特にこれと言った点もなく、お暇があればどうぞレベルなのでお早めにお進みください。
-1の1-『ドラマーの集い』*
◇◇◇
ーーー【Drummer】 ーーー
バンドにおいて軸となりうるパートの担当者。ベースと合わせて、リズム体と呼ばれるドラムは他のパートが演奏しやすいように安定したリズムを刻むことが求められる。ついでに音だけは目立つ。またスペースを多くとってしまう為、ステージの後ろに配置されるのが定番となっており、ドラムはある意味メンバーの背中も観客の姿もくっきり観れる超お得な指定席でもある。
が、ドラマー自体の絶対数は比較的少ない方と言える。原因は数多く挙げられるが、特に殆んどのドラマー達が直面してしまうのが―――
練習場所どうしよう………である。
配置スペースの確保問題、騒音問題。その他色々。
大抵の人は近くのスタジオまで赴き、ドラム専用部屋で練習することが多い。とは言えギターやベースとは違い、家で触ることすら出来ない。上達には時間がかかる。
それでは何故、ドラマーは存在するのか。
―――勿論、叩くのが楽しいからだ。
自分の全身で刻むビートにギターやベースの音色が付き、そこにボーカルや観客のコールで一気に押さえきれない感情が昂ってしまう。一度味わってしまえば忘れることの出来ないその感覚を求めて、またドラマーと言うのはドラムを叩き初めてしまう生き物なのだ。
「―――ウ君。山吹蒼真く~ん?」
………うん。現実逃避はここまでか。
「なぁぁぁにかぁなぁ?」
「超不満げな返事だね」
隣に座る彼女に苦笑された。
彼女の名前は"山吹沙綾"。この集まったメンバーの中で唯一と言って良い、俺の友達である。後の人達は初対面、いや正確にはライブの時にお顔を拝見済みだから違うか。
「もう皆揃ったから始まるよ?」
「何が」
「えっと………ほら、自己紹介的な?」
「それもそうやな」
顔見知りとは言え、互いに名前すら知らない状況なので自己紹介は必須と言える。
ただ俺が最も気にしているのは自分のいるテーブルを囲んでいるのが―――
「これで………全員?」
「そうだよ?」
沙綾に確認を恐る恐る取ると、それが何か?と言いたげな返事をされた。君もその内の一人だから分からないだろうね。
自分を除いて、席に座るのは計五人。
まぁテーブルも大きめだからスペース的には平気。
問題は………五人とも女性だということ。若干一名イケメン風がいるので断定しにくいが。
なんともまぁオーラがやんわりと………的な感想を抱いている俺はガールズトークに巻き込まれた少年のような居心地の悪さにより、既に思考放棄しそうになっていた。
元々、予想はしていた。だって、ライブの時も控え室にいた男が俺らのバンドメンバーだけだったからだ。後から知ったけどどうやらガールズバンドのイベントにメンズゲストとして呼ばれたのが俺らのバンドだったようで。そういうの先に言おうよ。
沙綾経由に誘われた今回の集会もまさかあの時のライブに出たドラマー達が集まるのかな?とはうっすらと感じていたが………。
「んじゃあ、始めるか」
一人が立ち上がり、全員の視線がそちらへ集まる。俺の隣の人なので、ちょっと視線の場所が困る。
うん、イケメンだ。女性にこんなこと言うのは違うかもしれないけど彼女に対しての第一印象はそんな感じ。
「各々忙しいと思うけど今日は集まってくれてありがとう。まずはそうだな………自己紹介も兼ねて自分の名前と学校、それに折角だから一言付け加えても構わない」
え、なに言おう。
「まずはアタシから」
言い出しっぺの法則からなのか、イケメンさんから始まるようだ。
「名前は巴。宇田川巴。羽丘女子学園高等部一年。"Aftergrow"のドラムをしてます。ドラムは中学の頃からずっと。よろしくお願いします」
"Aftergrow"ってバンドは確か曲がロック調だったりポップ調だったり、と多彩な音色が印象的だったバンドだ。
パチパチ、と拍手音が飛び出る。
ん?………一年生!?
「時計回りにいくと次はジブンっすね」
続いて席を立ったのは眼鏡をかけた少女。
「羽丘女子学園2年生、後ろから読んでもやまとまや。大和麻弥と言います。"Pastel*Palettes"でのドラムをさせて貰ってます。一応プロのスタジオミュージシャンでもありますが………この前のライブで皆さんのドラミングを見せてもらってまだまだ未熟者と痛感しました!また、こうして同じドラマー同士が集まるのもジブンは初めてなので少し緊張してますが今日はよろしくお願いします!」
"Pastel*Palettes"は確かテレビでもアイドル達が立ち上げたとして話題になっているバンドだ。結成当初のライブでは色々問題も引き起こしていたようだが、この前のライブを見た感じでは十分彼女らの曲を楽しめるほど演奏技術は高いと感じていた。
大和さんのドラムは、徹底的にメンバーを支える、そんな雰囲気のドラムであったと感じた。流石、プロ。
「………わ、私の番………」
次は水髪のサイドテール少女。
「初めまして、松原花音と言います………」
おどおどとした態度の少女。ちらちらとこっちを見てくるんだが、そんなに俺が珍しいのだろうか。
「えっと………花咲川女子学園高校二年生で"ハロー、ハッピーワールド"のドラム担当です。よろしくお願いします………」
"ハロー、ハッピーワールド!"。
初見だったが、彼女らの演奏は個性の塊であった、と思わざるを得なかった。そもそもメンバーにDJが居るだけでもインパクトが強いのにそのDJがぬいぐるみで登場したもんだから違和感が凄かった。
が、実際は演奏が始まると全員の個性が混ざりあって奏でられ、一つの曲が成り立つのだ。世の中不思議なものだ。
「ふふふ………ようやくか」
ちょっと痛そうな予感。
「わらわは羽丘女子学園中等部三年、宇田川あこ、なるぞ!!我の属する"Roselia"では曲の魂を四肢を使い刻んでおる!!それから!!………それから………えっとぉ~」
ん?あれ、台詞が止まった。
と思ったら宇田川さんの方にその視線が流れていき―――
「お姉ちゃ~ん、何言えばいいんだっけぇ~」
「はぁ………あこ………」
「はっ!闇に飲まれよ!………だったかなぁ………?」
「恥ずかしながらアタシの妹でもあるのであこ共々よろしくお願いします」
「………よろしくお願いします」
姉の呆れた様子を悟ったのか、丁寧にお辞儀までして挨拶した妹。うん、良い判断だ。根は素直でいい子そう。ドラムも上手いし。
とは言え、"Roselia"はガールズバンドの中でも特に注目度がトップの実力派のバンドだ。特徴的なボーカルに負けず劣らずの楽器陣の演奏力の高さ。どれも取っても引けを見せない彼女達のライブは既にプロレベルに達していると言っても過言ではないだろう。
てか、まさかあの二人がドラム好き姉妹だとは。よくよく見てみれば、似てる部分も確かにあるかも。
「えっと………」
おっと、次はちゃんと聞かないと。どんな目に遭うのかは知りたくもない。
なんか彼女がチラッとこっち見たのは気のせい。
「山吹沙綾です。"popin'party"のドラムを担当させてもらってます。山吹ベーカリー共々ご贔屓のほど、よろしくお願いしますね」
「ちゃっかり宣伝してる………」
「何か言った?」
「いえ、何も」
もう完全に商売人の域じゃないですか。
そんな感想も隣の視線が怖いので静かに心の棚へそっと仕舞う。
「あ、 花咲川女子学園高校一年生ですのでお気軽に話しかけてください」
最後に付け足して、沙綾は着席した。
そして一気に浴びるのは女子ドラマー達の視線。
ついにやってきたのだ。俺の出番が。
「………ふぅ」
一呼吸して立ち上がる。
「山吹蒼真です。あ、先に言っておくと隣のこの野郎は従妹です」
「野郎じゃないから!」
「………そこ?………高校二年生でドラム歴は四年ちょい。今回、唯一の男性ということでどうか手柔らかにお願いします」
「あ、すみません。質問良いでしょうか?」
「うん?大和さんだっけ?どうぞ」
「麻弥で良いですよ。それで質問なんですが、山吹さんのバンドってもしかしてこの前ーーー」
「あ~その話は後でも良いかな?」
「えっ?あ、はいっす」
彼女には悪いけど、仕方ない。
勿論、理由があって今話すとややこしくなってしまう。
「自己紹介はこれで全員かな………んじゃ、皆さん。グラスを」
イケメンさんの合図に皆が各自注文しておいた飲み物が入ったグラスを手に取る。
「では………合同ライブの成功とドラマーの新たな出会いを祝って、乾杯!」
おぉ、粋なことを言うね。
無論、後に続く全員の言葉も自然と揃う。
「「「「「乾杯!」」」」」
-1の2- へ続く
次回は蒼真とそれぞれの子達の会話のシーンとなる予定です。
*誤字報告してくださった方、ありがとうございます。一応何度か見直してはいるものの、それでもありますのでお気軽にお願いします。
感想や評価の方もお待ちしておりますのでぜひ。