な発見ということになる。その正体を突き止める手掛かりがあるかもしれないし、それ以上に波動エンジンだ。沈んだ船なら内部の〈コア〉は停止しているはずなのだが、イスカンダルと方式が同じだとは限らないし、それを取り出し再び〈火〉を入れられるかもしれない。あるいは、それを調べることで、同じものを地球で造れるようになるかも。となれば――。
「まさか、と思うがな」
真田が言った。用心深いガミラスが残骸と言えども船を地球人に渡すとは考えられない。だから地球の船だろう――そう考えている表情だった。
「とにかく調べるように言え」
沖田が言った。相原がマイクに向かい、古代に伝える。
しばらくして返事が来た。
『地球の船だ。駆逐艦と思われる』
やはりな、という空気が流れる。相原が言った。
「どうしますか」
「まあとにかく、近づいてちょっと調べるように言え」
*
「了解」
と古代は応えた。垂直離着装置を使って〈ゼロ〉を空中にホバリングさせる。地球でやったら燃料消費が莫大になるところだが、タイタンの小さな重力と濃い大気の中ではさほどのことはない。砂に埋もれ、氷に覆われているらしい船に近づく。もやに隠れて、肉眼ではまだよく見えない。
だがだんだん見えてきた。間違いなく地球の高速駆逐艦だ。ガミラス艦と比べてみても不恰好で、まるで三浦の堤防で海を覗いてよく見つけたアメフラシやウミウシのよう。無数についたミサイル発射口の蓋がイボイボした感じなのもあのテの生き物みたいに見える。
同時に見えたものがあった。船のまわりの砂地だ。最初は風紋かと思ったが、
「船のまわりに
それに、見えた。人の足跡らしきものが。凍りついた船のまわりの砂に無数に刻まれている。
タイタンの環境ではすぐに風と液体メタンの雨で消えてしまうはずのものだ。それが見えるということは、つい最近、人がいた……?
『情報を送ってくれ』
と通信が来た。古代はカメラやセンサーが捉えたものを送信する。
そしてさらに沈没船に近づいた。ごく最近に沈んだ船で、生存者がいたということじゃないのか。もしそうなら、まだ生きている可能性が――。
〈ゼロ〉のコンピュータが船の名前を割り出して画面に出した。いそかぜ型ミサイル突撃艦〈ゆきかぜ〉。メ号作戦にて戦没。艦長の名は――。
次に画面に表れたものに、古代の意識は凍りついた。
《艦長:古代守》。実の兄の名と顔がそこに映し出されていた。