「〈ゆきかぜ〉? 古代の船か!」
〈ヤマト〉第一艦橋で声を上げたのは真田だった。聞いた太田が「古代?」と言って、
だが、メインスクリーンに画像。戦没船〈ゆきかぜ〉の艦長として〈古代守〉に関するデータが顔写真と共に映し出される。
「古代守? 古代の兄貴?」
島が言った。それから真田に眼を向けた。真田が言った『古代』とは兄の方を指しているのだと合点はいったようすだった。だがなぜデータも見ないうちから、艦名を聞いただけで艦長の名がわかったんだ? そう
「どういうことだ? 〈ゆきかぜ〉に生存者がいた?」
「まさか!」新見が早速にも端末のキーをものすごい速さで叩いて情報を分析しながら言った。「あの船が沈んでもう一年です。その宙域からここまで流れてくるのに半年はかかります。人が生きていられるなんて……」
「じゃあ、あの轍はなんだ!」
〈ゼロ〉が送ってきた画像を指して言う。凍りついた船の残骸のまわりに無数の、車両や人の足跡らしきもの。
「わかりません。でも――」
と、そのときだった。沖田が叫んだ。
「待て! 相原、古代に伝えろ! すぐそこを離れろと!」
そしてさらに、
「南部! 試射を中止しろ! 代わりに対空防御用意だ!」
*
〈ゆきかぜ〉……兄貴の船……そしてそこに生存者が? 古代はなんとか乱れる思考をまとめようとした。しかしできない。できるわけがない。あの凍った船の中にいま兄貴が? しかしそんな――。
と、赤外線スキャナーが何かを捉えた。〈ゆきかぜ〉の艦内でエネルギーが高まりつつある。と言うことは――。
やはり人が? そう思ったときだった。相原の声が耳に聞こえた。
『〈アルファー・ワン〉! そこを離れろ! 繰り返す、すぐそこを離れろ!』
「え?」
と言った。そのときに見えた。〈ゆきかぜ〉艦橋の脇にある対空ビーム砲台が動くのを。それが狙うのは――。
この〈ゼロ〉だ!
さらにビームが次々と、〈ゼロ〉を追って放たれる。古代は機をひるがえして逃げた。低空へ。砂の丘がある。その向こうへ隠れてしまえばもう狙えはしないはずだ。
そして、このタイタンの大気……濃いもやのため、ビームの威力は地球の空などより早く減衰してしまうはずだ。この星ではビームの射程はかなり短い。だからちょっと離れてしまえば――。
と、思ったらレーダーがミサイル警報を鳴らしてきた。「ぎゃっ!」と叫んで急いで機を上昇させる。
〈ゼロ〉をめがけて飛んできたミサイルが砂地に落ちて爆発した。振り返って見る。〈ゆきかぜ〉のイボイボとしたミサイル発射口の蓋が次々に口を開けていくのが見えた。
まさか、あれ、全部でおれを狙う気か? いや、そんなバカなと思った。あれは対空ミサイルではないはずだ。そもそもミサイル艦というのは対地か対艦攻撃用に造られているはずのもので、それが動いているというのはつまり――。
思った。目標は〈ヤマト〉か! 次の瞬間、〈ゆきかぜ〉が強い光に包まれた。そして煙。無数の光がタイタンのオレンジ色に霞む空を突き抜け上に昇っていく。白い煙の尾を引いて――。何十基というミサイルが、はるか高くの宇宙にいる〈ヤマト〉めがけて発射されたのだった。