◇◇◇
スクエア。ライブスペース。
「はい、唯先輩。直りましたよ」
「ギー太~!!」
数分後。
黒髪ツインテール少女がギターをボーカル少女に引き渡す。
ずずっ、と鼻水を啜った彼女は高級な物を慎重に取り扱うかの如く丁寧にギターを抱き抱える。
黒髪ツインテ少女が香澄達の方へと体を向けた。
「ありがとうございます。弦の予備を此方で用意していなかったので本当に助かりました」
「ううん!!全然、気にしてないから!!」
ギターに張り替えられた弦。
他でもない香澄が日頃から所持していた予備の物を使用している。替えの弦がなく、困っていた彼女達に香澄自ら立候補した結果となった。
「ほら、唯先輩もお礼を言ってください」
「ありがとうー!!」
ぶんぶん、と手を振ってきた。
あまりの勢いにギターを落としそうになりつつ、誠心誠意見せるその姿に香澄も誇らしい顔つきだ。
ふんす、と鼻を鳴らした彼女は気を取り直して演奏を再開するようだ。
「じゃあ、今度こそいくよ!!"ふわふわ
弦に手が触れたその時―――
「緊急事態であります!!唯どの!!」
「な!?今度は何~!?」
「練習が終わる時間だ!!」
「時間?………うわっ!!」
ドラムとベースが間髪なく告げた。
ボーカルの彼女が時刻を確認すれば、顔色を徐々に青く染めていく。規定時刻の五分前には撤収完了していないとヤバい。
「ご、ごめんね!!今日は演奏見せられないかも!!」
「大丈夫です!!気にしないでください!!」
バタバタと慌ただしいステージ上。
演奏を断念せざるを得ない事態に香澄の残念そうな表情は浮かべず、意外な事に元気よく返事をした。
「残念だったね、香澄」
「ううん、そんなことはないよ?あの人達の演奏自体はライブ本番になったら聴けるから」
「は?………ってことは、この人達が香澄の言ってたバンドなのか?」
「多分!!」
「多分かよ!!」
「ポピパよりもなかなか癖の強そうなバンドだよね」
三人で会話をしつつ見守る。
先に片付けを完了させたであろう、一人の少女がその三人へと近寄っていく。キーボードを担当していた金髪のお嬢様風な女の子だ。
軽く会釈をした彼女はとある物を手元へと出した。
「お詫びと言ってはあれですけど………お茶でも如何ですか?」
「え?良いんですか?」
「はい!!私達も色んな人とティータイムを過ごせるのは嬉しいですから」
粋なお誘いだな、と有咲は思った。
「どうする?有咲」
「………行くしかねぇだろ」
有咲の視線の先は恒例の香澄。
まだティータイムが始まってすらいないのに、キーボードの少女と既に談笑している。
今更、誘いを断れる状況ではないのだ。
そして、沙綾もまたそれに気付いている。
「だね」
―――余談だが。
有咲が彼女の手に持つカップを下手をすれば高校生が払える額ではない代物だと気付くのは数秒、先の話であった。
◇◇◇
スクエア。休憩スペース。
「ではでは!!自己紹介タイムと行くぞー!!」
円形テーブルに囲んだ少女達。
緊張で顔色が悪そうな者、若干二名。期待感でキラキラとしてる者、若干三名。面倒ごとに巻き込まれたまま手遅れと悟った者、若干二名。なんだかんだ付き合いの良い者、若干一名。
計、八名がその場にいた。
先陣を切ったのは他でもない、おでこが可愛らしい勝ち気な性格を誇るドラムに座っていた者だ。
「はい!!戸山香澄、行きます!!」
「おぉ!!元気のある返事!!よろしい!!許可を出そう!!」
「………テンション高っ」
「今の律は明らかにドラムの叩き不足から来る消化不良って感じかもしれない」
「ちゃんと練習しましょうって言いましたよ、私」
同じテーブルでも派閥が見事に分離。
香澄を筆頭に元気いっぱいに振り撒く組も入れば、有咲のように冷静沈着に物事を捉える組もまたいる。
沙綾はどちらにも属さない。第三者目線で行方を見守るつもりであった。
「紅茶はいかが?」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
「で、では………美味しいです!」
「あら。ありがとうね」
同じ存在がもう一人居た、と沙綾は知る。
金髪にくっきりとした顔付き。丸っこい眉毛。おっとりとした雰囲気。
「私、"琴吹紬"って言います。ムギって呼んでくださいな。よろしくね」
「"山吹沙綾"です。こちらこそよろしくお願いします」
「ふふ、沙綾ちゃんね。名字も一文字同じでまさかの"吹"違いだなんて」
自然と交わされる自己紹介。
ムギ、と名乗ったその少女は慣れた手付きでメンバーの手元にカップを並べていく。
因みにさっきのやり取りを見逃さない者がいた。
「さーやー!!ずるいー!!」
「そうだよ!!ムギちゃんも!!何で先に仲良くなってるの!!」
ぶーぶーと騒ぐ似た者同士。
「はいはい。香澄から先にどうぞ」
「むぅ………まっいっか。"Popin'Party"ボーカルの戸山香澄と言います!!ドキドキキラキラを探して歌ってます!!」
「ポッピンパーティー?」
「………唯、"○□ライブイベ"の対バン相手にいるバンドだ」
「おぉ~」
物珍しげに眺める唯と呼ばれた少女。
どこか気の抜けた天然っ毛のある性格をしているようだ。
「○□ライブ?」
「ん?今度あるスクエアとサークルの合同ライブの対バンライブの企画名をそう言うんだぞ」
「そうだったんですね!」
「アタシは"田井中律"。さっきの見てるから分かると思うが、ドラム担当だ。よろしくな!戸山さん!」
「香澄で良いです!」
「おぅ!そっか、香澄!アタシの事もお好きに呼んでくれたまえ!」
「な、なら!りっちゃん!」
「りっちゃんだって~。私とおそろだね~」
「唯も名乗れ!」
「はーい。"平沢唯"で~す。ボーカルとギターをしてるのでよろしくね~」
怒濤の連鎖で繋がる会話。
そこに入る余地がなく、取り零された者達もまた自然と交わされる。
「三人寄れば文殊の知恵ならぬ混沌の嵐だな」
「ご迷惑かけてすみません………」
「あ、いや………そんなこと………ないです………むしろ此方こそご迷惑では無いかと………」
「え………あ………うん」
「澪先輩?どうしました?」
有咲はコミュ障である。
故に初対面の人と会話は苦手な部類に入るが、まさかの同族が向こう側にもいた。
「もう、しっかりしてください」
仲介役は黒髪ツインテールに任命された。
「えっと………"中川梓"と言います。パートはギターです。よろしくお願いします」
「ど、どうも………」
「それとこちらの方が"秋山澪"先輩です。ほら、残りぐらいは自分で言ってください」
「………ベース担当です。よろしく………です」
梓も一苦労である。
そして、有咲に危機的状況が襲来する。自分の出番が回ってきたのだ。
と、ここで女神的存在の登場。
「有咲?顔色悪いけど………大丈夫?」
「沙綾!!助けてくれ!!」
「えっ!?何!?―――あぁ、大体は分かったけど」
希望は彼女に託された。
パッと沙綾は状況把握を試みて、これまで培って来た経験を活かして行動へと移す。
「香澄と同じポピパのドラムを担当してます、"山吹沙綾"です。それとキーボード担当の"市ヶ谷有咲"です。同じバンド仲間同士、よろしくお願いしますね」
「はい!なかなか軽音繋がりで友達は出来なかったので嬉しいです!」
梓の負担も半減された様子。
コミュ力抜群の沙綾が早速切り込んでいく。
「あの、皆さんはどういうバンドですか?」
「"放課後ティータイム"って名前で普段からのんびりしてるバンド………かな?」
「残念ながら、はい、そうですね」
放課後ティータイム。
本人達も自負する程のお気楽な雰囲気を醸し出すバンドと言うが、果たしてそうなのだろうか。
「ポピパの皆さんはどういう?」
「私達、まだ組んでからそれほど経ってなくて………でも、音楽を楽しむって点では負けません」
「だそうですよ、澪先輩」
「って、言われてもなぁ………」
有咲がその時、気付いた。
「ふと気になったのですけど………先輩って………」
「あ、私以外全員
「「えっ………てっきり一年生かと………」」
"放課後ティータイム"。通称"HTT"。
まさかの―――先輩バンドでした。
-5の4- へ続く。
『補足、下手ですね………シリーズ』(前回も含め)
・放課後ティータイム
→学校の軽音部メンバーで結成されたバンド。普段から練習はサボりがち。けど、いざ本番では楽しい音楽を魅せてくれる。
"けいおん!"より特別参戦。
・○□ライブ
→CiRCLEのライバル的なポジションと考えて、語呂の良いスクエア(四角)が良いだろって決めたのがSquareRoadという名前の由来となります。
・中野梓
→あずにゃん!!あずにゃん!!あずにゃん!!
・今回はここまで!
→次回からはあの人の出番となります。
・作者の余談
→今回の対バンイベ、巴編-2-と少し似ている。後、"crowsong"はまだですか?てっきりアフロが登場するので追加来ると思ってました。